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024.初仕事②

(いやー、これは無理なんじゃないかなー。)


林の中で目標を発見した。


(でかい。ワンボックスカーみたいだ。

 引かれると死んじゃうじゃん。)


30mくらいの距離でも大きさが分かる。

寝ているのか、小さくうずくまったまま、動かない。

黒い岩のような塊だ。

雷蔵さんたちに目配せする。

雷蔵さんが左に、葛葉が右に散開する。

中央はオレ一人だ。

怖い。ひたすら怖い。

ガクブルだ。ひざに力が入んない。

雲の上を歩いているように、地面がふわふわしている。

逃げない自分をほめてやりたい。


ホー


ホホー


左右の林からフクロウの鳴き声がした。

二人が配置に着いたという合図だ。

オレはクロで二人の位置を調べられると言ったんだけど、

霊獣を傍から離すのは危ないからと反対された。

でも、戦闘力は無いんだよ。

案の定、「戦闘なんてしませんよ」と言って、

影の中に入ってしまった。こいつ~。


ゆっくり近づいていく。

あと20m。

まだ動く気配はない。

こっちに気づいていないのか。

等間隔に、杉が真っすぐに生えている。

もう少し狭まっていれば、身動き取れなかったのに。


(そんなところに行くはずもないか。)


しかし、これだけ、木が生えていたら、

あの大きさだ。動きは制限されるだろう。

小回りの利く、オレが有利に違いない。・・・多分。


「ん?」


鍬が落ちている。

犠牲になった人のかもしれない。

槍の代わりに使えそうだ。


あと5m。

土蜘蛛が起き上がった。


「土蜘蛛じゃない!」


蜘蛛の胴体の上に、人間の上半身がある。

アラクネじゃない!?

こんなの、アジアにいるのか!?

おお、後ろから、尾が持ち上がった。

サソリじゃん!

アラクネでもないじゃん!


「金剛拳!」


葛葉の声が飛ぶ。

金剛拳ロケットパンチが飛んできた。

アラクネが身を屈めたが、避け切れず肩をかすめた。

アラクネが葛葉の方を向いた。

チャンス。


「ターッ!」


ガッ!


堅い!

鍬をアラクネの足に思いっきり振り下ろしたけど、

先っぽしか刃が入っていない。2~3cmか。

アラクネがこちらを見た。


「離れろ!」


いつの間にか、アラクネの背後に回った雷蔵さんが叫んだ。

その声に後ろに飛び退く。


「電天撃!」


雷蔵さんは、その名の通り、電気だ。

体に蓄電した電気を放電するんだけど、

基本は触れていないといけない。

それを補うための鎖棒らしい。


ギャー!


電気が効いたみたいだ。

アラクネの顔が歪んでいる。

尾が雷蔵さんを襲う。

間一髪、雷蔵さんが避けた。

しかし、次々に、尾が雷蔵さんを襲う。


「くらえ!」


オレは跳躍した。

サソリ部分は堅い。

しかし、人間の体はどうだ?


ギャー!


左の脇腹に深々と突き刺さった。

アラクネから青色の液体が溢れてくる。


(入った!こいつは、クリティカルだろ!)


鍬の半分が刺さっている。

見た目通り、上半身の人間部分は、

下半身のサソリ部分ほどの硬さはないようだ。

それに、オレたち3人の連携に対応できていない。

体に圧倒されかけたけど、上半身が人間だから、

視野なんかは、オレたちとさほど変わらないようだ。


(イケる!!)


素早く離脱しようとしたけど、アラクネが踏み込んできた。

咄嗟に体を屈める。

アラクネの手は鎌になっていた。

オレの後ろにあった杉が、音を立てて倒れる。


「斬ったのか!嘘だろ、20cmはあったんだぞ!」


前言撤回。

魔物、パネェっす。

距離を取ろうと思ったが、アラクネは跳躍した。


逃げるのか―

と思ったけど、8本の足を木に刺すように固定し、

空中から尾で攻撃してきた。


「金剛拳!」


葛葉が金剛拳を放つが、アラクネは木を伝って避けた。

アラクネの尾がオレたちを襲う。


「雷天撃!」


雷蔵さんが木を伝わらそうとするけど、

余り効果がなさそうだ。


防戦一方だ。

アラクネは木の上を移動しながら、尾で攻撃してくる。

特に、脇腹に傷を負わせたオレにヘイトが集まっている。

葛葉や雷蔵さんへは牽制程度の攻撃で、

あくまで、オレを執拗に追いかけてくる。


「あっぶなー!」


足に鍬が届くかどうかの高さを移動しながら、

ひし形の剣ような尾が上空から襲ってくる。


「どうせいっちゅーの!」


木の間をジグザグに走りながら、必死で逃げる。


(チッ、葛葉たちと離れちゃダメだ!)


逆方向に回り込もうとターンしたので、

スピードがわずかに落ちた。


「痛っ!?」


オレの左の太ももをかすめた。

驚くほど、服がスパッと切れた。

赤い線が一筋できる。

オレたちが有利だと思ったのは何だったんだ。

アラクネがとんでもなく有利じゃん!


「金剛拳!」


さっきから、葛葉が金剛拳を放つが、上手くかわされる。

金剛拳は直線だ。

発射のタイミングが分かれば、避けやすいのかもしれない。

しかし、葛葉が動きを制限してくれるので、

オレが一息つけている。

ただ、スタミナが。

息もそうだけど、足がもつれそうになる。


「しまった!」


倒木に足を取られ、つまづいた。

何とか転びはしなかったものの、追いつかれた。

尾が迫ってくる―――


「雷天撃!」


ギャァァァ!


雷蔵さんの声がしたと思ったら、

アラクネに飛び乗り、人間部分に背中から雷天撃を放っていた。

これは効いている。

アラクネの体から力が抜けたように、

雷蔵さんを乗せたまま、ドンと地面に落ちてくる。


「あぶなっ、」


一瞬の硬直の後、アラクネが雷蔵さんを目掛けて尾を振った。

刀で直撃は避けたが、吹っ飛ばされる。


「雷蔵さん!」


雷蔵さんは5mほど吹っ飛んで、木に叩きつけられた。

地面に落ちて、そのままくずおれる。


「七星刀!」


関節!

右の前足を一本斬り落とした。

鍬では堅く感じたアラクネの足が、関節とはいえ、

通販番組のように、スーッと斬れた七星刀の斬れ味に驚く。


ギャァァァ!


アラクネが悲鳴を上げる。

尾がオレを狙ってきた。

真っ直ぐに槍のように突いてきた。

尾の下に潜り込むようにかわすが、

アラクネが軌道修正したのか、右肩を斬られた。

顔をしかめたけど、逆に尾が伸び切った今がチャンスだ。

尾の関節を狙って、七星刀を振り下ろす。

尾の棘を斬り飛ばした。


ギャァァァ!


アラクネが悶絶している間に、右足をもう一本斬り落とした。

もう、アラクネはオレだけしか見えていない。

葛葉の金剛拳が当たろうともお構いなしに、

鬼のような形相で、オレを攻撃してくる。

尾は無くなったけど、左右の鎌が強力だ。

杉を盾にして避けようとするのに、

杉がスパスパと斬られている。

時々、尾の攻撃が来るが、棘を失っているので、

オレに届いていない。

鎌と尾のコンビネーションがあったら、

渡り合えなかったかもしれない。


「チッ!」


低く振られた鎌を転がって避ける。

地面ごと突き刺すように左足が踏みつけてくる。

かわして、立ち上がったオレを狙ってきた右の鎌をかいくぐり、

狙いすました一撃で右足を斬った。


「あと1本!」


と思ったら、ドッとアラクネが倒れてきた。

下敷きにされそうになって、後ろに飛ぶ。

アラクネは立ち上がろうとしているが、できずにいる。

足一本では体重を支えきれなかったのかもしれない。


「金剛拳!」


金剛拳が当たり、アラクネが怯んだ。


「チャンス!」


アラクネの懐に飛び込み、胸に刀を突き立てた。

アラクネの眼がオレを見た。

肩の上から尾が伸びてきた。

かわしながら、刀を抜いて、首を切り落とした。


「終わったな。」


葛葉が肩で息をしながら近づいてきた。

掛けられた声にうなづく。

ほぼ休みなく金剛拳を放っていたから、

葛葉の疲れも半端ないようだ。

足取りも覚束ないほど、フラフラだ。


「あ、雷蔵さんは!?」


雷蔵さんは吹っ飛ばされた後、

地面に叩きつけられたまま、全然、動いていない。

大丈夫なのか。


「痛っ!」


肩が痛い。

見ると、胸のところまで真っ赤になっている。

しかし、今は雷蔵さんだ。

雷蔵さんに駆け寄る。

雷蔵さんは気を失っていたが、大きな外傷はないようだ。

しかし、口の端から血が出ているので、

どこか、内臓を痛めたのかもしれない。

葛葉がオレの着物を脱がしにかかる。

雷蔵さんが目を開いた。


「魔物は・・・」


「静馬が倒した。」


「さ、さすがは。」


「雷蔵さん、少し、横になっててください。

 もう少し休んでから、村に戻りましょう。」


「すまん。不甲斐ないところを見せた。」


「いえ。雷蔵さんが隙を作ってくれたので、

 足を斬り飛ばせたんです。」


肩を葛葉に任せ、左足を見た。

少し血は出ていたけど、もう止まっていた。

それよりも、肩だ。

血の量に驚いたけど、興奮しているからか、それほど痛くない。


「深くはないが、少しの間、固めておいた方がいい。」


葛葉が素早く傷口を何ヵ所か縫った。

すごいな、こいつ。


「水はあるか?」


「ああ。今、出す。」


言われるまま、影収納から、直接、肩に水をかけた。


「うぅ~。滲みる~。」


丁寧に水と血をふき取ると、

変な薬をペタペタ塗った布を肩に当てて、

さらしをガチガチに強く巻いてくれた。

そのうち、血が止まるだろうということだ。

それより、塗られた軟膏がすごく気になるんだけど。

大丈夫よね?

馬糞とか言わないよね?


しばらくすると、雷蔵さんが動けるようになってきた。

戦いの後を確認しに行く。


「女郎蜘蛛だ。」


「女郎蜘蛛?アラクネじゃなくて?」


「ああ。まだ、小さくて良かった。

 生まれたばかりだろう。」


「ええっ!? これが、生まれたばかり!?」


「じゃなければ、こんな程度じゃない。

 昔の伝承に残っているが、

 幅が2間もある、家のように大きなものがいたようだ。」


「家。2間と言えば、1間が1.8mだから、

 約4m。・・・デカッ!!!」


「メー・・・?

 大きいということは、それだけ年を経て知恵もついてるからな。

 数百人の犠牲を出して、ようやく討伐できたようだ。」


「怖いですね。」


「ああ。だから、オレたちがそうなる前に倒してるんだ。」


落ちていたアラクネの尾は、

剣のようになっているのかと思ったら、

端がのこぎりのようにギザギザになっていた。

思わず、肩に手をやった。


「おお!ご無事で!」


村に戻ったオレたちを、村長が出迎えてくれる。


「ど、どうであった?」


久喜様も待っていたようだ。


「倒しました。

 林の中に死骸があるので、確認してください。」


「おお!でかした!」


村人からも歓声が上がる。

涙を流している人もいるようだ。

久喜様が近くの侍を呼んで、何事かを指示した。

侍は村人に声を掛けて、荷車とか、棒などを持って、

村の外に走っていく。


「村長、早う、酒宴じゃ!

 この者たちを労わってやるのだ!」


服も新しいものを用意され、

酒宴を待つ間、横になっていると、

庭に女郎蜘蛛が運ばれてきた。


(さっきの人たちは、これを取りに行っていたのか。)


もう1台には、亡くなった人たちだろうか。

筵を掛けられているけど、端から手足が見えている。

顔に覚えがある人が、荷車にすがりついて、また泣いていた。


酒宴が始まった。

もうお祭り騒ぎだ。

殿様が来ているのにも驚いたが、

とんでもなく上機嫌なのにも驚いた。

いつも物静かな雷蔵さんの変わりようにも驚いている。

負傷しているので、お酒はお断りしたけど、

オレの分も酒を受けていた雷蔵さんは、

かなり出来上がっている。

庭に下りて、女郎蜘蛛に足を掛け、

オレの武勇伝を朗々と語り出し、

殿様を始め、みんなの喝采を受けていた。


その日は、殿様を始め、みんなが開けっ放しの村長宅で、

月の光を浴びながら、大の字になって寝た。

風が心地よい。

乱痴気騒ぎだけど、たまにはこういうのもいいもんだ。

里に帰ろうとした次の日、久喜様が目の前にやってきた。


「世話になった。召し抱えたいが、そうもいかぬのは残念じゃ。

 これは礼じゃ。受け取ってくれい。」


本当に千両箱が出てきたよ。

千両とは書いていないけど、同じくらいの大きさだ。

中に、粒状のものや、延べ棒のようなもの、

とにかく、金や銀がぎっしり入っている。

これ、いくらくらいなの?


雷蔵さんがありがたく頂戴して帰路についた。

村人総出の見送りに、少し照れる。

雷蔵さんは少し頭が痛いそうだ。


「何か、人に感謝されて、お金ももらえるって、いいですね。」


「いつもいつも、こうではないがな。

 だが、今回は、静馬殿のおかげで助かった。」


「いえ、いえ、そんなことありません。

 オレ1人では絶対に無理でしたし、

 お二人がいればこそです。」


「いや、雷蔵叔父の言う通りだ。

 静馬殿がいなければ、こうも簡単に退治できなかっただろう。」


「その通りだ。」


「怪我しなければ、一番、良かったですけどね。」


「むしろ、それだけの怪我で済んだのが信じられないくらいだ。

 オレは戦いの最中に気を失った。

 死んでいたって、おかしくなかった。

 それが静馬殿のおかげで生きている。

 佳月様や長老衆が『婿に』と望むはずだ。

 静馬殿はゆくゆくは、里を背負って立つ男になるだろう。」


「何の話ですか? 勝手に背負わせないでください。」


「ワッハッハッハ。それは、おいおいだな。」


ロクでもないことを言っているけど、

とりあえず、疲れた。

今は、無事に帰れることを喜ぼう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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