042.新たな力
オレは、あの稲葉山の事件で新たな力を手に入れていた。
(黒影。)
オレの周りに螺旋のように黒い塊が現れる。
あの時、オレを包んだ炎のように。
里に戻ってから、充電期間のボーっとしていた時に、
自分の不甲斐なさを痛感した。
さすがに、あやに守ってもらうのは本末転倒だ。
こんなオレにだって、男としての意地もある。
多分。多少は。少しくらいは。
もう一度、原点に帰って見つめ直そうと、
久しぶりに、すっごい久しぶりにステータスを見た。
「何だ、これ?」
技能欄に、「黒影」と出ていたんだ。
「こくえい・・・」
ブワッ
「おおー!」
つぶやいた途端、
オレを黒い影のようなものが包んだので驚いたけど、
その後、いろいろ試して、
かなり使える能力だってことが分かった。
この黒影。ただ単に体の周りに出すだけじゃなくて、
オレの意思で姿を変える。
結界のように体を覆うこともできるし、
手のひらほどに圧縮すると、刀でも斬れないほどの硬さだ。
それじゃあと、ピンポン玉くらいに圧縮して、
勢いよく飛ばしてみたけど、板に穴が開くことはなかった。
板を弾きはしたので、それなりに打撃はあるみたいだけど、
基本、防御と考えた方がいいだろう。
オレの頑張り次第で、何分割かに分けることができるので、
空中に浮く足場にすれば、高いところも登っていけそうだ。
気を抜くと形が崩れるけど。
問題は、[黒影]の(クロ)の部分なんだよな。
これって、クロの能力ってことだよな。
クロが覚醒したかなんかで取得した能力。
それをオレが借りているってことになる。
それに、何だか、クロが大きくなってる。
子犬だったのが、成犬になったんだろうか?
大きさ的に、トイ・プードルくらいか。
とにかく、一回りでかくなった。態度も。
だから、何だか、感謝したくないんだよね。
里ではあやばっかりにくっついていて、
今もオレの周りにはいないし。
さて、新能力を試そうとやってきた仕事だったけど、
相手の河童が意外に良いヤツで、話だけで終わってしまった。
元々、悪さをしてるからって依頼じゃなくて、
「何かが住み着いたようだから調べてほしい」だったもん。
まあ、被害が無くて良かったとすべきか。
オレの懐に被害は出てるけど。
あれじゃ、報酬なんか取れないよね~。
あの団子、食うんじゃなかったなー。
葛葉にもおごっちゃったし・・・
割り勘にしときゃ、良かった。
でも、葛葉は「帰りに」と言ったけど、
「あっさり片付けてやる」と豪語したんだよ。とほほ。
「団子、団子が・・・ ブツブツ・・・」
「ハァ。」
隣で何故だか葛葉がため息をつく。
何もせず、美味しそうに団子を食べたくせに。
「待たれよ。」
帰っている途中、声を掛けられた。
オレたちの他には誰もいない。
山から出てきたばかりの道の上だ。
相手は、袴に刀を下げている。
どこかの侍か。
「何でしょう?」
警戒しながら、返事をする。
「わが師が貴殿とお手合わせをお願いしたいと。」
「えっ?」
お、お手合わせって何だ?
手と手を合わせて・・・???
声を掛けてきた男の後ろに、初老くらいの人が立っている。
「おい、静馬殿!」
葛葉が寄ってきて、腰に差したオレの刀を叩いた。
(あっ、そういうこと!!)
しまった。
普段は影収納に刀を入れているのに、
よりにもよって、腰に差したままだったんだ!!!
河童で気を抜いた。
団子のことしか考えていなかった・・・
師匠・・・?
若い、がっちりした人がもう一人いるけど、
師匠・・・じゃないよね。
やっぱり、初老の人?
白髪混じりの長髪を後ろで束ねている。
背もそれほど高くなく、飄々とした感じで、
とても今から刀を振ろうという人には思えない。
「いえ、これは護身用でして、
オレはそんなに腕に覚えがあるわけでは・・・」
「いや、そうではない。」
初老の人は想像通りの優しい声で語りかけるように口を開いた。
「その足の運び、体の使い方。
吾が知る、ある人物を思い出させる。
遠い昔、一度だけ戦っただけであるが、
今でも目の奥に焼き付いている。
貴殿は北斗を継ぐ者ではないのか?」
「北斗を知っているんですか?」
「やはり、そうか。
ならば、是非とも立ち合っていただきたい。」
「お、おい、静馬殿。」
葛葉がオレの裾を引く。
オレが足を踏み出したので、驚いたのだ。
実を言うと、オレは戸惑うどころか、乗り気になっている。
この初老の人に悪い感じがしないこともあるが、
剣を試すことのできる相手がいなかったからだ。
飢えていたと言ってもいい。
口にはしないけど、
師匠との実力差がいつまでも縮まらないと焦りを感じていた。
それは、いつしか超えられない壁のように立ち塞がった。
師匠は消えてしまった。
もう剣を交えることはできない。
その代わりにちょうど良いどころか、好敵手だ。
相手からは正統派という印象を受ける。
間違っても、勝つために卑怯なことをしそうな気がしないのも、
自分の腕を試す、またとない機会じゃないかと捉えていた。
この試合をすることで、
何か一つ、乗り越えられるような気がする。
「連れが心配してるので、できれば試合、
怪我なし、死人なしでお願いしたい。」
「本より。こちらも殺すことが本意ではなく、
ひたすらに剣の高みを目指しているだけのこと。
ただ、道を誤れば、その先に死があるのは勘弁願いたい。」
初老の男は楽しそうに笑った。
すらりと刀を抜き、
刀の先を地面につけるかのようにだらりと下げた。
力の抜けた、自然体。そう、自然体だ。
目をつぶったら、いることに気づかないかもしれない。
座禅を組んでいる僧侶かと思うほどに、何も感じない。
自然と溶け込むかのような自然さ。 ―――強い。
何だろう、この感じ。
怖いような、懐かしいような・・・
「葛葉、大丈夫だ。下がっていてくれ。」
葛葉を後ろに下がらせ、オレも刀を抜く。
相手の構えとも言えない構えに対して、
オレは正中に構える。
距離にして、2mか。
お互いが1歩踏み出せば、刀が届く距離だ。
(ん?)
間がわずかに詰まった。
(まただ。)
まばたきか。
と思った瞬間に、突きが飛んできた。
首を捻って躱す。
その左腹を風舞が襲う。
しかし、空を斬った。
「おおー!」
弟子から声が上がる。
予期していたようだ。
また、元の距離に戻っている。
「ふふ。強い。久しく逢うてないほどに。」
(くそ!まただ!)
まばたきの間に、間を詰められる。
下段から斬り上げられたが、右足を引き、半身で避けた。
その反動で、左手で首を狙おうとしたが、
相手の手首が返った。
(ヤバッ!)
折り返しの刀が空から降ってくる。
刀を両腕で持ち、受け止めようとする。
しかし、また、手首が返った。
オレの刀を避けた相手の刀が首に迫ろうとする。
オレはしゃがんで躱しながら、その膝のためを利用して、
渾身の白光を放つ。
しかし、相手は後ろに飛び退いた。
「これほどとは!」
相手が唸る。
「まだまだ、行くぞ!」
凄い。
流れるようにとはこのことかというくらい淀みがなく、
その一つ一つがオレを殺すために研ぎ澄まされている。
思わず、見惚れてしまいそうな剣筋だ。
「フー。」
息を吐いた。
相手も息を入れている。
何だっけ、ムリ・ムダ・ムラを無くすのが効率化だっけ。
ここと思うタイミングで、一直線に理想の刃が襲ってくる。
師匠とは違った解答だけど、
攻撃にしろ、反撃にしろ、いろんなアプローチが勉強になる。
途中から、何だか楽しくなってきた。
相手の顔が笑っていたけど、オレも笑っていたかもしれない。
気づいたことがある。
確かに、相手は師匠と伍するほどの実力者だ。
だけど、圧倒的に師匠と違っているところがある。
相手は生きている。
そうなんだ。
師匠と違って、生きている分、気配があるんだ。
これほどの達人だから、
モーションなんて全くないと思うだろうけど、
ホンのわずかに体の揺れが、空気の震えがあるんだ。
師匠のように静止画が攻撃してくるのとは全く違う。
ホンのわずかとはいえ、その分、オレが予想できる。
「う~む。この歳になって負けるとは思わなかった。」
「師匠!」
「いや、その通りなのだ。
最後の方は、全て避けられてしまった。
どんどん、砂が水を吸うかのように、技を盗まれてしまった。
このまま、続ければ、負けは確実だろう。」
ごめんなさい。それ、スキルです。
「いや。負けたとはいえ、実に楽しかった。
貴殿が腕を上げていくのが、
弟子の成長を見るようで楽しかった。」
相手が刀を鞘に納めた。
これで終わりということだろう。
オレも鞘に落とした。
「オレも楽しかったです。
師匠と戦えたようで、途中からうれしかったです。」
ああ、そうか。言ってて気づいた。
オレ、うれしかったんだ。
師匠を超えたいんじゃなくて、
また、師匠と剣を交えたかったんだ。
「それは良かった。それで、貴殿の師は今はどこに?」
「亡くなりました。流行り病です。」
「何とも惜しい。面白き男であったものを。
もう一度、剣を交わすのが望みであったが。
いや、弟子と戦えたことを本望とすべきか。」
何と言っていいか分からず、苦笑いした。
それに気づいたのか、
「そういえば、名乗っておらなんだ。
吾は、上泉伊勢守と申す。」
「あっ、すみません。オレは静馬って・・・
上泉伊勢守~!?」
「おっ、ご存じか?」
「ご存じも何も、新陰流ですよね?」
「知ってもらっているとは光栄だ。」
知ってるどころの話じゃない。
柳生に新陰流を教えて、柳生新陰流ができたんだよ。
つまり、柳生に伝わった新陰流って意味だ。
上泉伊勢守当人はそれほど知らないけど、
柳生家に新陰流を名乗ってよいというお墨付きを与えた人だ。
上泉伊勢守は笑顔で、
「おぬしの剣は北斗の型を超えつつあるな。」
「超える?」
「うむ。貴殿の師はどちらかというと攻めの剣であったが、
貴殿は守りの剣であった。後の先というべきか。
最初は体が強張っていたが、
足の運びが七つの星を象り始めてからは脅威であった。」
(意識したことないけど、七つの星を象る?)
「受けの剣であったのには間違いないのだが、
剣を交えるうちに、吾の剣を使い始めたのには驚いた。
つまり、守りの北斗流と、攻めの新陰流だな。」
師匠と戦う時は、
受けるのに必死で、攻めなんて考えれなかったから・・・
それで自然と受ける剣になったんじゃないかな。
師匠も容赦なく、どんどん攻撃してくるし。
それにしても、そんな意識はなかったけど、
オレが新陰流を使ってるのか。
つまり、源新陰流か!習うスキルすごいな!
「これは免状を書かんといかんな。」
包みから筆を出して、さらさらと何かを書いた。
(うん。全く読めない。)
もらったけど、達筆だ。
太いミミズと細いミミズがいっぱいだ。
ミミズだったら、オレも書けるかもしれん。
葛葉が横から食い入るように見ている。
「本当に真っ直ぐな男よ。貴殿のこれからが楽しみだ。」
そう声を掛けてもらった。
盛大に肩を叩かれたが、同時に温かさも感じた。
またの再会を約束し、上泉伊勢守一行と別れた。
「せ、静馬殿!」
「な、何?」
一行が見えなくなってから、
葛葉が、間違ったらキスしちゃうような距離にまで
オレに詰め寄ってくる。
手でバリケードしないといけないくらいだ。
「か、上泉伊勢守だぞ!新陰流だぞ!」
「うん。」
「何だ!その反応は!
静馬殿にとってはそうでもないのかもしれんが、
免状だぞ!免許皆伝のっ!」
「えっ、免許皆伝!?」
「そうだ!それは新陰流を名乗っても良いという免状だ!
勝敗はついていないにしても、
上泉伊勢守に負けたとまで言わせ、
新陰流免許皆伝の免状まで授けられるとは!
静馬殿は、当代一の剣豪と言っても過言ではない!」
「ちょっと待って、ちょっと待って!」
葛葉がすごく興奮してるので、逆に冷めた。
ちょっとヤバいことになった気がする。
認めてもらったことはうれしいけど、
剣豪になりたいわけじゃない。
有象無象が力試しに来られても困る。
急いで、影収納に刀をしまった。
「絶対に言うな。」
「でも、」
「言うな!」
葛葉に理由もしつこいほど言って納得させた。
だが、数日で里の主だった人が知っているのは
どういうことなんだ。
ジロッ
葛葉を見たら、佳月さんを指さされた。
「あっ、お洗濯、お洗濯。」
佳月さんはとぼけて、部屋を出る。
葛葉も一緒に出て行った。
あいつら・・・
しかし、確実に、何か、一つ越えた気がする。
何なのかを言葉にすることはできないが、実感があった。
佳月さんの想いに今なら応えられる。
と思っていた矢先に、事件は起きた。
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