033.川の中
翌日、調査を再開した。
三郎さん曰く、
「今年は、なぜか、魔物が少ない。」
ということだ。
今までに見たのは、水妖が3匹、ガマが1匹、
小さい女郎蜘蛛が1匹と河童が5匹。
「あっ、モガモガ」
大声を上げそうになって、三郎さんに口をふさがれた。
だって、河童だよ。
川といえば、河童でしょ!
興奮するなっていう方が無理だ。
河童は川原にのんびり座っていた。
子供くらいの大きさで、珍しそうにこちらを見ていた。
そんなに危険そうには見えないけど、妖怪は妖怪だ。
「見た感じでは、危険はないな。」
例年、少ない年もあるが、
それでも、ここまでではないらしい。
「倍はいる。」
マジですか。
これでも多いと思っていたのに。
どれも差し迫った危険性はなさそうだけど、
ガマと女郎蜘蛛だけ、
これ以上になる前に倒した方がいいと判断した。
ちなみに、水妖というのは、
水辺の魔物、主に幽霊とか、精霊系を指すらしいけど、
何だか分からないものも、とりあえず、そう呼ぶらしい。
それと、女郎蜘蛛。
この間、伊勢で戦ったのとは、かなり違う。
まんま蜘蛛なんだけど、成長したら、ああなるんだろうか?
「良かった。河童は大丈夫なんですね。」
「河童も増え過ぎたらな。」
「やっぱり、河童もですか?」
「危険ではないんだが、増え過ぎると、
遊びで下流にある堤を壊したりするんだよ。」
「そうですか。」
「河童には遊びでも、人にとっては問題だからな。」
そういや、小学校からの帰り道、
友達が道端の畑の柵を飛び越えれるかと言ってきた。
動物の侵入を防ぐような柵じゃなくて、
境界を印すだけに、園芸用の緑の棒を地面に2本刺して、
上にもう1本をひもで結んだだけの柵だったけど、
その友達が飛び越えれなくて、棒が折れたんだよね。
しかも、転がったから、畝もめちゃめちゃになったし。
規模や被害は全然違うけど、ああいうことなんだろう。
ただの遊びで、仮に悪気はなかったとしても、
被害を受けた方は笑えない。
「子供のしたことだから」と笑ってくれたおじさんは、
できた大人だったんだな~。
「女郎蜘蛛から討伐しよう。」
小さいといっても、幼稚園児の自転車くらいある。
普通に蜘蛛だ。
普通と言うには大きすぎるけど、蜘蛛でしかない。
「雷蔵さんから、土蜘蛛というのも聞きましたが、
女郎蜘蛛と何が違うんですか?」
「土の上にいるのが土蜘蛛で、水にいるのが女郎蜘蛛だ。」
へー、分っかりやすーって、まんまじゃん。
でも、この間のは、山の中だったけどな。
あれ?女の姿だったから?
「さて、簡単な仕事だ。
静馬殿、水辺を歩いてくれ。」
「で?」
「で、だ。女郎蜘蛛が足に糸を巻き付けてくる。
引きずり込まれる前に、逆に引き上げてくれ。」
「囮じゃねーか!」
「では、こうしよう。
静馬殿に縄を持ってもらって、反対側を私と葛葉で持つ。
静馬殿が引っ張られたら、三人で引っ張り上げるとしよう。」
いいよ。いいですよ。歩きますよ。歩きゃーいいんでしょ。
どのみち、囮なのは変わりませんし。
そりゃ、女の人にさせれませんよ。
すぐ上の岸を歩いてみるけど、
1回では無理で、5往復くらいして、やっと足首に糸が。
「来た!」
「こらえてくれ!すぐだと、離すかもしれん!」
足、もげそうなんですけど!!
糸がキュッと締め付けてくるので、まあまあの食い込みだ。
しかも、力が強い。
立ってられないので、両手で大きな石を引き寄せているが、
ぐらっ
おいおい、その石も動きそうだ。
グンとさらに力が掛かったのが分かった。
足首まで水に浸かりそうだ。
「今だ!」
三郎さんと葛葉が縄を引き始めた。
「い~、いててて!」
足、足首が大変なことに。
それに今度は引っ張られる手首が痛い。
意外に、意外じゃダメなんだけど、2人の引っ張る力が強い。
膝まで水に入りそうだった足が、徐々に離れていく。
「この~~~!!!」
女郎蜘蛛の姿が水面近くに見えたと思った時、
オレは思いっきり足を蹴り上げた。
女郎蜘蛛の一本釣りだ。
ぐぅ
釣り上げられた女郎蜘蛛が、背中から川原に落ちた。
背中を石で強打したようだ。
そこにすかさず、三郎さんと葛葉が刀で刺す。
女郎蜘蛛はそのまま絶命した。
「助かった~。」
オレは力をずっと入れていたのでガクガクだ。
それに、歯を食いしばっていたせいか、
喉が渇いて上手く声が出せない。
いや、多分、緊張だな。
囮にされていたんだ。
失敗したら、そのまま生贄になっていた。
必死で抵抗してたんだ。息も荒くなる。
「さすが、静馬殿だ。
あんなにあっさりと倒せるとは思わなかった。」
(あっさりじゃねぇ。)
「本当に。岸に引っ張り上げても、
もっと手こずると思っていた。」
(手こずってたの見ましたよね?)
「使えるな。」
「もう、やりませんよ!」
さらっと恐ろしいことを。
あんなの、二度とできるわけがない。
三郎さんがフフフっと笑ってるのが恐ろしい。
「さて、次はガマだな。」
「ちょっと、午後からにしません?」
「なぜだ?」
「いや、休憩が。疲れたんです。」
「仕方ない。休むが、長引けば、日が落ちる。
休むのは少しだけだ。」
それなら、明日にすればいいんじゃないかなーっと思ったけど、
まだ、朝早いもんね。
普通だったら、1時間目の授業くらいの時間だよ。
仕方ない。
腕と足をよおく揉んでおこう。
休憩後、川に沿って、少し下ってきた。
次の討伐はガマだ。
ガマか。
どんなのか分からないけど、要はカエルだろ?
軽自動車くらいの大きさがあるけど、熊よりはね。
「ガマって、やっぱり、人に悪さをするんですか?」
「ああ。人を食う。特に小さい子供が狙われる。」
うへぇ。食うのか。
さっきの女郎蜘蛛はまさに生き血をすするタイプだったけど、
普通に食う魔物がこんな人里近くに!?
そりゃ、退治しなきゃ!
「多分、魔物が少ないのは、このガマが原因だろう。
人や魔物とかを手当たり次第に食うからな。」
「じゃあ、放っておいたら、勝手に魔物を食べてくれるんじゃ。」
「人もな。」
「あ―。」
ガマは、昨日、クロが見つけた場所から動いていなかった。
三郎さんと葛葉が目配せして、川にゆっくりと潜っていく。
淵になっているので、流れはほぼないが、
対岸である、そこに行くまでは流れを横切らなければならない。
やっぱり、水の中は水の中だ。動きにくそうだ。
二人は二手に分かれて泳いでいく。
オレは昨日と同様に、何かあったら引っ張り上げる役目だ。
クロが二人の後ろをちょこちょこと泳いでいた。
二人は水面をガマから目をなるべく離さないようにして、
息継ぎしながら近づいていく。
水の中でガマはじっとしていた。
こちらに気づいていないわけはないだろう。
それにしては、目が虚ろな気がするけど、
ガマってあんなもんかもな。
キリッとしたカエルなんて見たことないし。
二人が潜った。
ガマまで5m。
様子を見ている。
三郎さんが葛葉に合図を送った。
人差し指を上に向ける。
葛葉が息継ぎのために上がった。
葛葉が二呼吸くらいして潜る。
交代で三郎さんが水面に上がる。
1分。活動時間はせいぜい、それぐらいだ。
速戦即決しかない!
同じことを思ったのか、葛葉が金剛拳を放った。
やはり、水の影響を受けているようではない。
昨日、
「そういや、クロの泳ぎが、
流れに関係ないようで不思議だったんですけど。」
「ふふ。静馬殿は知らなかったんだな。
霊獣とて全ての因果を曲げることはできないが、
霊獣に理は必要ない。
理があれば、そもそも、現れていない。
要するに、使う側の考え方次第だ。」
「じゃあ、オレがそうだと思わなければ、
クロが犬とは違って、空も飛べたりするってことですか?」
「私の金剛拳も、握っているが、平手にすることもできる。」
「それはちょっと違うんじゃ。」
というようなことがあった。
オレが常識を捨てれば、空も飛べるらしい。
ガマに金剛拳が迫る。
(こいつは当たった―)
と思ったら、すごいスピードで避けた。
泳いでいた。
霊獣ではないので、物理法則を無視できないようだ。
しかし、速いことには変わりない。
(あのスピードで避けれるの!?)
金剛拳が砂を巻き上げる。
砂と一緒に、白い骨のようなものが巻き上がったのが見えた。
ブワッと怒りのようなものが体から吹き出しそうになった。
ガクン
手に持った縄が急にすごい力で引っ張られる。
前に引っ張られたことで、ハッと我に返った。
大きめの石に足を掛けて、何とか引っ張られないように耐える。
ガマが舞い上がった砂で見えない。
どうやら、息継ぎを終えて、
刀を構えた三郎さんの足に絡みついたものがある。
ガマの舌だ。
三郎さんの足にがっしりとしがみついている。
オレとガマに両方から引っ張られているのもあって、
斬ろうとするけど、地上のように刀に勢いがない。
三郎さんはのこぎりのように引き切ることにしたようだ。
しかし、刃が入っていなさそうだ。
それを見た葛葉が短刀を突き刺し始めた。
これには堪らなかったのか、舌を引っ込めた。
ちょうど砂が収まって、ガマの姿が見えた。
葛葉が金剛拳を放つ。
「あっ、金剛拳は!」
叫んでも川の中に聞こえるはずがない。
また、ガマが見えなくなるんじゃないかと思ったら、
案の定、何もいない場所の砂を巻き上げている。
しかし、今度は違った。
ガマが水を吸い込む仕草を見せたと思ったら、
勢いよく吐いたのだ。
それが葛葉にモロに直撃した。
葛葉が宙を舞う。
吹っ飛ばされた葛葉を岩にぶつかりそうになる直前で、
何とか受け止めることができた。
「葛葉、大丈夫か?」
「ぐっ、ううっ、大丈夫だ・・・」
口の端から血が出ている。
どこか、痛めたのだろうか。
「強い!てっ、いうか、地形有利!」
オレは叫んだ。
それぐらい、地形的に絶対的なアドバンテージがガマにある。
「水の中は難しいな。」
三郎さんも水から上がってきた。
葛葉も起き上がってくるけど、苦しそうだ。
「大丈夫だ。」
「そんなわけはないだろう。少し休んどけ。
三郎さん、何か策を練らないと、かなり不利だ。」
「さすがは水の魔物というところだな。」
「いつもはどうしてたんですか?」
「ガマと水の中で戦ったことはないんだ。
川辺にいるところを仕留めていたからな。」
「じゃあ、出てくるまで待ちましょうか。」
「そうしたいが、いつ、出てくるかは分からないんだ。
元々が、水の中で獲物を待ってるような魔物だからな。
水を堰き止めて川の水を減らすということも考えられるが、
稲刈り前にもう一度、水を入れたいかもしれないし、
上流で止めれば、下流の斎藤家ともめるかもしれん。」
「ガマを倒すためなのに?」
「人間はそんなものさ。
大義より、いつだって自分の目の前のことだけさ。
これだけの川を堰止めするのは、かなりの規模になる。
人も時間も掛かるし、周辺の田畑も水の下になるかもな。
それに、そんな規模の堰止めをした上に、嵐が来れば、
すぐに決壊して、我らが洪水を引き起こしたと言われかねん。
ガマ1匹には見合わないな。」
「このままってことですね。」
まあ、そっかー。
木曽川を堰止めするって、ダム並みの工事が必要か。
水の量が量だしな。
小っちゃいため池くらいなら、すぐに一杯になっちゃうよな。
そこら辺の領主がガマ1匹にそんなに金も掛けれないか。
それに、ダムなんて作ったら、
田畑どころか、村だって沈んじゃうよ。
二人で腕を組んで考えるが、良い案なんて浮かんでこない。
「出てくるのを待つのはダメ。
水を減らすのもダメ。」
あと、何があるんだ~~~?
「杭を打って、範囲を狭めるのは・・・
淵だからって、川の中に杭なんて打てないですよね。」
「そうだな。川の中に入れたところで・・・」
ガバッと顔を上げて、三郎さんがオレの顔を見る。
何か思いついたのか、キラキラした瞳だ。
「何か思いついたんですか?」
「ああ。上手くいくかどうか分からないけどね。」
三郎さんは、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
「じゃあ、対岸、ガマの頭の上に行くとしよう。」
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