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017.来訪

黒い服の集団が港に降り立った。

余り見ない格好に、周りの人々が仕事の手を止める。

黒い服の一人が空に目を向けた。


「神が我々を祝福してくれたかのような晴天ですね。」


「まさに、おっしゃる通りです。」


「ここがジャポネですか。」


「ええ、そうです。やっと、たどり着きました。」


「国を出て3年。各地で神の教えを広めながらとはいえ、

 長かったですね。」


ブッソリーニは行き交う人々を眺めた。


(なるほど。各国とも、文化水準はそれほど変わりませんか。)


これまでの国々で見てきたように、着物という服を着ている。

商人の屋敷だろうか、大きな屋敷がいくつも軒を並べている

その屋敷の前に、積み重なった荷物が置かれていた。


「ブッソリーニ様、一先ず、宿に向かいましょう。」


「はい。」


(この地に神の救いあらんことを。)


ブッソリーニは、無事にたどり着けたことを神に感謝しながら、

そっと十字を切った。

そのブッソリーニたちと離れたところに、

同じ服に身を包んだ者たちがいた。


「ブッソリーニ司祭は、どこに向かうとおっしゃっていましたか?」


「ブンゴという地です。」


「ブンゴ。どういうところでしょう?」


「海の幸も豊富で、とても豊かな土地とのことです。

 積極的に我が国との交易に力を入れているようです。」


「そういうところであれば、活気もあり、

 なおかつ、人心も落ち着いているでしょう。」


「そのようです。その地の領主、ダイミョーと呼ぶのですが、

 今回、洗礼を受けるつもりがあるのだとか。」


「おおよその知識は持っていますが、

 そのダイミョーは、どの程度の力を持っているのでしょうか?」


「地方の領主に過ぎません。」


「なるほど。それでは、我々の目的を叶えるためには、

 やはり、国王の力が重要ということですね。

 国王に拝謁できるのでしょうか?」


「国王は京と呼ばれる地にいます。ここから遠いところです。

 それに、拝謁は難しいと思います。」


「なぜでしょうか?

 貿易などに興味がないのでしょうか?」


「国王は、政治を行っておりません。」


「そうでした。ジェネラルがいるのでしたね。」


「そうですが、ジェネラル、ショーグンというのですが、

 ショーグンも政治を行っておりません。

 この国では中央で長らく戦いがあったようで、

 各地の領主が、それぞれの領地を治めているのです。」


「ということは、それぞれのダイミョーへ

 布教の許可を願わないといけないのですね。」


「その通りです。」


「では、この国が神の地となるには、

 相応の時間が掛かるということですね。

 なるほど。じっくり腰を据える必要がありますね。

 先ずは、ブンゴの地で、

 我々の目的が果たせるか、見極めるとしましょう。」


「かしこまりました。」


他の3人も頭を下げる。

ローメルは満足気に微笑んだ後、立ち上がるのだった。



その様子を忌々しそうに見た者がいる。


「お偉い方は、気楽でいい。」


小太りの商人は、道端にうずくまっている少女を見ながら、

下卑た笑いを浮かべる。


「ふん。まあ、と言っても、こちらも楽な商売ではあるのだが。」


「ここの領主は友好的と伺いましたが。」


若い商人が答える。

手には東アジアの地図を持っているようだ。

日本の位置には、大小の楕円が3つ描かれているだけで、

精巧とは言い難い。


「ああ。既に洗礼を受けている。」


「それならば話が早そうですね。」


「ふん。蛮族など、物の価値など知りもしないから、

 こちらの言い値で買うのだ。

 帰りは帰りで、たっぷりと荷を積んで帰るので、

 さらに儲けが増える。」


「船に乗りますか?」


「100人ぐらいなら乗るだろう。」


「この間、ビスケス様は『50人でも難しかった』と

 おっしゃっていませんでしたか?

 蛮族のエサも必要ですし、貨物室に詰め込んでも、

 さすがに100人は難しいのでは?」


「それぐらいでなければ、儲けが出ない。

 なに、子供であれば、それほど場所も要らぬだろう。

 積めるだけ積めばいい。

 エサなども必要ない。

 2日に1度くらい、水とパンを与えておけば、

 半月程度であれば、死なんだろう。」


「それならば何とか。」


「司祭様に頑張っていただけば、

 このキューシューという地の多くが神の国になる。

 そうなれば、蛮族共も神のために働けるのだ。

 この上ない幸福であろう。」


ニヤニヤと商人が嫌な笑い方をする。

もう一人もおかしそうに笑う。


「全く、その通りですな。

 神のために働けるのであれば、本望でしょう。」


「そうだ。

 神は支配する者と支配される者をお創りになった。

 我々と蛮族どもをな。」


商人は、また、少女に視線を向ける。

その醜く歪んだ顔を、横目で見ている者がいた。

その顔はまるで苦虫を噛み潰したようだ。

ブッソリーニ司祭に今後のスケジュールを確認した後、

自分の船に戻る途中、商人の船の横を通ったのだ。

しかし、横でなくても聞こえていたに違いない。

商人たちは、言葉が分からないと思って、

大声で話していたのだから。



バーーーン!


大きな音と共に、開けられた提督室のドアが勢いよく閉められた。


「どうしました?気が立っているようですが?

 司祭様から、何か、お小言を?」


「豚どもめ。」


「また、何かありましたか?」


提督室には華美な装飾はない。

机とベッド、防具や日用品を入れている道具箱が

いくつかあるだけだ。


「虫が好かんヤツらだ。」


男は道具箱を開け、ワインの瓶とグラスを取り出した。


「また、例の話ですか。」


「飲むか?」


「いいえ。障りますので。」


ふんといった仕草を見せ、男はどっかりと椅子に背もたれる。

瓶のフタを開けたくせに、

天井を見つめたきり、酒をグラスに注ごうとはしない。

無意識なのか、コルクを持った手を椅子の下にだらりと下し、

指でぐにぐにと押している。


「何となく、肌が合わん。」


「誰とでも話が合うタイプでもないでしょうに。」


「オレは商人の護衛がしたいわけじゃない。」


「仕方ありませんよ。王命ですから。」


「オレは海戦がしたいんだよ!旅がしたいんじゃない!」


「平和でいいじゃないですか。」


男は気分直しに、船室の窓から見える港の風景を眺めた。

船を横づけている石積みは、

昔、少しだけだが、港の護岸工事を手伝ったことのある

この男には見事と思える技術だった。


「なあ、ここの港、なかなかの技術じゃないか?」


話しかけられた副官は嫌な顔をする。


「提督、まさかと思いますが、

 一騒動、起こそうと考えてるんじゃないでしょうね?」


提督と呼ばれた男は、苦虫を噛み潰したような顔をした。

まだ、若い。歳は30歳を越えたくらいだろうか。

細身でいかにも海の男という鍛え上げられた体をしている。


「いくらオレでも分かってるさ。

 本国から遠く離れた地で戦争できるわけじゃない。

 すぐに物量の前に負けるさ。」


「この国に海軍はいませんよ。」


「そうなのか?」


副官はこれも若い男であったが、返答した。


「そのはずです。そもそも、外洋に出られる船は、

 基本的に交易船で、戦闘艦ではありません。

 戦争が内戦なのです。そのため、海戦を意識しておりません。」


「しかし、海賊が多いというから、

 オレたちが護衛に付いたのではないのか?」


「そうですが、海賊と提督の望む海戦は別物でしょう?」


「それはそうだが。」


「海賊と戦うのであれば、この国では気を付けた方がいいですよ。

 これまでの大陸沿岸にいるような海賊は補足しやすいですが、

 地図のここの内海は数多くの島々があるそうで、

 その島々の間から多数のボートで忍び寄ってきますから、

 気づいたら乗り込まれているといったことがあるそうです。

 島が多い分、潮の流れも複雑だと聞きますし。

 そうそう!海に渦があるそうですよ!」


「そうなのか?」


「提督ご自慢の大砲も、余り意味を為さないかもしれません。」


「う~む。」


提督は想像した。

ボート。戦闘だから10~20人程度は乗れる船だろう。

しかし、小船だ。

大砲は両舷に3門ずつ載っている。

つまり、1度に片側3発しか発射できない。

全て命中したとしても3隻。両側で6隻だ。

次弾の装填までに、この船にコバエのように群がられたら、

確かに、身動きが取れないかもしれない。

島で隠れて、射線が取れない可能性もある。

しかも、島が多いということは、潮の流れが複雑で、

渦もあるなら、潮の流れが速いということだろう。

下手をすれば、一方的な敗戦になるかもしれない。


「難し・・・そうだな・・・」


「まあまあ。」


副官は笑って、


「大陸沿岸にいる海賊を相手にすればいいじゃないですか。

 あちらは外洋で交易船を襲うので、ある程度、大型です。

 よっぽど戦いになりますよ。」


「海賊は当然、航路の確保のために叩き潰さなければならないが、

 海戦と呼べるのかどうかだよな~。

 オレは勝つ戦いをしたいんであって、負ける戦いなんてご免だ。

 せめて演習でもと思ったが、まあ、あきらめるしかないか。」


「ええ。あきらめてください。

 私は、この任期が解けると、本国で式を挙げるのですから。」


「そうなのか?じゃあ、一杯ぐらいやれ。」


提督はグラスにワインを注いだ。

グラスを副官の方に押しやる。


「では、一杯だけいただきます。」


副官はグラスを上に上げ、ワインを口に含んだ。

香りを十分に味わってから喉に流す。


「無茶なことはしないと誓うよ。

 おまえの女を悲しませるわけにはいかんからな。

 それはいい。それはいいが、

 それにしても、クソったれな仕事だ。」


船室の窓から外を眺めながら、提督はコルクで蓋をした。



それらの様子を離れて窺う者がいた。

笠をかぶり、小袖の重ね着に脚絆という格好だ。

手には錫杖を持っている。

いわゆる、高野聖だ。


「また、伴天連が来た。

 私は少僧都にご報告する。

 おまえたちは、引き続き、どこに向かうか探ってくれ。」


「かしこまりました。恵信大律師。」


「気をつけるのだぞ。」


「ハッ。」


港を急いで離れながら、恵信は思う。

最近、伴天連の船が多くやって来るようになった。

それと同時に良くない噂を聞いた。

信者を増やすことで、侵略しようとしているという噂だ。

あの大明でさえ、屈したのではないかという噂だ。

恵信は笑えなかった。

この国にも前例がある。

加賀は百姓の持ちたる国になった。

守護の悪政が原因だったことは間違いない。

しかし、一向宗が拠り所であったことも事実だ。

それは、他の領地であっても同じではないのか。

百姓の苦しみは世に満ちている。

第2、第3の加賀が現れてもおかしくないのだ。


「怖い。大名どもがこのまま争っていて良いのか。」


背筋が寒くなるのを覚えながら、

恵信は足が重くなる度に、自らを叱りつけるのだった。

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[気になる点] >(登場人物の考察および時代考証はしていません。) >ショーグンも政治を行っておりません。 ここまではすれすれのところで面白く読めたのですが、色々社会の事を書かれるのなら、少しは合わせ…
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