表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/60

039.頼もう!

「あー。」


昨日、佳月さんに抱き着いて泣いたんだった。


ブワッ(恥ずかしい!)


顔が熱くなる。

多分、真っ赤になっているんだろう。

耳がすごい熱い。

あ~、うぅ~、起きたくないな~。


「おはようございます。」


台所に行くと、

佳月さんがいつもと変わらない笑顔で微笑んでくる。


「おはようございます・・・」


いつも、「おはよう」と言っていたくせに、

何とも締まりのない言い方だ。

笑顔を受け止めきれなくて、視線を逸らした。

佳月さんは普通に接してくれるけど、

オレが勝手にぎくしゃくしたままだ。

婚約者という仮の立場に甘えて、

ハッキリと返事もせずに、

何かあったら甘えるだけ甘える。

恥ずかしいより、情けない。


縁側に出て、気分を落ち着かせるために庭の木を見ていた。

稲葉山城のことを思い出すと、心がザワザワとしてくる。

後悔しかない。

焼け出される人たちの姿が浮かんできた。

城を燃やすことは、人が危険だということが分かっていた。

それでも実行したことが、オレの心にのしかかっていた。

やったことより、できたことが信じられない。

目を閉じて、気分を落ち着かせる。

オレを見つけたあやが膝に座りに来る。

頭をなでてやった。

しばらくそうしていたが、

急にオレの方を向いて、抱き着いてきた。


「おにいちゃんは、あたしが守ってあげる。」


そう宣言すると、どこかに行ってしまった。


(あやにまで甘えてるんだな。)


守るどころか、守られてる。

本当に情けない。

涙が出そうになった。


「よいしょ。」


佳月さんが隣に座った。

手でオレの頭を押し、自分の膝の上に寝かせようとする。


「男の人だって、泣きたい時があってもいいと思いますわ。

 女の膝はそのためにあるのですから。」


佳月さんが頭を撫でてくれている。

涙が出た。

肩が震えそうになる。

ひと撫でひと撫でが、オレの心まで溶かしてくれるようだった。


(オレはダメだな。)


中途半端。

責任も取れないくせに、

その中途半端さで、英雄気取りで歴史に関わった。

そして、無責任に、城にいた人を危険に晒した。

多分、死んだ人もいるだろう。

利害関係がない以上、オレが気分でしたことになる。

それはオレが考えなければいけないことだ。


そして、あの時、体を焼いた黒い炎。

あの炎は、オレの体の中から出ていた。

あれは何だったのだろうか?

何かに引きずり込まれているようだった。

ハッキリと地の底に堕ちるよう感じがした。

オレは一度、あきらめた。

そんなオレを師匠は救ってくれた。

現世にいなくても、オレを気に掛けてくれている。

また涙が出た。


それから、10日が経った。

縁側に座っていると、もう師走だ。

赤くなって風に散っていく葉を眺めていた。

最近、気づいたことといえば、旧暦だ。

欧米に合わせる前とは、確か、1ヵ月くらい早い。

1月、2月と言わず、長月とか、神無月とか言われても、

ハッキリ覚えてねぇーよ。

覚えてるのは、弥生、皐月、師走くらいだ。

あやと二人暮らしの時の延長のまま、

だいたいで月を数えてたから、大幅にズレている。

師走と言われて、やっと12月だと分かったのはいいんだけど、

いろいろ佳月さんに教わったら、

閏年って4年に1度、1日だけ増えるはずなんだけど、

3年に1回、1ヵ月増えるんだよ。

全然、意味、分からん。

12ヵ月で2年過ごして、急に1年が13ヵ月になるなんて。

1年で10日もズレてる暦って何なの?

師走って言われても、11月の可能性もあるのよね?

欧米の今の暦にしたって、

月間28日と30日と31日の違いってなんだよ。

2、4、6、とくれば、8にしろよ!何だよ、9、11って!


「頼もう!」


誰かと思ったら、あやだった。

縁側に座ってるオレの目の前に、腕を組んで仁王立ちだ。

勇ましいけど、頼もうって道場破りかよ。

吹き出しそうになったけど、あやの顔が真剣だ。

それに、後ろに、大勢の人たちがいる。


(どういうこと?)


あやがガキ大将のように、

子供たちを連れまわしているのは知っている。

しかし、大人の人数の方が多い。

しかも、男の人ばかりだ。

いや、女の人も混じってるか。

多くは討伐衆みたいだけど。


「いったい、何事・・・」


状況が呑み込めていないオレに、あやが無言で棒を持ってきた。


(マジで、本当に?)


頼もうって、本当に試合がしたいってこと?

よく分からないけど、まあ、試合くらいなら。

棒を受け取って、縁側から立ち上がった。

雷蔵さんや東平さんたちがニヤニヤと笑っている。

何なんだ、いったい。


庭であやと向かい合って立った。


(えっと、どうするかな。)


ボッ


(えっ!?)


瞬き。

そう。

目を閉じて、開いた時にはあやの棒が眼前に迫っていた。


(くっ!)


紙一重で首をよじって避ける。

白光か!?

喉への一撃。

まさに、白く光るがごとくだった。


ブワッ


鳥肌が立った。

無駄がない攻撃。

まばたきの間に、一直線に最短を飛んできていた。

鋭い!

首筋をかすっている。

ジンジンしている。


(こいつ、本当に子供か!?)


躱せたのは、師匠と稽古してたからだ。

モーションのない相手との0距離回避能力がなければ、

早々に決まってた。


「おおー!」


ギャラリーから歓声が上がる。

さすがに、あやの一撃が理解できているようだ。

それも束の間、


ボッ


第2撃が放たれた!

これも鋭い!

また、白光だが、オレのまばたきに合わせている!


(これ、偶然なのか?それとも、意図的に?)


また、首を狙ってきているのかと思ったら、

途中から、棒の先が下がった。

胴だ。

右肩を引いて、体を半身にして避ける。

避けられたあやの右手に力が入ったのが分かった。

オレの方に足を踏み込みながら、

風舞(撫で斬り)を繰り出してくる。

流れるような動きだ。

あやの間合いから逃れるために、後ろに飛んだ。

天雷(打ち下ろし)で追撃してくる。

それを半身になって躱しながら、あやの頭に一撃を入れる。


ゴン


「あっ!」


ヤバッ!

マジで叩いちゃった!

力は入れてないけど、木の棒だ。

痛くないわけがない。


「ヒッ」


みるみる、あやの瞳に涙がたまってくる。


「ヒッ」


ヤバい。充電中だ。


「うわぁぁ~~~ん、おにいちゃんがたたいた~~~!」


「ご、ごめん。」


棒を捨てて、慌てて抱き上げるけど、

あやは大泣きだ。


「ごめんね。ごめんね。」


あやは首に抱き着いて、大声で泣き続ける。


「うわぁぁ~~~ん!」


「ごめん。ごめんね。おにいちゃんが悪かった。」


「うわぁぁ~~~ん!」


「さすがだ。」


「やはり、師匠だ。」


「お嬢でも、やはり、師匠には勝てんか。」


ギャラリーから感想が聞こえてくる。

あやを抱いたまま、縁側に座った。

叩いたところを撫でてやる。


「静馬殿、さすがだった。」


東平さんが隣に腰掛けながら言う。

みんなも周りに寄って来た。


「何なんですか?みんなして、いったい?」


「わしらは、全員、お嬢に負けたのだ。」


「負けた?」


「そうなんだ。恥ずかしい話だが。」


東平さんが話してくれたけど、

ボーっとしていた1週間の間に、

あやは里中の人に試合を挑んでいたようだ。

オレの時と同じように、相手に棒を渡し、

一撃で勝負を決めてきたらしい。

一撃かよ。

いや、あの鋭さじゃあ、里の人じゃ、躱せない。

オレでも危なかったと言ってもいい。

それほどの剣だった。

それにしても、いつの間に。


「確かに油断はしていたが、

 そんなこと、言い訳にしかならんのでな。

 油断していようと、してなかろうと、

 お嬢の持っているものが刀だったら、死んでいた。

 わしらは確かにお嬢に負けたのだ。」


東平さんが豪快に笑った。

みんなも口々に「そうだ、そうだ」と言っている。

ちょっと、待って、待って。

もしかして、これ、みんな、あやの軍門に下ったってこと!?

それで引き連れて歩いてたの!?

みんな、子分になったの!?


「みんな、負けたんですか?6、いや7歳の子に?」


もう師走だから、12/24の誕生日がくれば7歳になる。


「お嬢は7歳じゃないだろう。多分、10か、11だぞ。」


「そうなんですか!?」


「他の子より体がかなり小さいが、

 前に、近江の方で起こった一揆の話が出てきたからな。」


あれ?そういや、あやは両手を広げていたかも・・・

オレが見た目で、5歳だと思ってたのか・・・


「静馬殿が討伐に行っている間、

 お嬢は一生懸命、棒を振っていた。

 ここ最近は、鬼気迫るといった様子だった。

 お嬢なりに、何か思うところがあったのかもしれん。」


「そう、ですか・・・」


あやを見た。

あやはいつの間にか、そのまま、寝てしまっているようだ。

みんなが口々に「良いものを見た」と言いつつ、帰っていった。

佳月さんがいつの間にか、オレの後ろ、座敷の縁に座っていた。


「あやちゃん、本当にがんばっていたんですよ。」


「そうなんだってね。」


「お兄ちゃんをあたしが守るんだって。」


頭を撫でた。

おまえ、宣言通り、守ろうとしてくれてるんだな。

うれしいと思うのと同時に、

いつの間にか、人を守ろうとする子に育ってくれて、

誇らしい気持ちになった。


その後、一ヵ月も掛からず、

織田が美濃を獲ったという噂が流れてきた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


みなさんの応援が励みになります。

良かったら、「ブックマーク」や「いいね」をお願いします。

是非是非、応援の意味で良い評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ