035.寄り道
勘違いがあったので、11月→10月(旧暦)に修正しました。
里に真っすぐ帰らず、
オレは知り合いに会うという理由で2人と別れた。
確か、日吉は・・・
おっと、日吉じゃない、藤吉郎だった。
確か、藤吉郎は桶狭間の頃に結婚したはずだ。
まだ、藤吉郎はペーペーだ。
信長のお気に入りになっているだろうけど、
まだまだ、噂が出回るようなレベルの身分じゃない。
近況が全く分からない。
もし、本当に結婚してたら、
一応、兄貴だし、酒か何か、祝いを持って行ってやりたい。
戦国統一の英雄というよりは、
日吉の頃の弟分という気分が抜けない。
2人は「一人は危険だから一緒に行く」と言ったけど、
3人で行くよりは目立たないし、
何より、葛葉の具合が心配だ。
動けるなら、里に早く帰った方がいい。
何とか説得して、二人の気が変わらないうちにと、
犬山周りで尾張に行くんじゃなく、そのまま、南に進んできた。
で、だ。
ここはどこだ。
さっさと分かれて、どんどん、歩いてきたのはいいけど、
自分がどこにいるか分からない。
ビルも何もないから、目印になるところがないんだよ。
せめて地図があればいいけど、そんなものはないし、
伊能忠敬が世に出るまで、縮尺や位置がおかしい地図しかない。
里にあるのを見せてもらったけど、
巻物に、宿場町を順番に書いてあるだけのものだった。
「山の中にいるけど、さて。」
山に入っちゃうと、ますます見通しが悪くなるし、
右か左か間違えたら大ごとだ。
―クロ、クロ。―
―何ですか?―
林の中からクロが駆けてくる。
―ここ、どこ?―
―ここは、美濃と三河の境くらいですよ。
あと、1~2日歩けば、信濃に出るんじゃないですか?―
―オレ、尾張に行くって言ったよな。―
―言ってましたね。―
―じゃあ、何で、信濃に出るんだよ。―
―知りませんよ。―
―知らないじゃないだろうが!おまえ、言えよ!―
―知りませんよ。主が歩いて来たんじゃないですか!―
―いや、おまえ、犬だろ!先導しろよ!―
―主がこっちの方に歩いて来たんだから、
何かあるのかと思うじゃないですか!―
―何だとー!―
―何ですってー!―
ふう。
すーはー、すーはー。
いがみ合っても仕方ない。
もう来ちゃってるもん。
オレも命令してなかったしな。
霊獣は基本、主人に逆らわない・・・
そんなことない気もするけど、
指示してなかったのは確かだし、次からは気をつけよう。
―今回はいい。オレも指示してなかったから。
だけど、尾張に行くと知ってたなら、
「尾張じゃなかったんですか?」くらいは聞いてくれ。―
―はい。―
四六時中、一緒にいるクロとケンカしたって意味がない。
お互いに悪いところがあれば、直した方が次につながる。
―じゃあ、尾張に向かうのは、どっちに進めばいい?―
―多分、こっち。―
多分か。
まあ、クロが正確な地図なんて知ってるわけもない。
おおよそでも方角を知ってくれているのは大変、ありがたい。
(後で聞いたら、星と潮の香りを基準にしてたらしい。
船乗りか?大丈夫か?)
やっぱり、三郎さんたちと途中まで一緒に行けば良かった。
でも、早めに別れたかったんだよな。
何だかんだ「ここまで来たら」みたいな雰囲気になると困る。
三郎さんも葛葉も、クールかと思ったら、
意外にぐいぐい来るし、人見知りなだけだったのかな。
クロと話して、だいたいの場所が分かった。
オレたちが討伐してたのは、加茂の下の方だった。
で、そこから、南下して、可児市に来たはずだ。
そして、この道を行けば信濃に出るってことは、
この道は中山道かもしれない。もしくは側道か。
なら、土岐市か、その下くらいのところに来たんだろう。
途中、迷いかけたところもあるから、
多治見市くらいの所にいるのかもしれない。
辺りはかなり暗くなっている。
今日は野宿だな。
道から外れて、林の中、岩の陰に隠れる。
(ここなら、道の様子も見えるし、
何かあっても分かるだろう。)
周辺をクロにウロウロさせればいいので、
オレが常時、気を張っておく必要がない。
今は10月と聞いているが、夜はかなり冷え込んでくる。
この間の稲刈りは9月にしたけど、
体感では、10月くらいにしか思えなかった。不思議だ。
凍えるほどではないけど、少し、夜風が冷たい。
(たき火はしておいた方がいいか。)
晩ご飯のために湯を沸かした火をそのままにする。
火が見つからないように、影収納から、
あやの村にあった家の雨戸などを取り出した。
2つを岩の前にトランプのように三角に立てかけ、
1つを入口に横にして立てかけた。
風が吹いたら倒れそうだ。
柱用に1本出しておいた。
「入口の雨戸が燃えそうだ。」
影収納から石も取り出して、かまどを作った。
雨戸の幅なので、オレにも火が近かった。
一度、道に出て、明かりが漏れていないか確認する。
大丈夫だ。全然、真っ暗だ。
「熱い。」
火が近くなったのと、雨戸が風を遮っているので、
雨戸の中が熱い。
といって、火を消すと寒くなるだろうから、
かまどの石を追加して、
直接、火が当たらないようにしてみよう。
こういう野宿は、これからもあるだろうし、
一回、テント的なものを考えた方がいいな。
それにしても、葛葉は大丈夫だろうか。
あいつ、口から血が出ていたから、
口の端を切っただけだったらいいんだけど、
内臓をどっか痛めたんじゃないだろうか。
戦いの後、少し具合も悪そうだったしな。
里に帰ると、なかなか、外に出る機会がなさそうだから、
ついでに寄り道をと思ったけど、
一緒に、一度、里に帰るべきだったか。
あの時間から帰ると、大垣くらいで夜になる。
野宿じゃなく、宿を取ってくれていればいいけど。
2人が襲われるという心配はしていない。
襲われても、そこら辺の盗賊じゃ、歯が立たない。
それぐらい2人の異能の力はすごい。
特に、三郎さんのスキルは、
見えてる範囲なら何人でもOKなんて反則だ。
知らない間に、幻惑を掛けられて、
思うように操られているなんて笑えない。
オレもすでに、なーんて、
・
・・
・・・
大丈夫よね?
オレ、女と分かった三郎さんが、
何だか、かわいいと思い出したけど、
スキルの影響で暗示に掛けられてるなんてことは・・・
明らかに、宇宙人とかが出てくればおかしいと思うけど、
日常の何てことない意識操作なんて、
オレは自分で分かるほど、どっちかというとニブい方・・・
―主!―
ハッ!
クロの声で我に返った。
―クロ、どうした?―
―大勢の人が来る。―
―何人くらいだ?―
―分からない。100人はいない。―
それなら、戦ってわけじゃない。
おそらく、盗賊。
―どっちの方からだ?―
―えっと、こっちの道。―
クロが右足を出した。
東南といったところだ。
とすると、三河側。
―近づけるか?―
―分かった。見てくる。―
クロが駆け出した。
300mほど進むと、松明を持った集団がいた。
男ばかりで27人。
手には鍬とか、棒を持っている。
槍や刀を持っている人もいる。
どう見ても、武士というよりは百姓にしか見えない。
ちょっと、怖い。
死者の群れ。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
松明に照らされた顔は、死人のように生気がない。
悲壮感というか、全てをあきらめたかのような顔は、
どうしようもなく、胸を締め付けられる感じがした。
集団は、オレの目の前を通っていく。
異様だと思った原因が分かった。
これだけの人数がいるのに、誰も声を出していない。
葬式かと思うような、静かな集団が、目の前を過ぎていく。
影収納に雨戸などを素早く仕舞い、後をつけた。
バレないようにと思ったけど、下を向くように歩いていて、
振り返る人間なんて誰もいなかった。
集団が左に曲がった。
5mほどの谷がある川沿いの道だ。
道があるのは見た気がするけど、何があるんだろう。
滝とかあって、何かの神事をするんだろうか。
その間にも、集団は静かに進んでいく。
何度も折れ曲がった道を300mほど進むと、
暗闇の中に集落が見えてきた。
(こんなところに家が。)
これだけ道から入ったら、気づかないのも仕方ない。
渓谷が急に開けたというような、谷に沿って家が建っている。
20軒ほどの家の向こうに、わずかばかりの畑がある。
寝静まっているのか、家々は真っ暗だった。
多分、20~21時くらい、寝に入った後っていう時間だ。
みんな、夢を見ている最中だろう。
住んでいないのかと思うほど、静寂に包まれている。
(この人たち、帰るところだったのか。)
集団は集落の入口で立ち止まった。
「行くぞ!」
集団の中から誰かが声を掛けると、一斉に走り出した。
半数は集落の奥に走っていく。
残りの半数が、家の屋根に手に持った松明を投げると、
屋根が燃え始めた。
辺りが明るくなっていく。
集落の奥の方も明るくなってきた。
ドン
一人が戸を蹴破った。
3人が家の中に入っていく。
「えっ!?えっ!?」
オレの驚きを余所に、
集団は次々と戸を蹴破って、家の中に入っていく。
キャー
ギャー
オレはガタガタと震えていた。
消したい記憶が甦ってきた。
あやは隠れていて、村の惨状を見せないようにもしたので、
もう悪夢を見ることがなくなったけど、
オレは何かの拍子に今でも夢に見る。
目の前の光景に、金縛りにあったかのように動けない。
悲鳴がしなくなった。
また、集落に静寂が戻ってきた。
集団が何かを運び出している。
米俵を肩に担いでいる人もいる。
「帰るぞ。」
また、誰かが声を掛けた。
持てるだけのものを持つと、
また、集団は何も声を出さず、歩き出した。
興奮するでもなく、淡々と人を殺して奪うことが恐怖だった。
―クロ、後をつけろ。―
オレは集団が去った後の集落に入った。
火の勢いがすごい。
海水でと思ったけど、影収納は出す量は上限がないけど、
家の上に出すようなことはできない。
火を消すには、オレが屋根の上に登らないと無理だ。
燃えていない家に入る。
頭を割られていた。それも何度も。
寝込みを襲われたからか、抵抗もなかったようだ。
血が池を作っていた。
子供も殺されていた。
次の家も同じだった。
燃えている家は分からないが、
助けを求める声どころか、
うめき声も、子供の泣き声も聞こえない。
皆殺しだ。
クロの位置を確認する。
1~2kmくらいのところにいるようだ。
なんとか感知できるけど、クロの様子は分からない。
位置は分かるけど、道が分からない。
暗い中、浅い川に落ちながら、時間は掛かったけど、
ほぼ一直線にクロのいるところにたどり着いた。
―クロ、どうなってる?―
―少し前から、宴が始まった。―
―宴?―
そのようだ。
村の中心でキャンプファイヤーを盛んに燃やし、
その周りで、女の人や子供も交じって、宴会の最中のようだ。
子供は横になっているので、寝ているのだろう。
盃のようなものを持っているので、酒を飲んでいるようだ。
そういや、樽のようなものを担いでいた人がいた。
ここは盗賊の村だったのか?
さっきと打って変わって、大騒ぎしている者がいる。
男も女も上半身が裸で、すでに抱き合っている人たちもいる。
まさに乱痴気騒ぎというのがピッタリで、
あんな略奪をしておいて、
これだけ騒げるということに胸が煮えくり返る。
全員を殺したい衝動に駆られ、足を踏み出しかけたが、
あやの顔が浮かんだ。
50人を相手にもしものことがあれば。
オレは手を痛いほど握りしめるしかなかった。
噴き上がるような衝動が収まり、
少し冷静さが戻ると、何か、様子がおかしい。
立ち上がって踊っている人が、なぜか、泣いている。
歓喜かと思ったけど、座っている人も黙々と酒を煽っている。
話を聞くと飛び出しそうになると思って、
クロを行かせなかったけど、行かせるも何も、
誰も声を出していないんだ。
初めから違和感があったけど、気勢を上げるとか何とか、
戦いに静かなまま行くというのは、
オレの感覚でいうと、何か、引っかかる。
いざという時に緊張するのは嫌というほど分かっているので、
その前にかなりテンションを上げて臨もうとする。
みんなが横になり始めた。
立っている者もなく、みんな、静かに寝入ったようだ。
しばらく様子をうかがってから、誰も動かないと見て取ると、
ゆっくり近づいた。
静かだ。鼾さえかいていない。
人々が寝ている前には、豪勢なほどの料理が並んでいる。
誰も動かないことをいいことに、
まだ燃えているキャンプファイヤーの向こうに、
祭壇のように置かれた品々に向かう。
多分、さっきの村の戦利品なのだろう。
樽がいくつかと、汚れた銅銭や銀の入った箱が置いてあった。
「ふん。金はあの村に返しておくぞ。」
影収納に金を入れた。
こいつらに使われるくらいなら、
受け取る人がいなくても、これぐらいは返すべきだ。
隣の樽が目に入った。
白濁しているので、酒かどうか確認するために、
柄杓ですくって匂いを嗅ごうとした。
―飲まない方がいいです。―
クロが慌てたように言う。
―飲まないよ。酒かどうか確認するために、
匂いを嗅ごうとしてたんだ。―
―それ、毒が入ってる。―
―ん?何が入っているって?―
―毒。臭いがする。―
寒気が足元から上がってくる気がした。
バッ、バッ、
辺りを見回す。
音がしない。
鼾どころか、息をする音さえしていない。
嘘だ。
胸が上下していない。
近寄って、口に手を当ててみるけど、風を感じない。
よく見ると、女の人や子供はビックリするほど痩せている。
アバラが浮き出そうなくらいだ。
(何で!?襲って、戦利品を・・・勝利の宴じゃ・・・)
分からない。
頭が割れそうだ。
オレの中で何かが渦巻いている。
張り裂けそうなくらい、何かが胸の奥で渦巻いている。
ここにいては駄目だ。
声が聞こえたような気がする。
逃げるように、その場を立ち去った。
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