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016.突然

素振り1,000回のノルマは続けているが、

修業は新たな段階に入り、師匠と試合をするようになった。

最初の1ヵ月はただ打たれただけだった。

師匠は召喚の関係で実体がない。

唯一、触れるのは、腰にある刀だけだ。

なぜ、腰に差すことができるのか、分からない。

その刀は使わず、木刀で試合をするんだけど、

オレの腕や足はアザだらけだった。


「おっ?」


師匠が驚きの声を上げる。

もう1ヵ月経つと、

師匠の攻撃を木刀で半分くらい受けれるようになってきた。

しかし、受けただけなのに、手がしびれた。

野球でバットの芯に当たらないとしびれるというが、

オレは一度もしびれたことがなかったので分からなかった。

師匠に聞くと、刀の軌道、どこに力が載っているかが分からないと、

受けた時にしびれるようだ。

刀は、バットより、はるかに点が小さい。

より繊細さが求められるようだ。

それも、さらに1ヵ月でなくなった。


しかし、こちらの攻撃は当たらない。

さっきも言ったように、師匠は実体がない。

ケガをさせる心配がないから、思いっきり打ち込めるのに、

全然、かすりもしない。

情けないことに、かわされているんだ。

オレのように木刀で受けるわけじゃない。


「どうした?息が上がっているぞ。」


ぜー、はー、


(くそっ。)


「でやぁー!」


ポカン


「いてっ。」


「声を出すな。隙を生む。

 吐く息が多くなれば、吸うのに一呼吸も二呼吸も遅れる。

 何より、相手に攻撃の機を気づかれる。」


「光がきらめくが如く。」


「そうじゃ。

 光るのは、攻撃した一瞬でよい。

 ただ一点に集中するのじゃ。

 そして、常に、次を、流れを意識するのじゃ。

 他の流派と違い、北斗は負けぬこと、

 つまり、生き抜くことを本願とする。

 自分は死なず、相手に死を贈るのが北斗じゃでの。

 一撃に全てを賭けるのは、人生で一度あるかないかと知れ。」


「賭けるべき時。」


「そうじゃ。分かったら、肩の力を抜け。

 息を整えて、常にいろいろなものを見よ。

 相手の目の動き、呼吸、足の運び、腕の張り。

 それを肌で感じるようになれば、達人じゃ。」


「だって、師匠は幽霊じゃん。

 そんなの分かるわけないじゃん。」


静止画のように動かない相手に、何を感じ取れって?


「カッ、カッ、カッ。おお、そうじゃったの。

 じゃあ、気配を感じるんじゃな。」


「それもないじゃん!」


「カッ、カッ、カッ。」


いや、また、それでごまかす~~~~。

難しいのを通り越して、不可能でしょ!

も~、頭来た!


「絶対、一太刀、当ててやる!」


「その意気じゃ!じゃが、当てられてやる気はないがの。」


「むきー!絶対に、当ててやる!」


オレは突進した。右からの袈裟斬り、虎爪を繰り出す。


「ほっ。力が入り過ぎておると言うたじゃろう。」


ポカン


頭を叩かれた。

加減してくれているし、オレより細身の棒だけど、

棒は棒だ。痛い。


「いってーーーーー!」


白光を半身で避けた師匠に、

下からの斜め斬り上げ、昇龍を繰り出す。


「狙いは良かったが、まだまだじゃのう。」


「むきー!」


「だから、肩に力が入り過ぎておる。」


ポカン


「ぐわぁーーー!」


「ほれほれ、もう、終わりかの。」


バチン


「あー、また、腕にアザができるー。」


「ほれほれ、避けんとアザが増えるぞ。」


「ちっくしょー!」


攻撃するが、楽々と避けられる。


ポカン


「声を出すな、と言うとるじゃろうが。」


「おにいちゃん、がんばって!」


カン


「えっ、ちょっと、ちょっと、」


カン、カン、カン


「ほれほれ、避けろ避けろ。」


カン、カン


「ちょっと、待ってってば。」


バチン


「ムカつくーーーーー!」


地面に大の字になって、悔しがる。

あやが手拭いを持ってきてくれる。

心配そうな顔だ。


「一回りも小さい童に心配されるとは、なかなかの兄よの。」


声が笑っている。


「あや、離れていろ。」


あやに手拭いを渡して、立ち上がる。


「くっそーーー!」


「じゃから、声を出すな。」


ポカン


「あっ、つい、力が入ってしもうた。」


「おにいちゃん!」


―あるじー!―


オレが見ている景色が、ゆっくり暗くなっていった。




あやと師匠と暮らし始めて、1年が過ぎようとしている。

相変わらず、師匠に木刀で受けてもらってさえいない。

しかし、修業は、神髄ともいえる段階に入っていた。


「ふむ。最初から驚いておったが、

 おぬしは物覚えが良い。

 良いというには異常すぎるくらいじゃが、

 そろそろ、北斗の極意を教えても良いじゃろう。」


「おお、極意ですか!」


「いや、極意と言っても、戦い方じゃ。

 心構えと言ってもいい。」


「心構え、ですか?」


「北斗の極意にたどり着けた者は、

 北斗の真の剣、北斗真剣を名乗ることが許される。

 言わば、免許皆伝ということじゃな。」


北斗真剣。どこかで聞いたような・・・

何かうさんくささが・・・


「北斗流の極意は、点、ツボを見つけることにある。」


「ツボ?秘孔ですか?」


「ひこうというのは、よく分からんが、

 例えばじゃ。剣を振る時はどのように振るのじゃ?」


オレは促されて、棒を頭の上から振り下ろした。


「もう一度じゃ。」


棒を振り上げようとしたら、手首をつかまれた。

振り上げれない。


「これが点。ツボ、いや、勘所の方が分かりやすいかの。」


「これが?」


「動きには、必ず、初動、最初に動くところがある。

 そこを制す。

 そうすれば、相手は攻められん。」


「おお!」


「つまり、相手に攻めさせないのが、北斗流の極意じゃ。

 刀は振ればこその刀じゃ。振らなければ斬れん。

 振らせないということが肝要じゃ。

 そういうことであれば、最初から刀を取り上げておれば、

 振るものさえ無いということじゃな。」


「何か、卑怯ですね。」


「カッカッカッ!

 兵法と言ってほしいのう。

 相手に何もさせず、こちらは思うまま攻める。

 労力が少なければ、なお良しということじゃな。

 じゃからこそ、逃げることも兵法の一つなんじゃよ。」


「ふ~ん。」


「何やら、反応が薄いのう。」


「そうだ!北斗流に奥義ってあるんですか?」


「研鑽を積み、その先で、各々がつかんだものが奥義となる。

 剣を振ることじゃ。己が剣の声を聴け。

 そうすることで、最速に近づく。

 じゃがの。」


「じゃが?」


「それを超える、極みとも呼べる奥義があるらしいのじゃが・・・」


「らしい?」


「口惜しいが、伝えられるのみで見たことはない。

 見たこともないものを伝えることはできんのじゃ。」


「どんな奥義かは分かるんですか?」


「己の培ったもの全てを燃やす技と聞いておる。」


師匠が遠くを見るような目をした。


「それこそが北斗真剣の究極奥義、必空絶滅。

 神であろうが、魔であろうが、全てを無に帰すと言われておる。

 じゃが、己を燃やし尽くすかもしれん、危険な技じゃ。」


「必空絶滅ですか・・・」


「歴代の北斗で2人が使うたらしいが、使うたものは死んだ。

 息はあったらしいが、伝えるほどの時はなかったようじゃの。

 それ故、正しく伝わっておらん。傍で見ていただけでな。

 しかし、伝わらずとも使えたということは、

 極めた者のみが、おそらく、時が来れば、使えるように・・・」


急に師匠が、がくりと、地面に膝をつく。

師匠に走り寄った。


「師匠?」


具合が悪そうだ。

こんなことは初めてだ。


「まだまだ、おぬしの成長を見ていたかったが、

 どうやら、わしはここまでのようじゃ。」


「え?どういうことです?」


「力が抜けていくのが分かる。

 時が来たようだ。」


「まさか!?」


「そのまさか、じゃな。」


「冗談ですよね?」


師匠がふらつく。

地面に仰向けに倒れこんだ。


「オレ、まだまだ、教わることがあるのに!」


「おぬしの心が導いてくれる。」


その間にも、師匠はかなり苦しそうだ。


「師匠!」


「これを。」


腰に差していた刀を引き抜き、オレに渡す。


「これをやる。」


「いりません。ずっと、いてください。」


師匠は軽く微笑んだ。


「前にも言うたことがあるが、七星刀じゃ。

 北斗の七つの星から光が降り注ぎ、

 形を成したと伝わっておる。

 北斗は天にあって、生死を告げる星。

 振るわれた者に生を告げることもあれば、

 振るう者に死を告げることもある。

 ゆめゆめ、精進を怠るでないぞ。」


「はい!はい!」


涙が溢れる。

オレの初めての師だ。

失いそうになって、初めて気づいた。

いつの間にか、オレの中でとても大きな存在になっている。


「悲しい顔をせずともよい。

 わしは流行り病で死んだ。

 わしの代で途切れることが心残りであったが、

 束の間の生で、おぬしという弟子を持つことができた。

 わしの自慢の弟子だ。何も心配しておらぬ。

 あやのことを・・・守っ・・・」


「師匠!」


師匠の体が、煙のようにスーッと消えていった。


「師匠ーーー!」


「おじいちゃん!」


あやが背中に抱き着いてきた。

オレは痛いほど七星刀を握りしめている。


―くぅ~ん。―


クロが悲しそうに鳴いた。

その姿が、かすんで、よく見えなかった。

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