047.涙
すみません。
入院に、治療のための引っ越しと、いろいろ環境の変化がありまして、離れてしまっていました。
不定期になりますが、何とか、続けていきますので、これからもよろしくお願いします。
「佳月ちゃん、おいしい?」
「はい!とっても!」
佳月は上機嫌でスプーンを口に運ぶ。
(ん~~~~~!!!
このふるーつぱふぇというのは絶品ですっ!!!)
近隣にあるショッピングモールに来ていた。
朝からブティックを巡り、
ファッションショーさながらに着替えた。
かなり疲れたが、佳月は楽しくて仕方なかった。
さつきに、
「そろそろ、お昼だけど、佳月ちゃん、何が食べたい?」
と言われても、店の前に置かれている料理が
どれも美味しそうで決められない。
あれが偽り物なんて信じられない。
「ふふ。じゃあ、絶対に食べれないものにしましょうか。」
そう言われて、ぱすたに、はんばーがー、たこやき、
いくつもの店を巡った。
お腹がいっぱいなのに、いくらでも入ってしまう。
(天子様でさえ、こんな贅沢はできません!)
そして、今、食べている甘味ときたら!
こんなに砂糖をふんだんに使っている料理なんて、
初めて食べました!
さっきの料理も香辛料がいっぱい使われていました!
何て、贅沢を!
昨日の鰻も美味しかったです!
鰻といえば味噌味しかありませんが、
どちらかというと、滋養のために食べるもの。
味など二の次、泥臭さを味噌でごまかした料理のはず。
まさか、あのような、たれというものが!
ああ、思い出しただけでも、よだれが出そう・・・
それに、お母さまのお料理。
どこか懐かしい感じがして泣いちゃったけど、
本当に美味しかった。
「おい、あっち、あっちにあるんだ!」
何人かの男の子が叫びながら走っていく。
通路には途切れなく大勢の人が歩いている。
何て人の数なの!
これほどの人を見るのは、堺くらいじゃないかしら?
都でもこれだけの人が一所にいるのを見たことがない。
そして、この色とりどりの布や看板。
目が回りそうなくらい華やかで、
太陽かと思うような灯りも煌びやかで、
お母様がいなければ、とっくに気を失っていました。
さすがは460年後の世界です!
文雄の言葉が浮かんできた。
「君の言っていることが間違いじゃなければ、
永禄6年は1563年だ。
今2024年だから、461年経っていることになる。」
「それはどういう・・・」
「えっと、未来って分かる?」
佳月は首を振った。
「えっとね、明日は分かるよね? そして、明後日。
1年後、10年後と続いて、460年後が今なんだよ。
君がいた時代から、460年後の世界が今、ここなんだ。」
文雄は床を指した。
佳月は息を飲む。
「どういうことなの?あなた?」
さつきが不安そうに文雄に聞く。
文雄は自分の腕に置かれた、さつきの手を握った。
「私も言ってて、どうかと思うけど、
この子がおかしいようには見えない。
むしろ、とても頭が良さそうに見える。
この歳の子にしては、見たこともないほど落ち着いている。
佳月さん、今、どんなことが起こってる?」
「どんなことと、おっしゃいますと?」
「ああ、ごめん。伊賀辺りにいると言ったね。
尾張の方で、何か大きな戦が起きなかった?」
佳月の顔がパッと明るくなった。
「尾張の織田が桶狭間で今川を打ち破ったのです。
里中の者が、みんな、今川の勝ちと信じて疑わないのに、
里だけじゃありませんわ。世の人々です。
それなのに静馬様だけが織田の勝ちを見抜いたのです!
それはもう、神のごとき、眼力でしたわ!」
「ははっ、それは良かった。」
文雄は「歴史を知ってるからなあ」と苦笑いしたのだが、
そんなことを知らない佳月は「失敗した」と思った。
よりにもよって、静馬の両親に自慢してしまったのだ。
恥ずかしさで真っ赤になった。
目を開けていられず、両手をほほに当てて、
真っ赤な顔を少しでも隠そうとする。
その様子に、さつきはピンと来た。
(もしかして、この子。)
改めて女の子を見る。
かわいらしい系の美人だ。
かわいらしいのに、意思の強さなのか、
どこか、きりっとした顔立ちは和服がよく似合って、
それこそ、どこかのご令嬢というのがピッタリだ。
余程良い家の生まれと思わせるほど、
受け答えもしっかりしているし、何より落ち着いている。
控えめだが、内気ではなく、ちゃんと芯もある。
まさに、大和撫子のお手本とでもいうべき女の子だ。
(あらっ、この子、完璧じゃない?)
文雄が聞いたら、お節介はやめておけと言われそうだが、
最初から、気に入っていたことに気づいた。
なぜだか分からないが、特別な親近感を抱いている。
初めて会ったはずなのに、すごく懐かしいような、
実家に帰った時のような、不思議な感じがする。
「佳月さんと言ったわよね。
あなた、もしかして、静馬のことを・・・」
それを聞くと、佳月は真っ赤を通り越して、
頭が沸騰しそうなくらいになった。
どうしたらいいか分からないくらい顔が熱い。
「あの、その・・・、わたし・・・」
「どうなの?どう思ってるの?」
「ちょっと、おまえ。」
「ちょっと、黙ってて。大事なところなの。
で、どうなの?静馬とはどういう関係なの?」
「あ、あの、わ、私、静馬様と婚約を・・・」
消え入りそうな声で、やっと、それだけを言えた。
「ええ~~~~!」
文雄とさつきが叫んだ。
勇治は分かってない様子で、みんなの顔を見比べている。
「こ、こんな、かわいい子が静馬の許嫁なのか!」
「まーーー、じゃ、じゃあ、私の娘!?
ああー、なんてこと!うちに娘ができるのよ!」
「ちょっと、おまえ、落ち着け。」
「これが落ち着いていられますか!
こんな、かわいい娘ができるのよ!
私がどれほど娘が欲しかったと思ってるの!」
「わかった。わかったから、少し落ち着いてくれ。
ちょっと、いろいろ考える時間がいる。」
「えー、えー、ゆっくり考えていてちょうだい!
今日はごちそうよ!私は張り切りますからねー!
一緒にお風呂に入って、一緒の布団で寝て。
あー、何て、素晴らしいのー!」
「佳月さんがびっくりしてるじゃないか。
ともかく、落ち着け。」
ということがあり、文雄の言葉で、
大嶽の里へは次の土曜日に行くことになった。
それまでの間、さつきは上機嫌で佳月を連れ回している。
さつきは静馬のことは心配だが、佳月によれば、
「超能力もあり、剣の腕も免許皆伝。
里と言わず、近隣でも1番。」
らしい。余程のことでは負けないと聞いて、安心した。
心配だが、今は義理の娘(になる子)に会えたのが、
たまらなくうれしかった。
家族が男だらけのため、買い物もゆっくりできなければ、
ファッションについて話すこともできない。
勇治はそうでもないが、静馬は何を食べても何の反応もない。
無愛想でうるさがる静馬より、
目を輝かせて喜んでくれる佳月の方が、
世話のし甲斐があった。
何より女同士というのが、何よりうれしいことだった。
佳月にとっても、とても楽しい時間だった。
戦がどうの、里がどうのという話ではなく、
他愛もない食べ物や服の話は、
何も考えず、思ったことをそのまま話せるのは新鮮だった。
それに、初めて会ったとは思えないほど、
なぜか、さつきが身近に感じる。
「お母さま。」
「なあに、佳月ちゃん。」
このやり取りがとても好きだった。
さつきは静馬の母で、自分の義理の母となる人であったが、
両親に甘えることができなかった佳月にとって、
本当の母のような人ができたことを
とても幸せに思っていた。
「とても綺麗。」
通路を歩きながら、飾っている服を見ていた時、
一軒の店の前で足を止めた。
ぎやまんの向こうには、
真っ白な床まで続く長い服を着た人形が立っていた。
頭に被っている薄い布は、見事な刺繍が施されていて、
顔が透けて見えている。
よく見ると、袖にも同じような透かしの技法が施されて、
全体的に光を受けて、キラキラと光っている。
その美しさに佳月は目が離せなかった。
「ふふ。もちろん、気になるわよね~。」
さつきは、佳月の様子に満足そうだ。
目を細めて、しきりにうなづいている。
「これはね、佳月ちゃん。」
後ろから、佳月の肩にやさしく両手を掛けながら、
「結婚式で花嫁が着るウェディングドレスっていうのよ。
女の子なら誰もが夢見る、一世一代の晴れ姿なのよ。」
「これが・・・」
佳月はウェディングドレスを上から下まで見た。
白無垢に憧れていたけど、これも素敵。
「あ、そうだわ!
佳月ちゃん、着てみましょうよ!」
「え!? え!?」
強引に手を引かれて、店の中に入った。
20分後・・・
「キレイ!キレイよ!佳月ちゃん!」
「お母さま・・・」
あれよあれよという間に、着替えさせられ、
「お化粧もしてみましょうね。」と言われ、
店の人に化粧もしてもらった。
鏡に映った自分に笑ってみる。
夢の中のようだ。
結婚式。
静馬の隣で、幸せそうに笑う自分がいた。
ポロッ
「あ、あら、佳月ちゃん、嫌だった?」
さつきが佳月の涙をハンカチで拭く。
「ちが、違うんです。私、幸せで。」
「佳月ちゃん!」
さつきは佳月を抱きしめた。
佳月はさつきが抱きしめてくれたことがうれしくて、
また、涙を流した。
さつきも、店員までも、もらい泣きをしていた。
*---*---*---*---*---
「じゃあ、行こうか。」
土曜日の朝食後、文雄が出発の合図をする。
いよいよ、大嶽の里への出発の日だ。
佳月は、さつきと一緒に、後部座席に乗り込んだ。
さつきは佳月の手を握っている。
佳月は、少しでも早く静馬に会いたいが、
この手を放したくないという気持ちもある。
放す時を思うと、涙が出そうになる。
途中、車の窓から、浜の方に大きな車輪が見えた。
建築中の社のようなものもあり、大きな寺社をつくるのだろう。
そう思っていると、先ほどのは水車ではなく、
人が乗って遠くを眺めるものらしい。
じぇっとこーすたーというものは分からないが、
乗らない方が良いものらしい。
「ねえ、あなた。
帰るのは明日にして、今日は遊園地に行かない?」
「そんなことを言ってたら、
佳月さんがいつまで経っても帰れなくなっちゃうよ。」
「でも、二度とないことなのよ。」
「こっちは平和な時代だけど、向こうは戦国時代なんだ。
何があるか分からない。
佳月さんだって、一刻も早く、静馬に会いたいだろう。」
さつきの目から涙がこぼれ落ちる。
「お母さま。」
さつきと目が合った。
どちらからともなく、抱きしめる。
文雄も少し目頭が熱くなった。
だが、ハンドルを握りなおす。
3時間後、目的地に着いた。
集落の入口に車を停める。
「佳月さん、多分、ここが大嶽の里だと思うけど。」
佳月は辺りを見渡した。
あの川、あの丘、家がびっしり建っているせいで、
変わっているものが多いが、見覚えのある場所がある。
谷を覆う雰囲気は、慣れ親しんだ風景だった。
「ここです。ここが私の里です。」
里の入口から歩き出す。
10分ほど歩くと、家だと思われる場所に着いた。
小さい社が建っている。
「ここが私の家でした。」
境内に入ると、佳月は境内の一角が気になった。
何もなく、木が生えているだけの庭だったが、
何かが気持ちに引っかかってくる。
「ちょっと、お姉ちゃん、そっちは行かない方が良いよ。
ぼく、何だか気持ち悪いよ。」
勇治が腕をつかんだ。
文雄とさつきも気分が悪そうな顔をしている。
「大丈夫。」
そんな3人と対照的に、
佳月は、うれしいような、切ないような気持ちを感じていた。
近づくと、鈍く光る玉が現れた。
佳月が触れると、辺りを覆っていた気配が消えた。
「すごい!何、それ、お姉ちゃん!」
勇治が走ってきた。
もう気分が悪くはないようだ。
さっきの気配は何らかの結界だったのだろう。
文雄たちも寄ってきた。
「佳月さん、まさか、それが。」
佳月がうなづく。
「多分。不思議とこれがそうというのを感じます。
おそらく、念を込めることで、
動かすことできると思います。」
「ちょっと待ってて。車を回してくる。」
文雄は走り出した。
「佳月ちゃん、お別れなのね。」
「お母さま。」
途端に涙があふれ出す。
さつきの顔が見えなくなったが、
さつきも泣いていることがハッキリと分かった。
「お母さま!」
佳月はさつきに抱き着いた。
強く強く抱きしめる。
同じように、自分の体が包まれているのを感じた。
もう言葉にならなかった。
さつきの肩に顔を押しつけながら、
泣くことしかできない。
脇腹を泣きながら抱きしめてくれていることに
しばらくして気づいた。
兄弟のいない自分に弟ができた。
精一杯、笑いかけたつもりだが、
笑顔になっていたのだろうか。
「大丈夫。大丈夫だからね。」
「お父さま。」
いつの間にか、文雄が戻っていて、
佳月の肩を力強く叩く。
今度は、ちゃんとした笑顔を見せれたはずだ。多分。
「さて、そろそろ。」
いつまでも名残は尽きなかったが、
お別れしなければならない。
佳月は最後に笑顔で別れたかった。
呼吸を整える。
「佳月さん、静馬をよろしくな。」
「はい。お父さま。」
「会えてうれしかったよ。」
「私もです。」
「お姉ちゃん。ぼく、お姉ちゃんがお姉ちゃんで良かった。
それに、ずっと、ぼくのお姉ちゃんでしょ。」
「ええ。ずっと。」
「佳月ちゃん。」
「お母さま。」
「本当に、本当に、娘ができて良かった。」
「お母さま。」
これ以上、何かを言うと、涙が出そうになる。
佳月は鼻をすすり上げた。
さつきも涙がたまりそうになっている。
「静馬をよろしく頼むわね。
それと、静馬にいじめられたら、いつでも言ってきなさい。
あなたは私の娘なんだからね。」
「お母さま。」
もう涙を止めることができなかった。
もう一度、3人で抱きしめ合う。
出会えて良かった。そう思う。
「じゃあ、行きます。
本当にありがとうございました。」
佳月がそう言うと、佳月をまばゆい光が覆った。
来た時と同じだ。
佳月がそう思った瞬間、佳月の姿は消えていた。
「行ってしまった・・・」
「大丈夫。静馬たちなら上手くやるさ。」
「そうだよ!だって、お姉ちゃんは、
ずっと、お姉ちゃんでいてくれるって言ったもの!」
勇治の言葉に、さつきは泣き顔で微笑んで見せた。
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