045.百鬼夜行
佳月さんがいなくなって、1ヵ月になる。
その間、オレは闇雲に探した。
近くの山。
深い谷。
近隣の山という山はくまなく探したし、
当然、里の中も探した。
井戸の中をのぞくのはもちろん、
2軒先の水瓶の中までのぞいた。
そんなところにいるはずもないのに。
「静馬殿、あやが心配する。」
葛葉にそう言われて、家を空けるのは止めた。
しかし、討伐に出たついでに捜索を続けていた。
分かってた。
状況が状況だ。
探せるわけがないと分かってる。
しかし、もしかしたらという想いがじっとさせようとしない。
今では、草が風で揺れたのさえ、反応してしまう。
笑っている佳月さんが立っているのでは。
そう思ってしまう。
「静馬、佳月は生きているんだ。安心おし。」
「なぜ、分かるんです?」
「霊獣さね。
もし、佳月が死んでいれば、霊獣は消える。
そういう決まりだからね。
消したくなければ、死ぬ前に受け渡さないといけない。
それが消えずにずっといる。
おかしいのは、佳月が消えた場所にいることかね。
どれだけ離れていたって、見えない糸でつながっているんだ。
佳月の元に行こうとするはずなんだがねえ。」
その里長の言葉が決定的だった。
佳月さんの霊獣は、白、茶、赤、青、黄が揃ったが、
佳月さんが消えた場所から動かなかった。
オレの命令なんか聞きゃしない。
それで仕方なく、
オレとクロだけで里の周辺までエリアを広げて捜索した。
家を空けないが探したい。
それを両立できるのが討伐だったりする。
もし、過去に行き、里に来れるようなら、
佳月さんなら何かを残しているはずだ。
しかし、何も手掛りを見つけられなかった。
とすると、まさか、未来か。
未来なんて、どう確認するんだ。
「静馬殿、気を引き締めろ。
今度の討伐は、百鬼夜行だ。」
物思いに沈んでいたオレに雷蔵さんが声を掛ける。
「ああ、あれか。小っちゃい鬼がいっぱいいるやつでしょ。」
「確かにそうだが、おそらく、勘違いしているぞ。」
「何です?」
「多分、静馬殿が言うのは、魑魅魍魎だろう。」
「百鬼夜行と、どう違うんです?」
「魑魅魍魎は、物の怪の類を指す言葉だ。
百鬼夜行は、夜行とあるように行進しているんだ。
そして、百鬼夜行を横切ると、あの世へ連れていかれる。」
「は!?あの世に連れていかれる!?」
「正しくは、鬼に捕まるとですね。」
「なるほど。」
才蔵が補足してくれる。
「百鬼夜行がなぜ、夜行をするのかは分かっていないんです。
一説には、高位の魂を得るためとか、
減ってしまった地獄の亡者を増やすためだとか、
鬼にとって大事な何かを運んでいるためと言われています。」
「そいつらが運んでいるお宝を狙いに来たんだ。」
紫雲が話に入ってくる。
「そうだぜ。里の軍資金にするんだ。」
青嵐も話に入ってくる。
「一番の問題はあれだな。」
と、雷蔵さん。
「そうですね。」
才蔵も続ける。
「何です?」
「いつどこに現れるか、分からないんだ。」
「出会えないこともあるんだぜ。」
紫雲が話すと、青嵐も割って入ってくる。
里でも思っていたが、紫雲が何かをしようとすると、
青嵐が負けじと張り合おうとする。
雷蔵さんを見た。
オレの視線を感じて、雷蔵さんが苦笑した。
「それが一番の問題だな。
だいたいの、十年に一度くらいで起こってはいるが、
前に起きてから16年が経っている。
決まった周期ではないということだ。
また、場所についても、たいがいは京で起こるが、
ひどい戦いがあったところなどでも起こっている。
ただ、どういった理由かは分からないが、
灯篭の火が一斉に消えるとか、動物が急にいなくなるとか、
前触れのようなことが起こるから、
見当をつけて先回りしておくんだ。」
「それで、京まで来たんですか。」
「ああ。京は元々、陰の気が溜まりやすい。
古い都特有の停滞や退廃があるのに、
長い戦乱で人々の怨嗟も集まっているだろうからな。」
そう言っているそばから、
道端に座っている人がいて、顔は死んだように生気がない。
破れた塀の中に、明らかに死んでいると思われる人がいて、
無くなった手足から血が出ていなかった。
「それで寺社を多く建て、陰の気を祓っているんだ。
こういう陰の気を取り込めたなら、
とてつもなく強大な力を得るので、
怪しげな呪い師が時の権力者に取り入ろうとした。」
「玉藻の前ですね。」
玉藻の前は、日本の妲己だ。
美女の姿で国を操り、王に悪政を行わせることで、
民の悲しみや怨みという負の力を取り込もうとした。
「そうだ。あれは物の怪であったが、
こういう瘴気の集まりやすい場所は、
怪異にとっては、居心地が良いんだろう。
さて、百鬼夜行を知っているのはおれだけだ。
おれも若い頃の話だから、知ってるとも言えないが、
気をつけることを言っておこう。
相手は餓鬼と知って、気が緩んでいるだろう。」
(いえ。全く。 ああ、オレじゃないのか。)
雷蔵さんは、紫雲と青嵐、特に青嵐を見ている。
「餓鬼はふつうは弱い。
が、鬼は鬼だ。油断すると痛い目に合う。
一番の問題は数だ。
あっという間に体をつかまれて動けなくなる。
昔、何だと思う間に、おれは足にしがみつかれ、
腰もしがみつかれて、気づいたら夜空を見上げていた。
近くにいた東平さんが助けてくれたが、
おれの上に十数匹も乗っていたらしい。
一人になるな。絶対に、仲間の近くにいろ。」
紫雲は目をパチパチさせているだけでよく分からないけど、
青嵐が生つばを飲んだのが分かった。
オレも内心、ちょっと怖いんだけど。
「その時の恐怖で、おれはこの棒を持っているんだ。
乱戦で刀を振り回す場所がなくても、
この棒の長さなら振り回せるからな。
で、長さの不利を、この鎖で補っている。」
(なるほど。雷蔵さんの鎖棒にはそんな理由が。)
「話はそれたが、餓鬼の中に、たまに強いやつも混じっている。
まずいと思ったら逃げろ。これが大事だ。
戦い方のこつは、倒すより、追い払うんだ。
一匹に相対している間に、餓鬼につかまってしまうぞ。」
「そうか。広く見ていないと、
次々に来る餓鬼と戦わないといけないから。」
「そうだ。静馬殿。
濁流のように、後から後から、小さいのも大きいのも、
とんでもない数の鬼が来るんだからな。
素早さが勝負だ。横から風のようにかっさらうんだ。」
「なら、役目と狙いをハッキリさせた方がいいですね。」
オレの言葉に雷蔵さんがうなづいた。
「狙うのは挟み箱と長持。特に長持だ。
たいてい、この2つに金か、お宝が入っている。
いつも通りなら、この付近を鬼門から裏鬼門へ抜ける。
そこを、辻に隠れて、横切る。
おれが合図を出すので、
葛葉の金剛拳で餓鬼どもを追い払ったら、
おれと才蔵が斬り込むので、
餓鬼を追い払っているうちに紫雲と青嵐で荷を奪え。
殿が静馬殿だ。全体を見て助太刀してくれ。
大変だが、頼む。」
「はい。」
「速さと一塊で動けるかが分かれ道だ。
特に、青嵐。ちゃんと指示に従えよ。」
「紫雲にも言ってくれよ。」
青嵐が文句を言うが、紫雲は何も言わない。
この二人は同い年だから、普段から何かと比べられている。
ただ、マイペースな紫雲に、
青嵐が一方的に突っかかっているような感じだ。
「静かに。」
葛葉が声を上げる。
「どうした?」
「何だか、急に静かになった。」
「始まったな。」
葛葉の言う通り、静かになっている。
物音一つ聞こえない。
気のせいかもしれないけど、空気が重い気がする。
静かになったというより、押し黙ったというか、
何かが起こるのを固唾を呑んで待っているような雰囲気だ。
辻を2つ分、移動した。
「まだだな。霧が出ていない。
この様子だと、あと二時(4時間)というところか。」
塀の内側に隠れながら、雷蔵さんが言う。
4時間もあるのか。
オレの体感では22時くらい。
やはり、丑三つ時か。
「雷蔵さん。里ではいつも百鬼夜行を襲ってるんですか?」
「さっきも言ったが、だいたい十年に一度なんだが、
前に起きてから16年が経っている。
起きないことや、京ではなく、戦場で起きることもある。
なので、出会えることの方が少ない。
ただ、佐平次さんが今回は起こりそうだと言ってきた。」
佐平次さんは、討伐衆の年長者だ。41歳だったかな。
霧を発生させることができるようだ。
河内に討伐に行った後、京に寄ったら気配がしたらしい。
霧を操るから、霧の発生が分かるんだろうか?
時間があるなら、頭の中でおさらいをしておこう。
先ず、葛葉が金剛拳で開幕先制攻撃を行う。
蹴散らし切れなかった残りを、雷蔵さんと才蔵が追い払う。
その間に、紫雲と青嵐が挟み箱か、長持を奪う。
それを運び出している間、オレが殿で餓鬼どもを追い払う。
殿ってところが引っ掛かるけど、大役だ。がんばろう。
それに、葛葉や雷蔵さんたちが蹴散らしてくれてたら、
そこまで餓鬼がいないかもしれない。
一瞬で奪って、素早く逃げれば、大事にはならないだろう。
「静馬殿、静馬殿。そろそろだ。起きてくれ。」
雷蔵さんに揺り起こされた。
どうやら、考えているうちに眠ってしまっていたようだ。
伸びをして立ち上がり、屈伸をする。
「すげえな。おれは寝れなかった。」
青嵐が感心したように言う。
オレ以外の誰も寝ていなかったようだ。
そんな大したもんじゃないんだが・・・
「見ろ。うっすら、霧が出てきたぞ。」
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