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027.2回目

さて、2回目の討伐だ。

ケガが治ったと思ったら、すぐに仕事って。

全く、人使いが荒い。

抜糸の後、佳月さんが何度も確認してくれたけど、

痕は薄っすら白い線があるくらいだったので良かった。

葛葉、案外、できる女だ。

よし。気合い入れて行きますか。


そういや、依頼って、思ったよりはなさそうだ。

そりゃそうだ。

日本のあちこちで妖怪大戦争が起こってたら、

人間は生きていけないな。

日本全国で見れば、毎日、それなりにあるみたいだけど、

この里が全てをカバーできるわけじゃない。

飛行機も新幹線もない時代だもの。

盛大なお見送りが出そうなほどの大変な旅になる。

今生の別れと泣かれたり、万歳三唱なんてされた日にゃ、

恥ずかしくて引きこもるかもしれん。

仕事に行くことより、そっちの方が嫌かも。


そういうことで、近隣の問題を片づけるのが、里の仕事だ。

近隣と言っても、東海地方、中部地方、北陸、近畿と、

なかなかの広さだ。

ただし、地域の依頼を全部を受けるわけじゃなく、

派遣できる人員に限りがあるから、

報酬が良いものを優先的に選ぶ。

しかし、報酬が良いものは、

それなりのレベルの依頼になってしまうから、

損耗が激しくなるので、さらに依頼を選ぶようになる。

何か、スパイラルっぽいな。

ただ、負傷したオレにはよく分かる。

アレ(女郎蜘蛛)とボランティアでは戦えない。


今回の討伐は、佳月さんが大騒ぎだったので、単独じゃない。

三郎さん、才蔵と、佳月さんに睨まれた葛葉がいる。

葛葉は、佳月さんの護衛のはずなのに、

オレと一緒にいるのは大丈夫なのだろうか?


で、三郎さん。25歳らしいけど、


パチッ


目が合った。


(くぅ~、イケメンめ!)


ちょっと目が合ったオレが、男なのに気恥ずかしい。

背もオレほどはないけど高い方だし、一見、細身なんだけど、

この仕事するんだから、筋肉がないことはないだろう。

そして、この切れ長の目。

まつ毛も長いし、目を伏せてたら、女かと思うよ。

寡黙なのも手伝って、愁いを帯びているようだ。

そりゃー、落ちるってもんですよ。

何が?何がって、ねえ、あなた。

男のオレが見たって、すげぇなと思うくらいだもの。

どっか抜けてたら・・・

それはそれで、女の子がどうにかしそうだ。

まあ、いいけど。


「何だ?」


「いや、何でも。」


振り返ったら、(とが)められた。

葛葉は少し後ろを歩いてきている。

年齢とか、ちょうどいいくらいかと思ったけど、

人のことなんて、余計なお世話だな。

それにしても、こいつ、いっつもケンカ腰だ。

うん。思い当たることしかないな。


才蔵は官僚とか、事務方が似合いそうだ。

真面目にコツコツするタイプっぽく見える。

年下だからか、オレに対して丁寧な言葉使いだ。

話し掛けると、ハキハキした受け答えで、

決して堅物ってわけじゃなく、

体育会系っぽいノリもあったりするけど、

聞かれれば答えるけど、自分からは余り話さない。


なので、結構、歩いてきているけど、道中ほぼ無言。

葛葉もあんまり話すタイプじゃないし、

オレも話題がないし、そもそも接点がないし。

それどころか、ボロが出そうだし。

オレ、お兄ちゃんなので、この雰囲気、まあまあ気になる。

こういう気まずさが嫌で、人を避けてたところもある。


「今回の依頼は、熊だったな。」


近江を経由して、飛騨に向かっている途中、

休憩しようと道端の石に腰掛けながら、三郎さんが口を開いた。

何で涼しげなの、この人。

オレ、この日差しで、結構、汗かいてるんだけど。


「複数の熊が暴れているようですね。」


と、才蔵。

オレはずっと思ってた疑問を話す。


「熊が暴れているのは、里の仕事じゃないんじゃ・・・」


「そうではありません。

 今回はおかしいそうです。」


「おかしいって、何が?」


「熊は群れない。」


「群れない?」


「そうです。熊が複数、集まることなどないのです。」


そういや、狼が集団で狩りをするのは見たことあるけど、

熊の群れって見たことがない。

メスが子熊を連れているくらいか。

体が大きいから、エサを確保するために、

一頭がそこそこ広い縄張りを独り占めしてる。

あの体だからな~。

一日何kgくらい食べるのか知らないけど、

エサを探して歩き回っていると思うと、ゾッとするな。


依頼の村に着いた。

飛騨の山々を見ると、いかにもって感じだ。


「祟り#&。山上様の祟り¥#ΦΨΚ。%¥#$@♪∂。」


怖いんだけど。

何を言ってるのか分からないのが、さらに怖い。

祟りなんてものは信じてない。

仮にあったとしても、相手のテリトリーに入ったり、

結局、人間が悪いことするからだろ?

怖ろしいくらいなら、悪いことしなけりゃいいんだよ。

何もしていないのに襲ってくるなら、もう不運でしかない。

それはあきらめる。

だって、そんなの、もう、事故と同じだ。

理由もないなら、防ぎようもない。


オレが怖いのは、あくまで人だ。

同じ人間、それも、同じ日本人なのに意思疎通ができないって、

何気に恐ろしい。

村長の目が行っちゃってるよ。

虚ろな目を彷徨わせていたと思ったら、

カッと目を見開いて、斜め上に向かって、叫び始めるんだ。

恐怖だよ。


「申し訳ない#&¥?~。

 村長はおすない%#&て、&¥#がら逃げた&#¥~。」


壊滅的。

相手が会話する気があるのかと疑うレベル。

村長がああなので、代わりに話そうとしてくれるけど、

何を言っているのか分からない。

興奮してるのか、村長に負けまいとしてるのか、

大きな声を出すので、さっきから耳がハウリングする。

半分も聞き取れない。


「おすないとは、どういった様子だったんだ?」


おお、三郎さん、理解してたのか!

全然、理解できなかったので、

もしかしたら、日本語じゃないかもしれないと思ってたのに。

言語理解スキルをもらえれば良かったな。


その後も、代わりの人と三郎さんが話し合ってくれたけど、

交渉って、相手の言葉を聞き取るところからなのか。

めちゃくちゃ、ハードルが高いんですけど。

そうか。

全国統一の学校教育って、明治に入ってからだっけ。

学校そのものがないんだよな。

当然だけど、標準語なんて存在していない。

そういえば、藤吉郎も標準語ってわけじゃなかった。

この地域出身のオレが脳内翻訳してただけで、

聞き取りにくい言葉もあったし、

ひいばあちゃんと話してるのかと思うこともあった。


「行こう。」


話がついたようで、三郎さんに促されて村を出た。


「葛葉と才蔵は、何を言ってるか、分かった?」


「私は分からなかった。」


「何とか、聞き取れました。」


才蔵は分かったのか。

経験があったのだろうか。


「オレ、独りで来てたら、

 どうしたらいいのか、分からなかったよ。」


「大丈夫だ。静馬殿は一人にさせないと決まった。

 仕事以外でも、この才蔵が付き従う。」


「それはどういう??」


「いや、そのことはいつでもいいだろう。

 それより、聞いた場所に近づいている。

 さっきの話を伝えておいた方がいいだろう。」


何か、ダメな子判定された気がするけど、

現場のすぐ近くまで来てるんだ。

集中。集中。


三郎さんの話では、畑が甚大な被害を受けていたが、

幸いにも、まだ、人に被害は出ていないようだった。

ただ、納める物が無ければどうなるか分からないが。


「村人の話では、熊は3頭。大きさは5尺ほど。」


(150cmか・・・ まあ、まだ・・・)


ヒグマを想像していたので、

あれほど大きくなくて良かったけど、

だから、どうだって話だ。

熊は熊。

あれが飛んでくるとか、恐怖でしかない。

熊が20mくらい向こうから走ってきて、

車のフロントガラスに一撃入れた動画を思い出した。


(普通にこえぇ。)


あれが3頭か。

どうにかなるんだろうか。


「とにかく、真正面に立つのは危険だ。

 様子をうかがいつつ、攻撃の機会を見つけることにしよう。

 一番良いのは、こっちが先に見つけることだ。」


「なら、オレのクロで探すようにしましょうか?」


「頼む。静馬殿。

 才蔵はともかく、オレの能力は向いていないのでな。」


「私は気配を探れるのですが、1町か、2町くらいです。

 しかし、町中であれば良いのですが、

 山の中では気配が多過ぎて、間違うかもしれません。

 探れると言っても、何となくいるなくらいで、

 それほどハッキリしたものではありません。」


聞けば、蛍のような、力の塊が見えるらしい。

しかし、多少の大きさの違いがあるくらいで、

数が多かったりすると判別が難しいし、

壁などで遮られると感じる力が弱くなるらしい。

そこはスキルの成長を待つしかないんだろう。


「1町って、どれぐらいだっけ?」


「えっ?」


「ごめん、大陸生まれだってことは聞いてない?

 オレ、最近、海を渡って来たので、

 こっちの感覚が分からないんだ。」


「そうでしたか。1里は分かりますか?」


「分かる。」


「1里は36町です。」


あー、失敗した。

いっつも、現代の感覚で話しちゃうよ。

この時代、単位が一定じゃないのに。

ものさしが違うって、何気に不便だよな。


社会の授業で、人が1時間に歩く距離が1里って教わった。

「人によって歩幅が違うじゃん!」と、

クラス全員でツッコんだ覚えがある。

しかも、1時間も同じ歩幅で測れるわけがない。

オレは1里を3.9kmと記憶しているけど、

才蔵が言っている1里が何kmのことか、分からない。

測る道具が1町=150mだったら、

3,900m÷150m=26町で、

1町=100mなら39町になるんだ。

めんどくせー。


結局、クロを才蔵に気配察知させて、1町を測った。

だいたい、100mより少し多いくらい。

105mくらいか。

なら、×36町で1里3,780m。

お、だいたい、同じか。

一つ一つ、確認しておかないと、里で意思疎通できないな。

どっかで統一規格みたいなものを作った方がいいかもしれない。


「クロは5町まで探れるから、遠くをオレが、

 近くは才蔵に任せる。」


「分かりました。」


―何だ、クロ?―


オレをじっと見てくるクロと目が合った。


―いいえ。何でも。

 いいですよねー。命令するだけの人は。―


―おまえ、戦わないじゃん。索敵ぐらいいいだろ?―


―はいはい。分かりましたよ。―


クロが駆けていく。

あいつも一言、多いんだよな。



捜すこと1時間くらい。


―ゼー、ゼー、後はお願いしますよ。―


―お、おい、クロ。―


影に入っちゃった。

息が荒いのなんて久しぶり、いや、初めてくらいに見たが、

1時間全速力で走り回っていたら、そりゃ疲れるか。


「この方角、ここから4町のところに洞窟があって、

 その入口に2匹の熊がいるのを確認した。」


動物は匂いや音に敏感だ。

顔を近づけて小声で話すようにしていたけど、

おそらく、400mなんて安全地帯でも何でもないだろう。

多分、km単位で嗅ぎ分けるはずだ。

そうじゃなければ、この山の中で、獲物やメスを見つけられない。

三郎さんたちがうなづく。


「興奮させないように、ゆっくり近づこう。」


「様子を見ますか?」


「相手が相手だ。隙があれば先に攻撃した方がいい。」


「でも、人に被害は出ていないんですよ。

 もしかしたら、討伐せずに解決できるかもしれない。」


「それは分かるが、相手は熊だ。

 熊は縄張り意識が強い。

 近づくのは、向こうにとっては逆なでされるようなことだろう。

 こちらが様子見と思っていても、熊がいきなり襲ってきたら、

 この中の誰かが初めての犠牲になるかもしれない。」


問題は熊が村の近くにいることだ。

殺すのは確かに方法ではあるけれど、方法の一つでしかない。

依頼の達成方法はいろいろあってもいいのではないかと思う。

が、相手は動物だ。

そもそも、話は通じない。

それに、追い払った熊が戻ってきたら、

今度こそ、村に被害が出るかもしれない。


(オレに責任なんて取れないな。)


責任が取れないなら、これ以上は口出しすべきじゃない。

三郎さんのオレを見る目が優しいような気がする。

もしかしたら、三郎さんも同じことを考えていたのかもしれない。


「分かってると思うが、相手は熊だ。それも3頭。

 先ず、オレが仕掛ける。

 3人は様子を見つつ、確実に倒すようにしてくれ。」


オレたちはうなづいた。

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