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014.塩

塩がない。致命的だ。

減塩は大切だ。

そうだけど、全く無いのとは訳が違う。

しかも、減塩というのは現代社会だ。

この時代でも、もちろん、取り過ぎは良くないけど、

とにかく人力の時代では、ミネラルがどんどん汗で流れ出ていく。

牧場の馬や牛は塩の塊をなめている。

ああいう、体が資本な生き物は、体が塩を必要とする。

アフリカのゾウが、はるか遠くの山に登ってまで塩を食べていると、

何かのテレビ番組で紹介していた。記憶では。

それぐらい、生き物に塩は大事なのだ。


どうにかしなければ。

早急にどうにかしなければ。

食べ物に全部、味がない。


「結局、そっちかい!」


一人ツッコミしてしまった。

しかし、最重要課題だ。


「艦長、塩がありません。」


なんて、ボケてる場合じゃない。

味噌がまだまだあるので、毎食、みそ汁でごまかしているが、

最近、あやが微妙な顔をし始めたので、緊急を要する。


「それでは、第一回、山の中会議を開催します。」


議長はオレ。

参加者は、クロ、あや、師匠だ。(加入順)


「緊急開催に参加してくださって、ありがとうございます。

 さっそくですが、問題が発生しました。

 我が家に塩がありません。」


「塩?」


あやが首をかしげる。


「それは問題よな。」


さすが、師匠は分かっている。


―どうするんですか?―


クロは現実的だ。


「買おうと思いますが、少ししか、お金がありません。

 そこで、猪肉を売ったお金を足して、買うつもりです。」


―狩りですね。フンス。―


クロがやる気を見せる。

実際にはそこそこ持っているけど、物価が分からない。

それに、使えば終わる。収入の道もないといけないだろう。


「どうじゃろうの、それは。」


師匠は違う意見がありそうだ。


「どういうことですか?」


「買うのは当然、市じゃろう?あやを連れて行くのか?」


「そこです。問題は。」


「わしはおそらくここを離れられん。

 何となくでしかないが、村からそれほど離れられん気がしている。」


「ですよね。そうじゃないかと思ってました。

 そうなると、あやを連れて行けなくなります。」


―あやはお留守番ですね。じゃあ、わたしも。―


「おい。おまえがいないと、オレはどうするんだ?

 それに、おまえだって、オレから離れられないぞ。」


前に試した時は、500mの壁があったはずだ。

それを超えると、どんどん、クロから力が無くなっていく。


「となると、あやとわしが留守居かの。」


「そうなります。」


「お兄ちゃんと行きたい。」


あやが涙目になって抱き着いてくる。

ううっ。胸に刺さる。


「お兄ちゃんも離れたくないけど、外は危ないんだよ。

 また、悪い人が来たらいけないだろ?」


あやがビクっとする。

まだ半年だし、トラウマから抜け出せていない。


「ね。おじいちゃんと、良い子で待っててくれる?」


あやは返事をせず、

いやいやという風に、顔をオレに押しつけてくる。


(困ったな。)


ここにいても危険なことには変わりない。

しかし、連れて行けば、もっと、いろんな危険があるだろう。

心配だけど、師匠にお願いするしかない。


「師匠、大丈夫ですか?」


「まだまだ、力は感じておる。

 そうそう、消えることはないじゃろう。」


それが心配だったけど、大丈夫そうだ。

急に、あやが一人ぼっちになるのは、かわいそう過ぎる。


「あと、もう一つじゃが。」


「はい。」


「買うのは妥当であるが、おまえのことだ。

 大量に買うつもりであろう?

 小まめに買えるならともかく、ここから離れた市であれば、

 一度の商いが大きくなる。」


「その通りです。

 なるべく、あやを一人にしたくないですから、

 一度で買えるだけ買って、出かける回数を減らそうと思います。」


「それはやめた方がいい。」


「なぜですか?」


「おそらく、塩はそこまでせんじゃろうが、

 だからというて、大樽でも買おうもんなら、目をつけられる。

 おまえのような若造が、いろいろ買おうものなら、

 金を持っていると、近寄ってくる者がいるじゃろうの。」


「そんなもんですか。」


「そんなもんじゃ。

 塩がというより、それほどの塩を買う金に魅かれるじゃろうの。

 襲って、金が無くとも、塩は持っているわけじゃしの。」


それは考えていなかった。

また、あの茶屋のようなことがあると困る。

人と接触すると、揉め事も漏れなくついてくるってのが厄介だ。


「じゃあ、どうしましょう?」


「ふむ。味噌や他のものを少しずつ買って、

 塩は作ればいいんじゃないかの?」


「塩を?塩って作れるんですか?」


「ああ、できるぞ。

 砂の上に海の水を撒いて乾かし、その砂を海水に浸け、

 水だけをすくって煮詰めていけば、塩ができる。」


「それだと、かなり、家を空けないといけないですね。」


「作る量にもよるが、まず2~3日は掛かるじゃろう。

 しかし、襲われる心配や、後をつけられる心配を考えれば、

 思案のしどころじゃと思うがの。」


検討の結果、塩は作ることにした。

この5か月で、拳1つ分を消費した。

村からかき集められたのが、それだけしかなかったから、

かなりの薄めの味つけで、少しずつ使っていたんだ。

2食、塩味か、みそ味だ。

店舗「俺の和食」では、野菜炒めとみそ汁、ふかし芋という、

そうそうたる品揃えだ。

あやは何も言わない。賢い子だ。

オレの方が居たたまれなくて叫びそうだ。

食育は大切だ。

料理が旨いか、旨くないかで、心の成長が違ってくる。

特にオレの。


ここを空けるのは心配だ。

師匠がいるから、襲われても大丈夫。その心配はない。

あやが泣いていないか、それが心配で仕方がない。

途中で引き返しそうだ。

一刻も早く、帰って来なければならない。

確か、市は朝一からやっている。

大垣が近いが、行ったことが無いので、品揃えが分からない。

それに、塩を作るなら海に行かないといけない。

そういや、那古野の市が活気があった気がする。


「ヨシ!那古野に寄って、海に出よう!」


朝の市に行くなら、夜のうちに出ないといけない。

早く出て、なるべく早く用事を済ませて帰ってこよう。

あやを寝かしつけて、外に出る。


「師匠、あやをお願いします。」


「忘れたか?わしはあやを守る者じゃ。

 それより、無事に、早う帰ってこい。」


「はい。」


夜を徹して那古野まで出て来た。

走れメロスの気分を味わっている。

待ってる者のために、約束のために、足を前に出す。

気分が乗ってるからか、まだまだ大丈夫だ。

以前にルームランナーで歩いた速度くらいだったから、

多分、時速5~7kmくらいだったと思う。

それで、夜通し歩いて、今が体感で9~10時だから、

10時間以上は歩いてきたんじゃないだろうか?

とすると、50~70km、

休み休みだったけど、途中、走ったりもしたので、

少なくとも40kmは歩いてきた。

フルマラソンを一般の人でも3~4時間で走るんだから、

10時間も掛ければ、来れるか。普通に。

オレってすごいと思ったのに。

あっ、なんか、疲れが。


思った通り、さすがの活気だ。

味噌を売っていた。

いろんな種類がある。

薄いものから濃いものまで試食させてもらう。

ただ、豆味噌だ。

オレは合わせ味噌派なんだ。

しかも、けっこう甘めの味噌が好きだ。

豆味噌が嫌いなわけじゃないし、

料理によっては豆味噌じゃないと物足りない。

しかし、みそ汁とか、いつも食べるとなると、オレには辛い。

今までも豆味噌だったので、今さら感は確かにあるんだけど、

自分で買うとなると、甘い合わせ味噌を買いたい。

みそ汁って家庭の味じゃん。

今はかなり薄いみそ汁を作っているので、

あやに[これが源家の味だ]というのを覚えてほしかった。

悩むけど、時間もないし、仕方ない。


「あっ!米!」


玄米を売っていた。

実を言えば、味噌は思ったより高くなかった。

庶民に売るなら当然か。

酒は清酒がなく、どぶろくみたいなのしかなかったので、

料理酒としては使えない。

醤油も売ってなさそうだ、

一般的なものじゃないのか。

それで、味噌しか買わなかった分、余裕がある。

「猪と交換してくれ」と店主に交渉した。

嫌な顔をされたけど、物々交換にも応じてくれるようだ。

猪2匹と交換してくれた。

米俵、こんな小さかったっけ?

3段ボックスくらいあると思ったけど、2段ボックスだな。

高いような気もするけど、買えたので満足だ。


「あら、かわいらしい子。」


いろいろ市場を見て回っていたら、

妙に色っぽい女の人に声を掛けられた。

不意に肩に手を掛けられたので、飛び上がりそうになった。

オレも警戒してなかったけど、

クロはどこに行ったのかな?


「うちはちゃんとしてるよ。遊んでいかないかい?」


ああ、そっち。

遊女ってやつですか。

高校生には敷居が高いです。

それに、魔法使いになる予定なので。

ウソウソ。

待ってる妹がいるのに遊んでたら、

「てめえらの血は なに色だ―――っ!!」と言われそうだ。

ひでぶ。


「残念ですけど、金が無いので。」


「あんたを気に入ったのに、残念だねぇ。

 また、来るようなら、池田屋のおスエを訪ねておくれよ。」


「ええ、必ず。」


全く興味を惹かれないが、これぐらいのお愛想は必要だろう。

無下に断れば、変にもめることがあるかもしれない。

何でも、ほどほど。日本人だもの。

ハッキリ、柔らかく断る。

それに、「ああいうお水系の人の言葉を真に受けるな」と、

遠い目をして、父さんが言っていた。

その通りだ。

さっきの人は、オレが好きなのか、

カモが好きなのか、分かったもんじゃない。

キャッチされる前に、市場から出た方が無難だ。


さて、海に来た。

取り掛かろうとして、ふと気づいた。

もしかして、怒られたりしない?

確か、この時代のいろいろな商品には、

組合みたいなものがあったんじゃなかったっけ?

目立たないように、ちょろっとやって、

ササっと帰れば、大丈夫かな?

海水を汲もうと、波打ち際に近づいた。


「入れて帰ればいいんじゃない?」


そうだよ。

ここで塩を作らないでも、海水と砂を持って帰ればいいんじゃん!

影収納に海水をこれでもかと収納する。

キレイそうな砂も入れる。


「ふっふーん。オレって偉い。」


クロがジト目で見てくるけど、そんなことは気にしない。

帰りも順調だ。

クロが後方を警戒してくれているけど、

多分、その心配は要らないぞ。

味噌樽、米俵を買ったところを見られたとしても、

今、手ぶらで歩いてるんだから、あれって思うだろう。

まさか、影収納なんて思いもしないはず。

それに、わざわざ、猪で物々交換したんだから、

金が無いと分かるだろう。

「あいつ、買ったはずの商品持っていないぞ、大丈夫なのか」と、

襲われるより、逆に心配されたりしてw


その日の深夜には戻って来れた。

気力だけで歩くってこういうことなんだな。

ひざが笑うという体験を初めて味わった。


「お兄ちゃん!」


かなり遅い時間だけど、あやが眠れずに起きていたようだ。

小屋に入った時はビクっとしていたけど、

オレだと分かると、布団から飛び出して、抱き着いてきた。


「ただいま。」


あやがオレの服をギュッとつかむ。

早く帰って来れて良かった。


「思ったより、早かったのう。」


「そうなんです。オレの影収納で持って帰れば、

 ここで塩を作れるのに気づいたんです。」


「ここで作るのか?」


「そうです。」


「ほほう。便利じゃのう。」


すぐに眠気が襲ってきた。

遅めの朝食の後、さっそく塩作りに取り掛かる。

2m四方の木枠を作り、その上に砂を並べる。

稽古の後、海水が乾いたのを確認して、砂を甕に入れる。

甕の3分の2くらいの砂が溜まったところで、

影収納の海水を甕に入れ、何度もかき混ぜて、上澄みを煮詰めた。

白いものが残る。

手の先につけて、なめてみる。


ジーーーン。


塩だ。

間違いない。

少しの苦みと、かなりの旨味というか、甘みがある。

自分が作ったから、そう感じるのかもしれないけど、

塩辛いだけの塩じゃない。

感激する。


塩ができた。米もある。

今日は豪華な野菜炒めだ。

温めればいいだけにしていったけど、

みそ汁地獄ではなくなって、うれしそうだ。

玄米は水多め。塩ひとつまみ。上手く炊けたようだ。

口いっぱいに頬張っては、笑い声が上がる。

月並みだけど、この笑顔がないと、料理が味気ない。

実際、行き帰りに一人で食べた猪肉は、今、食べてるのと同じ、

影収納から出した肉なのに、全くおいしくなかった。


これはあれだ。

あやがいなければ味気なく、あやがいればおいしいと感じる。

そういうことだ。

料理が美味しいかどうかではなく、誰と食べるかなんだ。

ということは、必要なのは調味料じゃないってことだ!

次に買うものは、お姉ちゃんなんて、どうだ?

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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