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013.修行

「おお、今の振りは良かったぞ。」


「はい!」


師匠は厳しいが、時々、褒めてくれる。

それがために歯を食いしばっているところがある。

オレってチョロい。

でも、うれしいものはうれしい。


あれから、1ヵ月が経った。

昨日、雪が降った。

小屋が完成していて良かった。


当初、この森の中に来た時、草の上に布団を敷いたけど、

あやもいるし、屋根のある家を急がなければならなかった。

だが、一からなんて造れない。

大工の経験どころか、DIYすらない。

村の燃え残った家を移築するには時間が掛かる。


そこで、竹のテントだ。

三角テントのように竹を組み立て、笹で上を覆い、

入口を何とか塞いだだけのものだ。

隙間風がすごい。

無いよりはマシ。

夜露が当たらないだけマシ。

急造だもの。

オレにこれ以上は求めないでくれ。


とりあえずの家を確保したので、

家の移築に取り掛かろうとしたけど、

ダメだった。早々にあきらめた。

柱の組み方が複雑で、屋根から解体しないと抜けそうにない。

素人には無理だ。手に負えない。

その代わり、家に隣接していた小屋に目をつけた。

藁とかの資材や、いろいろな農具とかをしまっていたようで、

住居じゃないせいか、簡単な造りだった。

それなのに、思い出したくもないくらい、

かなりの時間が掛かった。

解体に1週間。組み立てに2週間。

できた時の感激もひとしおだったけど。


それだけの時間が掛ったのは、

朝晩の稽古の合間にということもあったけど、

解体の途中で柱が倒れて破損。だって、1人なんだもん。

代わりの木材をかき集めないといけなかった。

あそこの小屋梁、はめてるだけで、ほぞで組んでないんだよな。

大丈夫かな~。

それに、小屋はやっぱり小屋。

生活用に改造しなければならなかった。

作業中に雨が振ってきて、壁土が溶けて流れたので、

竹で、直接、雨が当たらないようにしたんだよな~。(遠い目)

床は竹で作った。

太さがほぼ同じで、並べるだけだから、楽なんだもん!

で、出来上がったのがこちら。


  ―――――――――――

 | ベンチ |     |

 |―――――| ベッド |

 入     |     |

 口 かまど |     |

  ――Ⅱ――――――――


かまどの煙をベッドの下を通して外に排煙しようと考えた。

韓国の床暖房だ。ヨンドル?ノンドル?

だが、平らな石がない。小さな石じゃトンネルができない。

かまどより高くないと、上手く煙が流れそうにない。

余計なことをしてると、冬がすぐにやってくる。

結局、床暖房はあきらめ、

かまどの後ろの壁に穴を開けて排煙することにした。

隙間風は格段に無くなったのでヨシとする。

あやとくっついて寝ると熱いくらいだし。


何だかんだ、完成したのが、つい3日前。

雪が降る前に完成して良かった。

それで、今日から本格的に修業パートの開始だ。


「もう100本だ。」


「えー。」


毎日、言われるまま、素振りをして、型の稽古をして、

素振りするといったことを繰り返している。

この時代に来て、体力はできたと思ったが、

剣となると、全然、違った。

真剣と同じくらいの重さになるように、木を削って木刀にした。

最初のうちは、50回振るだけで疲れた。

ただ単に振り回すのではなく、集中して振り下ろすと、

こんなに疲れるものなんだと初めて知った。

しかし、今は半日は振り続けられる。

合戦だと一日振り続けるんだろうから、

そういう化け物と対峙する可能性があるなら、

一日振り続けられる体力をつけなければ。


「おぬし、勘がいいのぉ。」


何日か、「違う」「そうじゃない」と言われ続けた後、

急に師匠が感心したように言ってくれた。


「最初は素人じゃったが、今の振りはそこそこになっておる。

 短い間で、これほど変わる者はおらんじゃろう。」


この言葉がなかったら、ここまで修業に耐えれなかっただろう。

そして、おそらく、「習う」スキルのおかげだろう。

自分でも不思議だけど、師匠の言うことが手に取るように分かる。

頭で分かるというより、感覚的に分かるといった感じで、

スポンジが水を吸うようにといった感じだ。

しかも、吸い過ぎて一杯一杯という感じもしない。

いくらでも入るという感じが残っている。


「ふう。」


振り終えて、地面に腰を下ろす。

陽気もあって、汗びっしょりだ。


キャハハッ


あやの笑い声がする。

小川で晩ご飯の食材を洗っているようだ。

途中途中でクロと遊んでいる。

あやがクロのお腹をさすっている。

クロを護衛につけているが、

クロは護衛の意味が分かっているんだろうか?


「おにいちゃん。」


夜中に泣きながら、オレの服を握りしめてきたのを思い出した。

最近は、夜中に泣くようなことはなくなったが、

それでも、夜が来る度に、不安そうな顔になる。


キャハハッ


あやが楽しそうに笑う。

笑えるようになって良かった。

もう少し、構ってやりたいと思っているが、

一刻も早く強くならなければならない。

あやを、自分自身を、守る力がないと、

もっと悲しいことになりかねない。


―あやが一生懸命にご飯を作っているんですから、

 いつまでも休憩してはダメですよ。―


作業を再開したあやを見ていると、

いつの間にか傍に来ていたクロが小言を言う。

あやに付けていると、お姉さんという意識が芽生えたのか、

話し方がしっかりしてきたのはいいけど、

少しずつ、オレに小言を言うようになってきた。

正直、うっとうしい。

それに、おまえ、人のことを言えるのか?


―分かった。分かった。―


立ち上がって、素振りを始める。


「静馬、こっちへ。」


「はい。」


呼ばれたので、師匠の前に立つ。


「ふむ。体はそこそこできてきたのう。

 おぬしに剣術の型を教えているが、型を言うてみい。」


「風舞と天雷、昇龍に虎爪でしょ。それと白光、それから・・・」


「では、白光をしてみい。」


フッ


必殺をイメージして、技を繰り出す。


「もう一度じゃ。」


くっそー。よーし、もっと速くだなー。


フッ


白光は突きだ。

細かく動きを教えられたけど、

傍で見る分には、ただの突きにしか見えないだろう。

これが奥義なんだろうか?

型だと言うのでやっているが、ちょっとよく分からない。

それでも、剣道なんてやっていないオレには、

一から教えてもらえるので、良い勉強になっている。


「まだまだじゃの。」


「むー。」


「まあ、そう言うな。

 昨日より、良くはなっておる。」


「むー。」


「カッ、カッ、カッ。」


いっつも、この高笑いでごまかされている気がするけど、

ちょこちょこ褒めてくれるから、続いているところがあるんだよな。


「ねえ、師匠。」


「なんじゃ?」


「白光って、突きだよね。」


「そうじゃ。光が白くきらめくが如くじゃな。

 その光を見た時は、死ぬ時じゃ。」


「死ぬんですか?」


「死ぬ。刀で突かれたんじゃもの。」


「それって、刀で突かれたら、たいてい、死にますよね?」


「カッ、カッ、カッー。

 よい所に気づいたの。」


「気づいたのって。」


「白光は、光が白くきらめくが如くと教えたが、

 極めれば、相手が避けられぬほど速く繰り出せる。

 相手が気づけぬほど速く繰り出すということが肝心じゃ。

 そのため、相手には白い光が走ったように見えるじゃろう。」


「剣が光ったと思ったら、突きが決まっているということですか?」


師匠がうなづく。


「北斗の剣というは、死を司る剣と己に課しておるが、

 それは、見えるのは振るわれて止まった後じゃからよ。」


「そんなにすごい技なんですか?」


「カッ、カッ、カッ。」


師匠の高笑いが、いつもより大きい。


「実を言うと、大層な名前をつけているが、

 要は、技を分けるための方便に過ぎぬのじゃ。

 型の本質は名前や技ではないからの。」


「どういうことですか?」


「さっき、白光でも言ったように、他の型では、そうじゃな、

 風舞は、風が舞うように剣を繰り出すと言っているが、

 要はなで斬りじゃ。押し切りとも言うかの。

 刀の半ばから刃を当てて、引き斬ることを教えるためのものじゃ。

 つまり、教えているのは、術理というやつじゃの。」


「術理って、何ですか?」


「理に適った動きじゃ。」


「理に適った?」


「型はあくまで型じゃ。それ以外の何物でもない。

 大事なのは、最も速く、最も重い剣を振るうことじゃ。

 どういう振り方をすれば、どういう斬り方になるか、

 時々の斬ることのできる刃の場所は決まっておる。

 斬り方が頭に浮かんだ方が分かりやすいじゃろ?」


「じゃあ、あれは必殺技とかじゃないってことですか?」


「この世に必殺などというものはない。

 どんなに剣を極めようとも、極めなくとも、

 当たる時には当たるし、当たらぬ時には当たらん。

 型は所詮、型に過ぎぬ。

 道場の試合ではないからの。

 地が平らじゃなし、雨も降れば風も吹く。

 型通りにできる場は限られておる。」


「え~っと、型を覚えても、型通りにならない・・・」


「余計なことを言い過ぎたかの。

 要するに、型は半ばに過ぎず、全てではないということじゃ。

 とりあえずは、型をおぬしのものにすることじゃ。

 型は幾人もの技を継いできた者たちが、長い歳月を掛けて、

 より理に近いものに磨き上げておる。

 おぬしはその型をさらに磨き、

 組み合わせることで負けぬ剣にするのじゃ。」


「負けぬ剣。」


「そうじゃ。わしがおぬしに教えるのは、

 ここぞという時に持てる最大の剣を繰り出せる動きであって、

 勝つためではなく、負けぬことにこそ極意がある。

 それ故、逃げることも戦法に入っておる。」


「逃げてもいいんですか?」


「当然じゃ。戦わなければ負けることはない。道理じゃろう?

 北斗の剣は死を司る剣、見えた時には死ぬと言ったがの、

 自分が死んではいかんじゃろうが。

 カッ、カッ、カッ。」


師匠が高笑いをする。

そんな気はないんだろうけど、

ごまかされている感じがするんだよなー。


「自分の命を賭けることがあるなら、流派の誇りなんぞではなく、

 ここぞという時に、己が命を賭けるべきものに賭けよ。

 いつもいつも、軽々しく命を賭けるのは、阿呆のすることよ。」


「ここぞいう時に。」


「カッ、カッ。

 さあ、素振りを続けるのじゃ。

 剣を振る時は、何も考えず、無心で振るのじゃ。

 少しでも強くなれば、博打もなくなるでな。」


「はい!」


師匠は厳しいが、大事なことを教えてくれている気がする。

まだ実感が湧かないが、いつか、師匠の言うことが分かるんだろう。

それまでは、師匠の言う通り、少しでも強くなることだ。

強くなることで、綱渡りの回数を減らせれば、

向こう側に落ちる確率も減る。


キャッ、キャッ、キャッ、


あやの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

晩ご飯まで、もう一踏ん張りするか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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