023.初仕事
「静馬様、いいですね。」
佳月様、いや、佳月さんに念押しされた。
意識を取り戻した後に説明されたけど、
もみくちゃにされたのは、やっぱり綱引きで、
それも、あわよくばという綱引きだったようだ。
100人くらいの小さな里でも、
未婚女性や夫を失った女性は少なからずいる。
オレの剣の腕を見た女の人たちが、
自分の家に泊まってもらって、一気にということだったらしい。
妻じゃなくても、愛人でもって怖すぎだろ。
ワンチャン、養ってくれるかもって、たくまし過ぎない?
そのため、佳月さん(様はダメだって言われた)が、
里姫の特権で、オレを婿扱いにして、
女たちに誘えなくさせる案を提案してくれた。
そのため、佳月さんの家に居候することになった。
さっきのはその念押しだ。
たしかに、里姫っていう、
姫様の婿に手を出せないし、
姫様の婿が野宿していたら、おかしい。
っていうか、この子、姫様なの?
「妻ですから。」
「いやいやいや。」
婿なら、私は妻だろうと、夫婦なら一緒の布団で寝るものだと、
佳月さんが言い始めた時はどうしようかと思った。
「仮にだから」と回避して、オレとあやは床の間で寝ている。
よく考えればいろいろおかしかったんだけど、
こっちの都合もあって余り考えないようにしてたのと、
その日は、あやもウトウトしていたので、
オレも旅で疲れてたし、すぐに眠りについた。
次の日、ちょうど依頼が来たと言われて、
剣の腕がすごいとか、十分に活躍できるとか、
おだてにおだてられて、
気がついたら、昨日の今日で伊勢にいる。
何の説明もないまま。
流されすぎだろ。
「今回はオレもついてきてるしな。」
雷蔵さんがついて来てくれているのは心強い。
「迷惑を掛けたのだから、静馬様のお役に立ちなさい!」
葛葉は、佳月さんに怒られてついて来た。
「今回は死者が出ているのと、静馬殿が初仕事なので、
3人になったが、普通、依頼は1人か、2人で受ける。
依頼は、ある時には、結構、多くあるのでな。」
雷蔵さんの説明では、今回の被害は村人4人。
斬られたという話なので、
魔物ではなく、人の可能性もあると判断して、
剣の腕を買われて、オレに白羽の矢が立った。
今回はオレが初仕事なので、2人つけてくれたらしいけど、
人が死んでるんだから、もっと多くても良くない?
怖いなー。
行きたくないなー。
初めは薬草採取とか無いのかな。
「村と報酬の交渉などもあるし、初めてでは荷が重いだろう。」
うん。分かりません。
あっさり片付くと、
あれもこれも言ってくる人もいるらしいので、
それを断るのも経験らしい。
どこまでサービスに含めるか。
さじ加減って難しい。
葛葉は、脇差くらいの長さの刀を腰に差して、
雷蔵さんの腰には、十手みたいなものに、
2mくらいの鎖の先にゴルフボールくらいの錘がついている。
鎖鎌ならぬ、鎖棒だ。
長めのモーニングスター、いや、フレイルってやつかな。
ところで、なんでモーニングスターって言うんだろ。
叩かれると目が覚めるとか?
起きるどころか、寝ちゃうと思うんだけど。永遠に。
あー、目の前に星が飛ぶのかな~。
ともあれ、二人とも経験があるし、頼もしい。
さて、依頼の村だ。
「よくぞ参った、勇者よ!」
(何かのオープニングなのかな?)
依頼のあった村長宅に通され、いざ、話をしようとすると、
「ちょっと待ってくれ」というので何かと思ったら、
武士のじいさんを呼んできたようだ。
で、このじいさんが話す、話す。
何か、上機嫌なんだけど。
ところどころ見せる、「大丈夫だよな」という圧にドン引きだ。
言葉の端々で、お偉いさんということは分かるんだけど、
現地調査も、成功報酬の話もしてないよ?
「まだ、手付金しかもらっていないので、
依頼を受けるかどうかも決めていないのですが。」
さすが、雷蔵さん。
ぐいぐい来る家老っぽいじいさんに動揺していない。
後ろに控えているからいいけど、
前でこの圧を受けていたら、
「うん」って言いそうになるな。
あ、いや、こめかみに薄っすら汗をかいてる。
うんうん。
そうだろう。そうだろう。
「殿に申し上げておる。報酬は心配いたすな。」
「その、魔物なのですが。」
「そなたたちなら大丈夫だ。」
「いえ。実際にどのような魔物か見てみませんと。」
「そなたたちが頼りなのだ。必ず倒してくれい。」
何だか、引き受けた流れで外に出た。
家の外で待ってた村人にも盛大に見送られて、村を出た。
村から出て現地に向かう途中、かなり離れて、
雷蔵さんが口を開いた。
「すまん。手本を見せると言いながら、押し切られた。」
「相手は偉い人だったんでしょ?」
「そうだ。それほど大きな家ではないが、
武家ともめると厄介だからな。」
まあ、それは分かる。
なまじ権力を持っている人間を敵に回したくない。
オレが交渉してたとしても、結果は同じだったと思うから、
雷蔵さんにどうこう思うことはない。
ここに来るのも、里長に「大丈夫」と押し切られたし、
幻太さんに「オレが退治できるんだから、静馬殿なら余裕だ。」
と言われて、そうかなと思ったんだから、オレも大概だ。
ただ、現場に近づくにつれて、
「やっぱり、やーめた」ってならないかな~と期待している。
魔物退治より、農作業でお役に立ちたいんだけど。
「少しお待ちを!」
村長ら3人が追いかけてきた。
「どうされた?」
「先ほどは、久喜様の前でしたので、憚られたのと、
これを言うと、断られるかもしれないと思いましたので。」
村長の歯切れが悪い。
雷蔵さんの顔が険しくなった。
葛葉が「嫌な話になってきた」とぼそりとつぶやく。
本当に嫌そうな顔をしている。
「申し上げませなんだが、あの後、殿様の兵10人が、
魔物を退治しようとしたのです。」
村長は言いにくいのか、ひたすら汗をふいている。
後ろの2人も目を合わせようとしない。
「そのうち、8人がやられてしまったようです。」
「10人いて、8人が!」
雷蔵さんの声が大きくなる。
オレは息を飲んだ。
そりゃそうだ。
兵士なのに、本職がほぼ殺されてるじゃん。
「いえ、これは、相手のことが何も分からないまま、
不意を突かれて襲われたからなのです。」
「すると、相手が何か分かったのか?」
村長はうなづいた。
「戻ってきた兵の話では、土蜘蛛ではないかということです。」
「土蜘蛛。」
「雷蔵さん、土蜘蛛ってどんなやつですか?」
気になって口を挟んだ。
雷蔵さんがオレの方を向いた。
「土蜘蛛は、その名の通り、蜘蛛の化け物だ。
大きいものになると、3畳ほどの大きさになる。
しかし、村人は斬られたと言っていなかったか?」
また、村長たちの方を向く。
「そうです。最初のは分かりませんが、3人は胴を斬られたと、
兵たちも斬られたと聞いております。」
「そうなると、土蜘蛛でも、変わり種か。」
「変わり種って何です?」
「さっきも言った通り、蜘蛛は蜘蛛だ。
人を斬るような武器を持っていない。
それが人を斬ったとすると、前足が変化したとか、
別ものになっていると考えた方がいい。」
「怖いですね。」
「ああ。気を付けて調査しよう。
ありがとう。助かった。」
村長たちに礼を言って別れ、現場に向かった。
「土蜘蛛だったとして、討伐するんですか?」
「もちろんだ。」
「危険じゃないですか?」
「危険は土蜘蛛じゃなくても危険だ。
まあ、土蜘蛛であれば、
昔、退治したことがあるから、大丈夫だろう。」
「退治したことがあるんですか?」
「昔な。あの時は、1人で、初めて相手する魔物だったから、
何も分からず、かなり手こずったが、
それほど強い魔物じゃない。
気をつけるのは、当然、尻から出す糸と、
飛び上がって串刺しにしようとする足だ。
それさえ気をつければ、そんなに難しい相手じゃない。」
「そうなんだ。」
「糸は要注意だな。気づいたら、四方を糸でふさがれてた。
切りにくいし、くっつくし、段々、身動きが取れなくなるんだ。
それこそ、蜘蛛の巣にかかった蝶のようにな。」
「それで、どうしたんです?」
「落ち葉に火をつけた。蜘蛛の糸は火に弱い。
山火事を起こして、土蜘蛛ごと焼いたんだ。
前に持ってた分銅で土蜘蛛の足を木に括りつけてな。
山の一部を焼いてしまっって、後で怒られたがな。」
「じゃあ、今回も。」
「いや、それは見てからだ。
さっきの話では、みんな、斬られたと言っていた。
糸のいの字も出てきていない。蜘蛛と言えばなのにな。」
「違う魔物の可能性があるってことですか?」
「違うかどうかは分からないが、村長たちにも言った通り、
別物と考えておいた方が良い。
斬ることに特化したやつだろう。
一気に斬られたということは、蟹のような鋏じゃなく、
蟷螂の斧のようなものかもしれない。」
(蟷螂の斧ってことは、カマキリの鎌ってことか。)
「大丈夫ですよね?」
「ああ。大丈夫だ。
こと斬ることに関しては、静馬殿がいるからな。
今回は3人もいるし、オレと葛葉が助ければ、問題ない。」
「えっ?」
「ん?」
「助ける?」
「ああ。オレと葛葉が横から助ける。」
「横から。前は?」
「そりゃ、静馬殿だろう。」
「いやいやいや!オレ、初仕事ですよ!」
「しかし、静馬殿の剣の腕は本物だ。
オレや葛葉では全くかなわない。
静馬殿が正面を受け持ってくれている間に、
オレと葛葉で魔物を倒す。」
「え~~~、オレ、初仕事なのに~~~。」
「でも、考えてみてくれ。
葛葉が正面に立ち、魔物に斬られると、2人になる。
オレも魔物に斬られると、静馬殿一人になるんだぞ。
それなら、一番の達人に、正面を任せた方が良くないか?」
「また、そうやって・・・」
でも、そうだな。
雷蔵さんと葛葉の剣の腕を知っているわけじゃないけど、
村で一二を争うって人があのレベルだったからな。
2人がするくらいなら、オレだよな。
分かる。頭では分かる。
タンクか~。
オレはDPSだと思っていたけど、
いきなり、回避タンクになれってか。
そういや、日本にタンクの概念なんてないんだよな。
あれって、ファランクスとか、
重装歩兵から生まれたようなもんだし。
軽装で槍一本で突撃する日本では、あっても矢盾くらい。
そっか、う~ん、そっかー。
「分かりました。何とか、やってみます。」
「静馬殿なら大丈夫だ。落ち着いていこう。」
大丈夫という根拠が分からないけど、
ええい、なるようになるだろう。
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