021.女の子
(この小屋ともお別れか。)
感慨深い。
あやと師匠と、必死で生きてきた小屋だ。
もう戻ってこれるか分からない。
戻ってこれたとしても、誰かが住み着いていると面倒だ。
この小屋には戻れないと思ってた方がダメージは少ない。
一応、戸にオレとあやの名前を刻んでおこう。
いろいろ手を入れて、住みやすくなってきたのにな。
夜のうちに、持っていけるものは影収納に入れておこう。
畑にやって来て、野菜を見下ろす。
収穫はまだ先だけど、大きく育っている野菜にうれしくなる。
収穫作業のための4輪の台車が目に入った。
切り株を、ひものコンパスで丸く成形したタイヤ。
中心をくり抜いて、棒を通しただけの車輪。
サスペンションなどなく、ただ、車輪を取り付けた板。
あやの足じゃ、長距離はしんどいから、
これに乗せて行こうと思っているけど、
山道をこれで行ったら、おしりが痛いよな。
竹でサスペンションを考えてみる。
あやの体重なら、竹でも何とかなるだろう。
(車軸は、水車を利用して削ったな~。)
何度見ても、ほれぼれするような出来だ。
ほぼ均一に丸く削れているもの。
「おっと、見とれてる場合じゃない。」
自画自賛もいいとこだ。
ちょっと、苦笑いして、サスペンション制作に取り掛かる。
といっても、何のことはない。
今の台車の上に、木枠を取り付け、
木枠の内側に竹を半円(ほぼかまぼこ型)にはめて、
竹を挟むように内側に木をはめる。
そして、竹の上に板を取り付けて完成だ。
座布団代わりに毛皮を置けば、多少、マシになるだろう。
耐久性が問題だけど、数日なら大丈夫だ。
寝てもいいように、背もたれと、
あやが落ちないように、柵を両側に取り付けよう。
柵の上をひもで縛れば、シートベルトになるかな。
寝不足だけど、同行する人たちの驚きにも鼻が高いが、
何より、あやの喜びように、作った甲斐があった。
子供は乗り物、大好きだもんな!
けもの道のような細い道で、ガタガタだ。
あやは今のところ大丈夫そうだけど、
オレの疲労が半端ない。
車軸のこすれる部分に松脂を塗っているけど、
所詮、木なんだよな。
使ってたの、畑と小屋の間の5mくらいの距離だったから、
全然、気にならなかったけど、
こんなに摩擦があるとは思わなかった。
それも絶妙な重さ。
どうしても押せないほどじゃないし、
かといって、指1つですーっと進む感じでもない。
動き出す時に、ぐっと押すくらいと言えば伝わるかな。
これを平坦じゃない道で4時間も押すんだから、まあまあだ。
まあ、でも、にいちゃん、がんばる!
1~2時間毎に休憩するうちに、
みんなと打ち解けて、交代で押してくれるようになった。
ありがたい。
まあ、あやのかわいさでは当然だ。
素直だし、優しいし、がんばるし、
ちょっとドジっ子そうなところもあってかわいいし、
みんながそうなるのも仕方ない。
当然といえば当然だから、驚きはないんだけど、
予想以上にメロメロで、オレがヤキモチ焼くくらい、
あやを囲んでワイワイ話が弾んでいるんだ。
あやも段々と打ち解けて、よく話し出した。
2日目にもなると、
あやと話すために台車を押したい人ができちゃって、
オレが押せない状態になった。
いつの間にか、押す人が優先みたいな空気が・・・
(ま、まあ、ビクビクしながら歩くよりはいいんだし、
取られたなんて、思ってないからな!)
淋しさは感じるけど、
あやの社会を広げるためには、
オレが我慢すればいいんだと思い直す。
いつまでも、話すのがオレだけじゃダメだ。
考え方が偏るといけないし、
積極的で明るい子に育ってほしいんだし。
クロも人気だ。
特に、楓っていう女の子に。
女の子はかわいいものが大好きだ。
クロはちょっと小憎らしくなってきているが、
子犬だし、かわいらしい。
最近は忙しかったので、
あやに任せっぱなしで、かまっていなかったこともある。
オレに寄ってこないのは仕方ないと思わないでもないが、
一応、おまえ、番犬じゃん。
まだ、明確に味方になったわけじゃないのに、
腹を見せてゴロンと寝転がってるのはどうなのよ?
油断させるための演技だよな。
信じてるぞ。
まあ、いい。
それはいい。
それはいいんだが、
オレが呼ばれたはずなのに、
オレがぼっちなのはどういうことなんだろう。
先頭は葛葉、次に雷蔵さん、あやと3人、オレの順。
クロはあの犬とどこかを走り回っている。
誰にもかまってもらえずに、一人で歩いている。
いや、かまってもらいたいわけじゃない。
わけじゃない、わけじゃないんだけど、
こう、一人だと、なんて言うの、ねえ。
オレ、何で歩いてんの?
それと、もう一つ、モヤモヤすることが。
仲良くなって、葛葉、雷蔵さん、紫雲、楓、紅雲と
呼べるようになった。
最初に小屋に来た、葛葉が19歳、雷蔵さんは36歳、
森の中にいた、紫雲と楓が15歳、紅雲が13歳らしい。
紫雲と紅雲は兄弟だ。
で、葛葉は、
「葛葉と呼んでくれ。」
と言うので、年上だけど、葛葉と呼び捨てにしてるんだけど、
こう言うもんだから、サバサバした人なんだと思ってた。
キレイな顔立ちでスタイルも良いし、
スーツを着せたら、できる秘書みたいな感じだったのに、
段々、マイペースで、余り考えていない、
どちらかというと、ポンコツなことが分かってきたんだ。
「葛葉、こっちだ。」
「葛葉、そっちじゃない。」
先頭を歩く葛葉に、雷蔵さんの声が飛ぶ。
女の人って、方向音痴な人が多いから、
まあ、仕方ないよねと思っていたんだけど、
こっちはあやもいるし、台車も押してるのに、
藪の中をショートカットしようとするんだ。
雷蔵さんがいなかったら、道なき道を行こうとする。
雷蔵さんが2番目を歩いているのも、これが理由だ。
ザ、直線。
何が何でも、ザ、直線なんだ。
おそらく、里とここを一直線に結んでいる。
方向音痴じゃなくて、直線なんだ。
こいつ、もう、こいつって言うけど、
こいつの能力は、ロケットパンチ。
金剛拳と呼んでる、気の塊みたいなものを飛ばすんだけど、
崖をそれに乗って越えやがったんだ。
「えっ!?」
アレをやれと?
サッ
ササッ
3人に目を向けると、
オレと目が合わないように逸らされる。
雷蔵さんを見た。
「静馬殿、もう少し、先に行けば、橋がある。
葛葉、右手の橋に向かってくれ。」
葛葉がコクンとうなづいた。
雷蔵さんは慣れているのか、
何事もなかったような顔で歩いていく。
(えっ、普通なの?何も言わないけど??)
驚きはしたが、後で聞いたら、
葛葉は対岸に渡ってロープを掛けるつもりだったらしい。
残念なのは、橋があることを忘れていたことだ。
まだ、どっか抜けてるレベルで済んで良かったけど、
この時は、こいつ、考えてねーなと本気で思ったもん。
こいつ呼ばわりも、これが決定的だったかな。
みんなが楽しそうに歩いていく後を、3日歩いて里に着いた。
里は本当に山奥だった。
甲賀と伊賀の中間にあるらしく、
山奥といっても、山深いというほどではなく、
ほどほど開けていて、真ん中に川があり、
家や畑も多そうに見える。
里の入口には、それと分かるように、
丸太を地面に隙間なく打ち込んだ柵がされているけど、
両側に2mほどで、里を覆っているようじゃない。
入口だと分かるようにするためだけなんだろう。
それよりも、
(気になるな。)
こっちをすごい笑顔で見ている女の子がいる。
オレと同じくらいの歳で、びっくりするぐらいの美少女だ。
美少女の笑顔はとてつもない破壊力だけど、
里の入口でずっと笑っている女の子は、
どちらかと言えば気味が悪い。
正気だと思うけど、
これで声を出して笑っていたら、
後ずさっていたかもしれない。
この一行の帰りを待っていたんだろうか?
雷蔵さんの娘とか、恋人がこの中にいるのかな?
理由があるんだろうけど、それはオレに分かるはずもない。
何だか、オレの方を見ている気もするけど。
初めて見る顔だから、物珍しいのか。
美人だろうが何だろうが、物も言わず、
ただ笑っているのはちょっと怖いので、
刺激しないように、見ないようにしていよう。
怖いと思い始めたら、本当に怖くなってきた。
とにかく、関わらない方が無難だ。
何が怖いって、オレは幽霊より人間が一番怖いと思っている。
熊や幽霊にだって理由があるはずだ。
理由なく襲われ出すと、世紀末だ。
ゾンビが蔓延る世界になるだろう。
それと比べて、人間は、訳の分からないタイミングで、
何かのスイッチが入る。
昼も夜も関係ない。
次の瞬間、襲い掛かってくるんだ。
50億人の誰が大丈夫で、誰が大丈夫じゃないなんて、
分かりようがない。
大丈夫じゃない1億人の中に自分がいたら、どうするんだ?
世の中、「正気か?」と言いたくなるようなことを
言っているヤツもいる。
インタビューされてる子が変わっているのかもしれないけど、
都会のJKなんて、正直、何言ってるか分かんないぞ。
入口に差し掛かる。
つまり、笑っている女の子のいるところだ。
先頭にいた葛葉が立ち止まり、
それに合わせて、全員が立ち止まり、頭を下げようとした。
「ただいま、戻りま、」
女の子が、先頭の葛葉と雷蔵さんの間をすり抜けて、
いきなりオレに抱き着いてきた。
「な、な、なな、ななな、」
「やっと会えました!
ずっとお待ちしてたんですよ!」
女の子がぐいぐい力を込めてくる。
意外に力が強い。
みんな、茫然としている。
「な、なに、が、」
必死に声を出す。
オレの声で、2人が我に返ったようだ。
「佳月様!」
「何をなされます!」
葛葉と雷蔵さんが女の子を引き離しにかかる。
しかし、女の子は離れようとしない。
「やっと会えたのです。
少しくらい構わないではないですか。」
「お客人が驚いています。
遠路はるばる来られたのです。
先ずは、屋敷にお通ししませんと。」
女の子は言われてキョトンとしていたが、
次の瞬間、ハッとしたようだ。
オレから離れて、身仕舞を正した。
「そうですね。私としたことが。
あら?もう一人、お客様がいるのね。」
佳月様は、あやの前にしゃがむと、あやに話しかけた。
「お名前は?」
「あや。」
「ちゃんとご返事できてえらいわ、あやちゃん。
よろしくね。」
女の子が笑いかける。
あやが照れて、オレの後ろに隠れる。
クロを見て、笑ったようだ。
もちろん、見えているんだな。
「じゃあ、行きましょうか。
こちらへどうぞ。」
女の子があやに手を差し出した。
あやはその手を取った。
二人で微笑み合いながら歩き出す。
ええ~~~~~
雷蔵さんが手を出して、オレに歩くように促した。
何がどうなっているのか、意味が分からないまま、
女の子の後を歩いて行った。
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