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046.違った

相変わらず、物音一つしない。

静寂と言っていいほどの闇の中で、心臓の音だけがうるさい。

当然だけど、月もない廃墟で明かりなどは灯していない。

明かりは、人魂を頼りに動くみたいだ。

いなかったらどうするんだろうと思うけど、

必ずいると記録に残っているらしい。

葛葉がオレたちを囲むように、神社のしめ縄みたいに、

お札のようなものが貼られた縄を置いた。


「結界だ。」


(ああ。結界か。)


じゃないと、気づかれるよな。

ぼんやり見える破れた築地(ついじ)の間から、

雷蔵さんが頭を出して、通りの様子を窺っている。

その(せわ)しない様子から、いよいよだということが伝わってくる。


「来たぞ。」


雷蔵さんが小声で言う。

通りの左から来ているようだ。

鬼門とされた北東ではないような気がするけど、

来たんなら来たんだろう。

オレは築地の穴の左側にいる。

よほど頭を出さないと見れないので、クロを通して見ている。

遠くにぼんやりと明かりのようなものが見えた。


「静馬殿、霊獣を下げてくれ。」


雷蔵さんに言われたので、クロを築地の中に入れる。

見つかることを心配したようだ。


「まだか。まだなのかよ。」


青嵐は気が(はや)っているようだ。


「落ち着け。荷を持っているのは、普通、中団から後方だ。

 まだまだ先だろう。」


雷蔵さんが小声で青嵐に声を掛ける。


(こういう時、マイペースな紫雲は良いな。)


と紫雲を見ると、拳をしきりとグー、パーしている。


(おいおい、おまえもか。)


急に不安になる。

しかし、年上として落ち着かなくては。


「こういう時は大きく息を吸って、吐くを繰り返すんだ。」


オレが手本を示すと、青嵐も紫雲もマネをする。


「シッ。静かにしろ。」


雷蔵さんに怒られた。

結界があっても、騒ぐと見つかるらしい。

さっきまでの静寂が嘘のように、

ざわめきのようなものが聞こえてくる。


(緊張する。)


鬼は初めて見る。

餓鬼とはいえ、緊張しない方がおかしい。

落ち着かせようと、大きく息を吐く。

徐々に、そのざわめきが大きくなってきた。

かなりの数の鬼がいるようだ。


目の前を最初の鬼が通った。

と思ったら、鬼ではなく、提灯を持った裃姿の狐だった。

その後もゾロゾロトとほぼ1mほどの間隔で狐が続く。

どの狐も裃姿で、人と変わらない大きさだった。

狐が2列に並んで、先頭から10匹目くらいが通った時、


「ダメだ。今回は違った。」


雷蔵さんがため息をつく。


「何でですか?」


「もう、結界も必要ない。

 出て、頭を下げよう。」


雷蔵さんに言われるまま、築地から通りに出て、

築地に沿って一列に並んで頭を下げる。

狐たちはオレたちが出てきてギョッとした顔をしたが、

オレたちが頭を下げると、狐も返礼をした。


「狐の嫁入りだ。百鬼夜行じゃない。

 力を持った妖狐が嫁いでいくんだ。

 百鬼夜行じゃないのは残念だが、これはこれで幸運だ。」


「幸運なんですか?」


「そうだ。参列したら、祝ったことになる。

 何かの時に、この縁が活きるかもしれん。」


ちょうど、人力車ならぬ狐力車がやってきた。

朱色に輝く車は、高級そうな白無垢に身を包んだ白い狐が、

これまた朱色の番傘を後ろから差しかけられて座っていた。

朱と白のコントラストがすごい。


「これはすごいぞ!かなりの大妖だ!」


雷蔵さんが興奮している。

確かに、嫌な感じではないが、びりびりとした空気を感じる。

ダンプカーが近づいてくるのが分かる感じだ。

雷蔵さんが白い狐に向かって、また、頭を下げたので、

オレたちもそれに倣った。


「キレイな狐だな。」


改めて見た、オレの素直な感想だ。

聞こえたのか分からないが、

白い狐がこちらを見て艶やかに笑う。

狐のはずなのに、その姿は妖艶といった言葉が似合う。

狐力車の脇にいた狐に手で合図を送ったようだ。

その狐が寄ってきて、巾着を受け取った。意外に重い。

お礼を言って頭を下げる。

後ろは婚礼道具なのか、延々と長持などが続いている。


その時だ。


「ガーッ!」


振り向くと、築地の穴の先に大きな髑髏がいた。

何だ、何だと、雷蔵さんや青嵐が穴をのぞく。

向こうの築地、つまり、もう一つ向こうの通りにいるのに、

頭が築地の上に出ていて、屋根と同じ高さがありそうだ。

寝そべった格好でそれなのか。


「がしゃどくろだ!」


某妖怪アニメで見たことある。

そうかなと思ったけど、でかい。でかすぎるよ。


「倒すぞ!」


雷蔵さんの声で戦闘態勢に入る。

築地の穴に次々、飛び込む。

葛葉が金剛拳を放った時、築地の破片が飛んできた!


「避けろー!」


雷蔵さんの声が飛ぶ。

葛葉は金剛拳を放ってたので相殺した。

しかし、何もないオレたちを破片が襲う!

左耳の横をブロックくらいの破片が飛んで行った。

かすった耳が熱い。


「あいつは、嫁入り道具を狙っているんだろう!

 大妖の道具だ!

 中にはかなり強力な道具があるだろうからな!」


がしゃどくろが、また、左手を横に振る。

築地の破片が、また、オレたちを襲ってくる。

地面に倒れこんだ。

みんな、直撃を避けたようだ。

このままじゃ、ジリ貧だ!


「走るぞ!」


オレは叫ぶと、がしゃどくろとの距離をつめる。


ハッ!


左に飛び退いた。


ドンッ


大きな音がする。

がしゃどくろが拳を握りしめ、地面を叩いたのだ。

立て続けに、オレに向かって拳を振り下ろしてくる。


「もぐらたたきじゃねー!」


しかも、一撃でGAMEOVERになるもぐらたたきだ。

必死で避ける!

雷蔵さんが棒で上腕の骨を叩いた!

しかし、雷蔵さんを狙った腕が、

避け切れなかった紫雲を吹き飛ばした。


「紫雲!」


青嵐が駆け寄り、肩に腕を回して、

紫雲を家の陰に連れていく。


がしゃどくろが体勢を変える。

右手を振り上げると、残った築地を飛ばそうとする。


「金剛拳!」


右の手のひらに金剛拳が炸裂する!

勢いは金剛拳が勝っている!

てこの原理か、右手が肩口から折れ、後方に飛んで行った!

すかさず、オレは手をついた左手を七星刀で斬る。

がしゃどくろが横倒しになった。

だが、がしゃどくろの腕が元に戻ろうとしているのか、

少しずつ動いている。


「静馬殿!あれだ、あの黒いやつ!」


がしゃどくろの右胸に黒い炎のようなモヤモヤがある。

モヤモヤが斬れるのかは考えなかった。

オレは飛んだ!

上から七星刀を振り下ろす!


「手応えアリ!」


「ギャー!」


オレが叫んだ通り、がしゃどくろは悲鳴を上げると、

霧のように霧散した。


「終わった?」


周囲を注意深く見回すが、他に魔物の姿はないようだ。


「紫雲は?」


「大丈夫。」


紫雲と青嵐がやってきた。

紫雲は腕をさすっているけど、大丈夫そうだ。


「父上にこれを着て行けと言われたので。」


着物をめくったところにあったのは、

粗目の鎖帷子に革が縫い付けてあるものだ。


「東平さんらしい。」


剣を見ているが、基本に慎重かと思えば、

ここぞって時に飛躍する時がある。

鎧も本当にダメなところは革を当てているけど、

全部は覆っていない。軽量化のためか。

ここぞって時に動けるようにするためだろうか。


「それにしても、師匠、すげえな。

 あいつが師匠を狙ってた時は肝が冷えたけど、

 結局、あっという間に倒しちまった。

 おかげで、おれの出番が全くなかった。」


「それは済まなかった。」


口では余裕そうに言ってるけど、

かなり必死で避けてたんだけど・・・

あれを見て、戦いたいと言うのかね。


「ご苦労様でした。おかげで被害もなく。」


あの白い狐が後ろに立っていた。

急に声を掛けられたのに驚かなかったのは、

声が優しかったからかもしれない。


「それは良かった。大事な婚礼が台無しにならなくて。」


白い狐は笑った。

すべての花嫁はこうなのか?

微笑みを向けられたオレの心の幸福度がハンパない。


「これを差し上げましょう。」


「これは?」


占い師の水晶と同じようなものを手渡された。

中身は違うんだろうけど。


「ふふ。あなたが一番、欲しいものです。」


また、艶やかに笑うと、(すべ)るように(なめ)らかな動きで、

朱色の狐力車に乗り込んだ。

こちらに向けて、もう一度、微笑むと、

何事もなかったように、狐の一団は去っていった。


「あ、そういや!」


巾着を投げ捨てていたんだった。

ガレキの下に埋もれていたのを何とか発見した。

中を確認すると、じゃがいもみたいな金が3つ入っていた。


「さすが、大妖だ!大盤振る舞いだな!」


そうか。

言われて気づいたけど、これは行列に頭を下げただけだ。

討伐の報酬じゃない。

言わば、ご祝儀。

ご祝儀に桃缶くらいの金を渡したってことだ。

そう考えたら、すごいな!


2つとも大切に影収納にしまって、帰路についた。

逢坂山に向かうところで、

道から外れたところで手招きしている人がいた。


「気をつけろ、静馬殿。あれは、幽霊だ。」


葛葉もうなづく。


「体の線が透けている。」


そう言われればそうなんだけど、

師匠を見過ぎたせいか、特に不思議に思わないんだよな。


「何もする気はない。

 私は先刻、おまえたちと戦った髑髏だ。

 おまえたちを見込んで頼みがある。」


「ええっ!」


ええ、あ、あの、がしゃどくろがこの人!?

しげしげと見るが、小袖に袴という出で立ちで、

中肉中背、何なら、シュッとしたマッチョだ。


「失せろ!」


「身構えるのは分かるが、話を聞いてほしい。」


「どういった話ですか?」


「静馬殿!」


「とりあえず、話を聞いてみよう。」


一歩、踏み出たオレを雷蔵さんが止めるが、

敵意は感じない。

むしろ、切実な感じを受けた。


「感謝する。私の墓がこの先にある。

 その墓を掘り起こしてほしいのだ。」


「墓を?」


「ああ、そうだ。」


変な依頼を受けたと思って、雷蔵さんたちと顔を見合わせた。

でも、聞いちゃったしな。

気持ち悪いけど、今さら、嫌とは言えないよな。


10mほど歩くと、竹林が近づいてきた。

あちこちに、タケノコを通り過ぎた竹が生えている。

オレもじいさんの手伝いで知ってるけど、

竹ってすごいんだよ。

横に横に生えてきて、タケノコを作るんだよ。

タケノコって、叩いて潰しとかないと、

すぐに竹になるんだよ。

ほっとくと、すぐに手に負えなくなるんだよ。


「これだ。」


墓は浸食されようとしていた。

大きく育った竹が邪魔そうに墓石を押している。

墓石が何とか倒れるのを耐えている状態だ。


墓を掘り始めた。

率先して話を聞いたオレは腰が引けてるのに、

雷蔵さんたちは、さすがに、この時代の人たちだ。

淡々と作業をこなしていく。

土を除けると、木の棺が現れた。

ボロボロで辛うじて棺だと分かる程度だ。

蓋と思われる木の残骸を取り除くと、


「これは!?」


この幽霊のものと思われる骨が出てきた。

気持ち悪いと思っていたので、

こんな言い方もおかしいけど、普通でホッとした。

ただ、胸の場所以外は。


「そうなのだ。この竹のせいでな。」


墓石を押していた竹は、骸骨の胸を突き抜けて生えていた。

そして、竹林から、かなり離れたところに墓を移し、

石で骨を囲むようにした。


「家の者や家臣が甦りを願って念を込めてくれてな。

 願いに応えるべく、長い間、墓の中で力を蓄えていたのだ。

 しかし、この竹が邪魔だと思ううちに、

 悪い気の流れができ、あのような異形の姿になったのだ。

 なぜか、どうしても、この竹が抜けなかったのだ。

 それをおぬしたちが救ってくれた。感謝しかない。」


「いえ。これぐらい、いいですよ。」


「そういえば、妖狐から玉をもらっていただろう。」


「はい。」


「出してくれ。」


影収納から出すと、幽霊は手をかざした。

幽霊の手から、何かが玉に流れ込んでいる。


「私は、力を得たが、甦る鍵を持っていなかった。

 そのため、この玉を得ようとしていたのだ。

 しかし、この力は、最早や、私には必要ない。

 甦っても、待つ者もいないのだから。

 それなら、おぬしに使ってもらうのが良かろう。」


そういうと、幽霊は霞のように消えてしまった。

しかし、なぜか、オレには確信があった。

これは、キーアイテムだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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