表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/60

030.桶狭間

「織田が勝ったそうだ。」


みんなが一斉にオレを見る。

そうだった。そうか、もう、桶狭間の時期なんだな。

何だか、風物詩みたいな言い方だ。

そういや、いろいろあって、すっかり忘れてた。

だって、オレは歴史に関わっていないもん。

人間万事塞翁が馬。

人間、なるようにしかならないと思ってるけど、

そういや、もう、そんな時期なんだ。

ホント、何にも考えてないなー。(タハー)


みんなが一斉にオレを見たのには理由がある。

オレは信長好きだ。

義兄弟になった藤吉郎には悪いけど、

信長・秀吉・家康の3人の中では信長だ。

で、今川対織田という、里でいつもの論争が起こった時、

オレは歴史を知っているので、

聞こえても口を出さないようにしていたんだけど、

してはいたんだけれども、

この話が出る度に、もう何度も何度も、

みんなが「今川」「今川」というものだから、

ついつい、「いやいや」と言っちゃったんだよね。

いや~、若かった。(一月前の話だけど。)


クドくなるけど、世の中の常識は今川なんだ。

駿・遠・三を従える大大名。

総兵力は2万と言われている。

北条と武田と同盟して後顧の憂いがない。

そのため、上洛軍は、そのほとんどを充ててくる。

それに、家格もある。

成り上がりなんかじゃない。れっきとした守護大名なんだ。

天下の副将軍とさえ呼ばれている。

駿府の都のような華やかさも噂になっている。

義元自身もそれに恥じない実力があるようだ。


それに引き換え、織田はと言うと、

総兵力は2千から3千。

しかも、尾張1国を支配しているわけじゃない。

そのため、守りに兵を割かないといけない。

というのも、織田は織田でも、信長の家は家臣の家臣の家だ。

それに、信長の評判が悪過ぎる。

みんな、自分より下を作りたいんだろうけど、

信長をうつけと馬鹿にしてたら、えらい目に合うよ?


だけど、改めて比較すると、

みんなが「今川の勝ち」というのも分かる。

国力、家格、人物、どれを採っても、

圧倒的としか思えない実力差だ。

歴史を知らなければ、オレも「今川」と言ってたと思う。


でも、言っちゃったんだよね~。


「いやいや、織田でしょう。」


と。そうしたら、当然、


「何、言ってんだ?」


ということになって、


「その心は?」


と聞かれるわけだ。

みんなが食い気味にぐいぐい来るので、ちょっと驚いた。

実際には、


「おいおい。どう見たって、今川の勝ちだろう。

 剣の腕があっても、兵法には暗いのか?」


こういうことを言われたんだ。

視野が狭いみたいなことを言われたら、

何だとテメーみたいになるんだけど、

正解を知ってるから、

「はい、はい。」って、とりあえず流すことができた。

知らなかったら「なんだと!」と確実にムッとしてた。

それぐらい、みんな、オレを小バカにしてきた。

小バカって一番、腹立つな。

あれ、なんか、モヤっと。

いやいや、気のせいだ。


みんな、知らないもんな~。

今川の勝ちは確定で、織田がどうなるかというより、

斎藤や六角がどうなるかが議論の中心だ。

織田なんて眼中にない。

どう考えても、何言ってんだ、こいつってなるよ。

引っかきまわしただけでしたね。

余計なこと、言わなきゃ良かった。(タハハー)


「黙りなさい!静馬様の言に異を唱えるつもりですか!」


オレは「あっ、もう、口出ししない方が良いな」と、

後ろに下がるつもりでいたのに、

オレの服の裾をぎゅっと握った人がいる。


「えっ、か、づきさん?」


一瞬でシーンとなるし、空気が張り詰めたのを感じた。

佳月さんは、声を掛けるのもためらうほど、怒り心頭だ。

体から、何か出ているんじゃないかと思うくらいだ。


「静馬様が『織田だ』とおっしゃるのでしたら、

 織田なのです!

 それに異を唱えようなどとは、恥を知りなさい!」


「ちょっと、佳月さん、そこまでじゃないから!」


「なぜです? 静馬様を侮るなど、あってはならないこと。」


「佳月さん、もういいから。」


なだめるけど、佳月さんは止まらない。


「静馬様が、今から理由をおっしゃいます!

 心して聴くように!

 さ、静馬様、どうぞ、この、何も分からない者たちに

 教えてやってください。」


こえーよ!

空気がこえーよ!

佳月さんが煽るから、みんなの目が突き刺さってくるもん。

顔が真っ赤だよ。赤鬼だよ。


「まあ、ちょっとお待ち。

 静馬、織田が勝つのに自信があるのかい?」


長老が口を開いた。

残り2人は滅多に口を開かない。

特に、おばあさんの方は声を聞いたことがない。

置物のようだ。


「織田が勝つと思います。」


「理由は?」


え~っと、何だっけな。

あの本、何て書いてあったんだっけ?

とにかく、それらしいこと言わないとな。


「兵力が違うといっても、尾張までに城や砦は多くある。

 城攻めには10倍の兵が要ると言います。

 今川は2万と言われていますが、一部は守備に残します。

 仮に1万5千人で上洛したとしても、

 1つの城に1,000~1,500人を割くと、

 10も城があれば、手元にわずかしか残らなくなる。

 兵力の差はなくなります。」


「しかし、織田だって、守っているんだから減るだろう?」


誰かが声を上げる。

もっともな質問だ。

同じように人を割いたら、結局、同じだけ減る。


「それはそうです。同じように割けば。」


「まさか、割かないのか?」


「それは分かりません。

 しかし、地の利は織田にあります。

 そうやって城攻めに分かれた軍を各個に襲うこともできる。

 オレも5対1なら無理かもしれないけど、

 不意打ちで1対1を5回するなら勝てるかもしれません。

 隙だらけの本陣を衝くことも。」


みんなが「うん?」という顔をした。

それもアリだと思ってくれたのだろうか?

少し空気が和らいだ雰囲気になったのを感じる。


「もう1つは性格。

 今川は武将としても優れていると聞いていますが、

 能など、都のような暮らしをしていると聞きます。

 それに対して、織田は鷹狩など、とにかく体を動かしている。

 うつけだと言われていますが、オレはうつけと思っていない。

 あの先代が、ずっと廃嫡しなかったんです。

 オレは何も知らない民より、先代の信秀を信じます。」


みんなが考え込んでいる。

「そうなんだ。それが不思議なんだ。」という声も聞こえる。

主家を乗っ取り、尾張半国を手に入れ、

西三河や一時は大垣まで手に入れた。

信秀は油断のならない男、

何をするか分からない男という評判だ。

乱世の申し子のような男が、信長を廃嫡しなかった。

それどころか期待していた感じもある。

みんなが不思議に感じるのも当然だろう。


「なるほど。賭けるかい?」


そう言われたのが1ヵ月前。


「じゃあ、約束通り、オレとあやは免除ということで。」


「ああ。分かってるよ。

 どのみち、討伐衆は免除だし、佳月の婿だからね。」


「えっ?そうなの?」


「まあ、いいじゃないか。あやの分は勝ち取ったんだから。」


「まあ、そうか。」


オレは織田の勝ちに農作業を賭けたんだ。

ただ、討伐衆は免除なんて教えてくれてない。

そこはフェアじゃないが、

オレだって知ってるってことを言っていない。

まあ、そうか。

逆を言うと、農業してる人に討伐は無理だ。

そりゃそうだ。

ちょっと考えれば分かることだった。


ということで、あやは一生、免除される。

全く手伝わないわけじゃないが、

気が向いた時だけというのは気が楽だ。

それに、相手も、オレが討伐依頼をガッツリ受けるみたいな

条件を出してきたんだ。おあいこだろう。


それもあってか、あやは、みんなに「お嬢」と呼ばれている。

元々は、時々、オレがふざけて呼んでいたんだけど、

佳月さんが妹分として扱ったこともある。


「あやちゃんは、静馬様と血がつながっていないので、

 この里での扱いが少し難しくなります。

 私の妹ということにしましょう。」


どういうことか分からなかったけど、

佳月さんという後ろ盾ができるのは、あやにとって大きい。

オレのような根なし草より、この里では(れっき)とした姫君だ。

多分、今は佳月さんの婿であるオレの妹としているが、

オレにもしものことがあった場合、

あやは何の関係もない、それこそ、よその村の子だ。

扱いがそれなりになるということだろう。


佳月さんは「姫様」と呼ばれている。

妹分とはいえ、あやも同じ呼び方はできないので、

みんながどう呼ぶかを悩んでいたこともあって、

オレがちょうど提供したような格好になった。

実際には、オレが手伝いに出掛けると、

一緒に手伝うので、お嬢でも何でもないが、

あやが気に入っているので、いいかな。


で、困ったことが。


「静馬殿、さすがですな!」


「あ、静馬殿! 某にも兵法を教えてくだされ!」


オッサンが「教えろ、教えろ」と迫ってくるのは勘弁だ。

もー、ぐいぐい、ぐいぐい来る。

近い。近いって!


剣を教えたら、戦術の専門家のように勘違いしている。

オレは兵法家でも、戦略家でもないっちゅーの!

歴史を知ってただけ。普通の高校生だって。

剣だって、あやを助けたら、師匠がついて来たんだって。

成り行きというか、おまけというか、

そんな大した実力もないんだ。


聞いていて分かったが、剣術を知っている人は、

なぜか、戦まで精通していると、みんな、勘違いしている。


剣術は1対1で戦うために、勝つために編み出された。

勝つことに特化したサラブレッド的なものだ。

それを突き詰めると、2対1でも戦える。

剣術以外に戦い方を考えていくはずだからだ。

そうなれば、さらに、5対1、10対1、

100対1って、それって、もう戦じゃん!


ということだ。

兵法万能論って正気か?

100対1の前に、2対1もないよ。


それに、また、佳月さんの機嫌が悪い。


「キャー、静馬様、すごかったんですってねー!」


女の子の声援は気持ちがいいが、

こちらもベタベタと体を触ってくるほど距離が近い。

オッサンに取り囲まれるより、はるかに良いけど、


「静馬様、私という者がありながら!」


と、佳月さんは激オコだ。


「そりゃ、少しは鼻の下が伸びてたかもしれないけど、

 正座でお説教はないんじゃないだろうか。

 だって、オレから近寄ったわけじゃないんだよ。」


キッ!


「いえ。済みません。

 以後、気を付けます。」


怖い。あれは本気の目だ。


「ねぇ~、静馬様~。

 あたしのところで、酒でも飲んでいかないかい~?」


「あや、モノマネはやめなさい。」


「どうしても来てくれないのかい~?

 あたしはさびしいんだよ~。」


「だから、やめなさい。」


ストレートに誘ってくる人が増えた。

それを一緒にいたあやが、無い胸を強調しながら真似をする。

最初のうちは噴き出してたが、


「あやちゃん、それ、誰がしていたんです?」


と、あやから聞き出そうとしている佳月さんの顔が怖い。

佳月さんに聞かれる前に止めるようにしているけど、

子供は止められると、調子に乗るんだよな。

あやのブームが過ぎるまでを何とか乗り越えたいけど、

空気がピリッと張り詰めるので居たたまれない。


それに、最近はあやまで機嫌が悪くなる時がある。


「ほら、静馬様に抱き着きなさい。」


「おとうさん~。」


あんた、何、させてるの!?


ドン!


「うぇぇ~ん!」


「ちょっと、あや。押したりしたら危ないよ。」


「べーっだ!」


母親が急いで我が子を連れ帰る。

最近、こういうことも増えた。


「はぁ。討伐がないかな。」


世のお父さんが仕事一筋になるのも分かる気がする。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


みなさんの応援が励みになります。

良かったら、「ブックマーク」や「いいね」をお願いします。

是非是非、応援の意味で良い評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ