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022.里にて

訳も分からず連れてこられた屋敷。

一見して、長の屋敷だと分かる、この大きな屋敷は、

この里の中央にある広場に面して建てられている。


オレは左右に居並ぶ人たちの中を、

女の子の後を進んでいく。

女の子に抱き着かれたパニックは、まだ尾を引いている。

それに加えて、この状況。

歓迎されているのかと思ったけど、

何となく緊張感が漂っているような雰囲気だ。

どういう扱いかが分からなくて、絶賛当惑中だ。


(中央の人は、どう見ても長っぽいし、

 左右の2人も長老とか、そんなところだろう。)


女の子が座布団に座った。

あやも女の子のひざの上に座った。

この状況で女の子は鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌だ。

その横に座布団がもう一つ置かれているので、

オレの席だろうと、座ろうとしたら、


「ああ、話が長くなるので、足を崩していい。」


正座しようとしたら止められた。

手短にお願いします。


「さて、先ずはよく来てくれた。

 私はキヌ。この里の里長だよ。

 この後ろにいるのは、タキと小介、世話役だよ。」


「静馬です。」


後ろの2人が頭を下げたので、オレも急いで頭を下げた。


「来てくれたということは、

 納得してくれたということでいいんだね。」


(どういうこと?)


「ここに住むというなら、この里の掟に従ってもらう。

 なに、そんなに難しいことはない。

 自分の食い扶持は、自分で稼ぐ。働けってことさね。」


「ちょ、ちょっと、待ってください!」


「何だい?」


「納得も何も、何も聞かされてないのに、

 納得するはずないじゃないですか!」


「何も聞いていない?」


「はい。」


「じゃあ、何で来たんだい?」


「オレ、いや、私は、葛葉たちが来て、

 能力者が5人も来て、力づくでもと言われたら、

 この子もいるし、どうしようもないじゃないですか。」


ザワッ


(あれ?)


ざわざわっとした空気に変わった。

女の子が葛葉をにらんだ。

葛葉は目を逸らしている。


「静馬様、申し訳ありません。

 葛葉には、事情を説明してご足労いただくようにと、

 何度も言い聞かせたのですが。」


雷蔵さんは驚いているようだ。

余り事情を聞いていないのかもしれない。


「全く。脅して連れてきたってことなら、

 おまえが身構えているのも分かる気がするよ。

 佳月が行くと言ったのを、私が止めたせいでもあるのかね。」


里長はこめかみを押さえる仕草をした。

ため息をつく。


「おまえをどうこうしようと思っていない。

 むしろ、この里に来てくれるのは歓迎する。

 おまえは能力を持っているからね。

 この子のことも知っている。

 襲われた村の生き残りだね。」


「はい。」


「自分が食えるかどうかで、この子の面倒まで見るなんて、

 馬鹿だが、悪い馬鹿じゃない。

 おまえの人となりが分かるってもんだ。」


馬鹿だと言われたら馬鹿なんだろうな。

ハッキリ、自分の限界を感じてたから。


「先ず、説明の前に、おまえの霊獣を出してくれるかい?」


素直に従う。


「クロ。」


「佳月。」


「はい。」


クロが急にぶるぶると震え出す。


「え? クロ、どうした?」


正気を失ったのかと思うほど、

クロがうつろな目をして、オレの方を向くと、

オレを威嚇し始めた。


「クロ、何を?」


「は~。疲れました。」


女の子が息を吐く。

頬が上気して、少し赤くなっている。

クロが「あれ?」というような、不思議そうな顔をしている。

覚えていないのか。


「見たかい?その霊獣は、佳月のものだったのさ。」


「!?」


「本当だよ。今のは、佳月が操ったのさ。

 普通は他人の霊獣を操るなんて不可能だがね。

 元は佳月のだから、操ろうと思えば、操れるのさ。」


「かなり力が要りますけど。」


オレは混乱している。

人のを取っちゃったのか?


「オレがクロを取った。

 あっ、じゃあ、クロを返せって・・・」


「いや、今はおまえの霊獣だ。戻すことはできない。

 やろうと思えばやれるのかもしれないが。」


「すみません。」


「おまえのせいじゃないことは分かってる。

 咎めたりしないよ。」


「おばあ様、私から説明します。」


女の子がオレの方に向き直る。


「静馬様。私は霊獣を使って、四囲の情報を集めていたんです。

 こんな里でも、いいえ、こんな里だからこそ、

 時勢を読み間違えると大変なことになるのです。

 昨今の今川の動きは特に気になるところでしたので、

 1匹を駿府に行かせようとしました。

 その途中、神降しをするという噂を聞いて、

 神降しの様子を窺っていたんです。」


「あー、まさか、それで。」


「そうなのです。霊獣が引き寄せられたと分かり、

 急いで別の霊獣を向かわせたのですが、

 霊獣を持っている者が屋敷に誰もいなくて、

 屋敷を辞した者がいたので、その足取りを追って、

 何とか静馬様を探し当てたのが2ヵ月前ですの。」


2ヵ月前。

もしかして、大垣に買い出しに行った時だろうか。

つけられたのって・・・


「何となく、なぜ、私かってことは分かりました。

 でも、クロを返す必要はないんなら、

 オレはどうしてここに呼ばれたんでしょう?」


里長が女の子を見た。


「おまえが霊獣を、能力を持っているからさ。

 佳月が見たところでは、剣の腕もあるようだ。」


「達人です。」


「いやいや、師匠について、少しかじった程度で。」


「剣の腕は、後で試させてもらう。

 この里は魔物退治を生業としてるんだよ。

 だから、どんな能力の者だって欲しいのさ。」


「魔物退治。」


「大昔から、困った村々からの依頼を受けて、

 魔物を退治しているんだよ。

 おまえにもそれを手伝ってもらいたいのさ。」


「それって、危険ですよね。」


「そうさ。だが、戦に巻き込まれれば、同じことさ。

 今川が今にも兵を起こそうとしてるんだよ。

 普通なら、美濃から近江に抜けて京を目指すだろう。

 近江が戦になったら、その子を連れて逃げれるのかい?」


どの程度、戦に巻き込まれるかなんて想像がつかない。

しかし、言われて気づいた。

落ち武者狩りだ。

負けた方は山伝いに隠れて逃げようとする。

当然、狩る方も山の中を探しに来る。

見つかる可能性があるということだ。


「この伊賀は、大きな戦は長らくない。

 心配ないとは言えないが、山の中に2人でいるほどじゃない。

 この里に来てくれるなら、その子の面倒も見るが、

 その代わり、働いてもらわなくちゃいけない。」


あやのことを考えると、少しでも安全な場所に置いておきたい。

面倒を見てくれる人の存在は、計り知れないほど大きい。

しかし、魔物退治か。

オレみたいなモブでも、異世界系みたいな、オレTUEEEには、

ちょっと、憧れないわけでもない。

だけど、命のやり取りなんだよね。

オレの能力、クロだしな。

葛葉の能力くらいあったら、少しうぬぼれたかもしれないけど、

クロだしな。

でも、あやのことを考えるとな。

それに、何だかんだ、ここの人たち、

悪そうな感じがしないんだよな。

うーん。怖い。どうしたものか。


「まあ、決めかねてるんなら、

 自分がどれくらいか知って、決めてみちゃ、どうだい?」


「どれくらいか?」


「広場に出な。幻太。相手をしな。」


「ウォー。」


ワァッ


後ろの方で雄叫びのような声が上がる。

それと同時に、周りの人からも歓声が上がった。

次々と、部屋から出ていく。


「な、何です?」


「玄太とおまえが剣の試合をするんだよ。」


「オレが!?」


「剣の腕を見せてもらうって言っただろ?」


「あの、少し疑問なんですけど、

 魔物との戦いで剣が必要なんですか?」


「何を言ってんだい。」


里長はやれやれと首を振った。


「酒呑童子の首を切ったのは武士の刀だよ。

 玉藻前を追い払ったのも、武士の弓矢さ。

 能力じゃないさ。刀や弓で止めを刺したんだよ。」


葛葉の能力を見たせいか、

勝手に妖怪大戦争みたいなものを想像していた。

炎や光線が飛び交うようなことはないらしい。


「陰陽師とかは?」


「何言ってんだい。

 あんな星詠みなど、何の力もありゃしないさ。」


「そうなんですか?」


「力があるんなら、まだ、帝に仕えていただろうさ。

 いなくなってるのが、証拠じゃないのかい?

 そんなことより、早く庭に出な。」


急かされて、広場に出た。

かなりの人垣ができていた。


「そこに棒があるから、どれでも取りな。」


チラッと見ると、相手はオレよりでかい。

180cm以上ありそうだ。

肩から腕にかけて、あり得ないほど筋肉が盛り上がっている。


(嘘でしょ。)


北斗な人を思い浮かべたので、

ビビッて、影収納に入れていた、いつもの棒を出そうかと迷った。

我が人生に悔いがあってはいけないし。

しかし、同じ条件じゃないと、後で何か言われるかもしれない。

用意されたものを使った方がいいだろう。


(うん。これかな。)


手頃な一本をつかんだ。

他のよりはまずまずだ。

実は、少し楽しみでもある。

オレは師匠以外と試合をしたことがない。

あれから、少しは腕が上がっていると思いたい。

師匠以外の人と比べる、良い機会だ。


(あ、あれ?)


相手が体の前を、片手で棒を振り回している。

それがものすごく雑だ。

どこがどうとは言えないけど、

腕の振り、振り終わった後の返し、どれも力任せだ。

腕力だけで持って行ってるから、膝から下を活かせてない。


(あー、リズムが悪いんだ!)


上半身と下半身がちぐはぐな動きに見えるんだ。

一連の流れに乗っていないから、

力が一番入りそうなポイントを外している。

あんまり見てると、オレのリズムも崩れそうだ。


「両者、前へ!」


年配の人が掛け声をかける。


「静馬様、がんばってー!」


「お兄ちゃん、がんばれー!」


女の子とあやの声援が飛ぶ。


「幻太、分かってんだろうな!負けるんじゃねえぞ!」


「ぜってぇ、勝てよ!」


「負けたら飯抜きだからね!」


やはり、相手の方が声援が多い。

脅迫めいたものも多いけど。


「始め!」


掛け声で、相手が後ろに飛んで、距離を取った。

オレは左手に棒を持ったまま、

相手の動きを見ている。

腕の張り。目に力が入った。


「せやぁー!」


相手が大声を上げ、勢いよく両手で棒を振り下ろした。

しかし、オレは紙一重で避けると、

相手の右横に移動しながら、相手の首の後ろに棒を当てる。

首に当てられた感触で、相手が不思議そうにオレを見た。

なぜ、棒が首に当てられているのか、分かっていなさそうだ。


・・

・・・

ウォー!!!


一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声が上がる。


キーーーン。


(み、耳が。)


「おい、見えたか!?」


「分からなかった!」


「強いぞ!」


「いや、速いぞ!」


タイミングと軌道が分かれば、難しくないんだけどな。

ここら辺は、師匠に散々、しごかれたし。

地獄の日々を思い出して、遠い目になった。


「静馬様!」


「ぐぇ!」


また、女の子が、今度は後ろから抱き着いてくる。

く、首が!!


「すごい、すごいです!静馬様!

 幻太は、里でも一二を争う剛の者なんですよ!」


「お、落ち着いて。くふぅ、」


女の子の興奮は収まらない。

それどころか、周りがオレを取り囲んできて、

ますます興奮しているようだ。

それどころか、オレの体に、いろんな手が伸びている。

なぜだか分からないけど、どの手もオレを引っ張っている。


(く、くび、い、いきが、)


どういう状況が分からないけど、

綱引きが始まっているかのようだ。


「皆、何してるの!静馬様から離れなさい!

 誰ですか!私の静馬様を引っ張っているのは!」


女の子の声を遠くに聞きながら、次第に意識を失った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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