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011.女の子

「あー、やっちゃった。」


目の前で寝ている女の子を見ながら、頭を抱えていた。


「いや、だけど、そうだろ?

 あれで見捨てるヤツは、人間じゃないよ。」


切り株に腰掛けたまま、現実逃避するかのように、

膝の上に載せたクロをわしゃわしゃしていた。

だが、無心になれず、途中途中で手が止まる。


「どーすんだよ、これ?」


女の子が布団の中で身を屈めている。

うなされているようだ。

手を握ってやる。

安心したのか、落ち着いたようだ。


「大丈夫だよなんて、何で言ったかなー。」


女の子を見つけたとき、女の子が泣きながら抱き着いてきた。

それを抱きしめてやりながら、そんなセリフを吐いたんだ。

全然、大丈夫じゃない。

何で、格好つけるかなー。

盗賊にだってビクビクしてるのに、こんな小さい子を連れてだぞ!

無責任にも程がある!

じゃあ、何で、ハナから村になんか行ったんだって話だ!


寝ている女の子の前で、

ずっと、どうしようかと悩んでいるけど、答えなんて出てこない。

それどころか、言い訳ばっかりだ。


―あるじー、この子、どうするのー?―


クロが膝の間から女の子を見下ろして、質問してくる。


「どうするって、どうしよう?」


―飼うのー?―


「う~ん。」


火の粉も舞っていたし、

何より、女の子が惨劇を目にしないようにと、

布団で覆って、村の外に出したまでは覚えている。

落ち着くまで、しばらく抱きしめていたことも覚えている。

手を引いて歩いたのも覚えている。

しかし、ここに来るまでがよく分からない。

森の中のようだが、どこだ。ここ。


(飼う、か。)


養えるのだろうか?

仕事が無いって、こういうことなんだなー。

オレ一人なら、何とでも・・・、どうにかするしかないが、

毎月、決まった額が入ってこないと、全然、計算できない。

家もないし、生活基盤って、

1人増えただけで、こんなに揺らぐの!?


「拾っちゃったものは、仕方ないしなー。」


猪肉の残りと、クロがいるから、当面はどうにかなる。

水はそこら辺の湧き水を飲めばいい。

問題は、夜露をしのげる場所だ。

手っ取り早く洞窟なんてあるわけないし、

あっても、狭い日本だ。

誰かがすでに住んでいるだろう。

それに、定住すると、人に見つかりやすくなる。

特に、山の中だと盗賊が心配だ。


「前途多難。」


いや、クヨクヨしたってしょうがない!

この子をいまさら無かったことにできるわけじゃない!

ただなー。

大きくなったら「じゃあな」とはいかないよなー。

責任の重さで押し潰されそうだ。

どっかの村に預けた方が、お互いのためかな。

こんなにネガティブだったかなー?

マイナス思考が片っ端から打ち消すので、考えがまとまらない。

寝よう。とにかく寝てからだ。


「一睡もできなかった・・・」


周りが明るくなってホッとした。

こんなに朝が待ち遠しかったことってあっただろうか。

昨日は、村の惨劇を目の当たりにして、

とても寝れるような気分じゃなかったこともあるが、

オレが殺したわけじゃないのに、

村人の最後の顔が頭から離れなかった。

死んだ、いや、殺された人を初めて見たからかもしれない。

夜がこんなに怖いと思ったのは、幼稚園以来だ。

暗闇から何かが出てきそうで眠れなかった。

それに、この子が大丈夫か心配だった。

あんまり、うなされているから、ショックの余り、

声が出ないとか、精神に異常があるとか、

心配で心配で、何度も、呼吸を確認したもんな。

今のところ、女の子は規則正しい寝息を立てている。


朝ご飯でも作るか。

何かをしていると、余計なことは考えない。

火起こしは慣れたものだ。

あっという間に、そこらの石でかまどを作り、

倒木に火をつける。

肉を刺す枝を、これでもかと削って仕上げる。

どこに出しても恥ずかしくない出来になった。


―クロ、水場を探せるか?―


てっきり、走り回るのかと思っていたけど、

クロが鼻をクンクンさせている。

まさか、水の匂いなんて探せるのか!?


―こっちにあるー。―


―すごいな。近くか?―


―うん。近くー。―


―そうか。じゃあ、この子を見ていてくれ。

 水を汲んでくる。―


―わかったー。―


クロの言う方角に湧き水があったが、全然、近くない。

直接、湧き水を影に受ける感じで中にしまう。

まあまあの量を入れてみたけど、どこまで入るのだろう。

戻ると、枝に肉を刺して、かまどの石の隙間に刺した。

強火で遠火。日吉に言わせると基本らしい。

遠火の距離がちょっと分からないけど。

炎を見つめていると、昨日の光景が蘇りそうになったので、

頭を左右に振った。

しばらくパチパチという音を聞いていると、自然と落ち着いた。


焼き上がる頃に、女の子の目が覚めた。

キョロキョロしているが、目が狂人のそれじゃなかった。

一安心。多分、大丈夫だろう。

焼いた肉を刺した枝を女の子に差し出す。

しかし、女の子は受け取らずに質問してきた。


「おっかあは?」


多分、家の前で死んでいた女の人がそうだろう。

着物が半分、脱がされたような格好で、胸を一突きされていた。

男の人もいたが、頭を割られていた。


「知らない。オレが行った時は、悪い人がいなくなった後で、

 村の人は逃げたんだと思う。」


あっ!そうか!

言ってて気づいたけど、

逃げた人がいたら、戻ってくる可能性があるのか!


「おっとうは?」


「ごめん。知らない。」


女の子がうつむいた。

泣くのかと思ったが、肩を震わせても、声は出さなかった。

手を口に当てている。

誰かが、声を出した方が楽になると言っていたような気がする。

しかし、会ったばかりの小さな子に、どう言ったものか分からない。

つい手を伸ばしそうになったけど、

代わりに、肉のついた枝を持ち替える。

女の子は、少しすると、落ち着いたようだ。

小さな声で少しずつ話し出した。


「おっとうが隠れていなさいって。声を出しちゃ駄目って。」


「そうか。」


多分、お父さんの言いつけを守っているんだろう。

大きな声を出すと、悪い人に見つかるからって。

胸が詰まる思いがした。ゆっくり息を吐いた。


「えっと、名前は?」


「あや。」


「あや、か。オレは静馬だ。」


「せーま。」


「そう。あやはいつくなの?」


手のひらを目一杯、開いた。


「5歳か。あや、ご飯を食べたら、村に帰ってみよう。」


あやが怯えた顔をした。


「近くまで行くだけで、村へはオレ一人で行く。

 あやは、近くで待っていてくれ。」


(死んでいる人を見せれないしな。)


「誰か戻ってきていたら、おまえのことを頼んでみる。

 まあ、とりあえず、それを食べろ。」


あやが枝を受け取って、肉にかぶりつく。

軽く塩を振っているから美味いはずだ。


「水も飲め。」


竹を切っただけのコップに、影の中の水を入れて渡す。


「ゆっくり飲めよ。」


のどが渇いていたのか、一気に飲もうとするので、注意した。

まだ、気温が低い。お腹を壊さないか心配だ。


「びょうびょう」


ちょっと、怯えた顔で、あやがクロを見る。

びょうびょうってなんだ?犬か?犬が怖いのか?


「わんわんだな。」


「わんわん?」


「名前はクロっていう。」


「噛まない?」


「噛まない。」


-クロ、噛まないよな?-


-かまないよー。-


「あっ、しゃべった!?」


クロが話せることに驚いている。

そういや、オレも驚いたなー。

あやと同じようなリアクションだったかもしれない。


・・

・・・


えっ!?


もしかして、見えてる!?


「あ、あや、クロが見えてんのか?」


「びょうびょう?」


「わんわんな。」


「わんわん。」


「いや、見えてるのか?」


「見えてる。」


マジか。これが見えるってことは、能力者じゃ・・・

あやも何かの神降しをしたってことなんだろうか。


「あや、おまえ、何か不思議な力を持っているのか?」


キョトンとしている。

言い方を変えてみたが、何のことか分かっていなさそうだ。

ただ見えるだけで、能力は持っていないのかもしれない。

まあ、でも、クロが見えるのは好都合だ。


食べ終わって、かまどの跡が残らないように片づけた。

布団も影の中に入れる。

あやが目を丸くして見ているが、手品だと言っておいた。

そういうものだと思っているのだろうか。

他の人には内緒だと約束しておく。


―クロ、昨日の村の場所が分かるか?―


―分かるよー。行くー?―


―ああ。あやがいるから、ゆっくりな。―


あやの手を引いてやる。

あんなことがあったんだ。

小さい子は、きっと心細いはず。

クロもオレの心が感覚的に伝わると言っていた。

だからか、心配そうに見上げながら、あやの隣を歩いている。


「おまえが先に歩かなくて、どうするんだ。」


さすが、犬。

途中、何度か立ち止まって、鼻をクンクンさせていたが、

迷いなく進んでいく。


(すごいな、犬って。)


思ったより、結構、歩いていたようだ。

1kmくらい歩いていた。

村が見える森の中で、あやとクロを待たせる。

クロが偵察に行ったが、誰もいないようだ。

昨日と違った匂いがしないので、

夜の間に誰かが来たようでもないらしい。


―クロ、あやを守ってやってくれ。

 オレ一人で行くから、誰かが来るようなら、知らせてくれ。―


―わかったー。―


村に入ったが、やっぱり、何も動く気配がなく、

怖いくらい静まり返っている。

ところどころ、まだ、燃えているのか、薄く煙が上がっている。

まだ、どこか、現実感を持てていないのだろうか。

昨日、あれほど感じた恐怖感が薄れている気がする。

それとも、麻痺してきているんだろうか。

昨日の今日で、少し平気に見ている自分が、少し怖かった。

家の軒数と死んでいる人の数を比べてみたが、

逃げた人はいないか、いても1人~2人だろう。

戻ってくる可能性は低いかもしれない。


あやの家は、屋根が焼け落ちていた。

何か、あやのものがないかと思ったが、

極端に物が少なく、使えそうなものがなかった。

他に持ち出せるものがないか確認するが、ほとんど燃えている。

良かった。

あのままいたら、危ないところだった。

もう1軒の燃えていない家に来た。

火事場泥棒みたいで気が引けるが、もう、誰も住んでいないので、

ありがたく頂戴しよう。

包丁に、鍋、羽釜があった。小屋に鍬なんかもある。

片っ端から影に放り込んだ。


「そうだ!」


食料もあるんじゃないか!

しかし、米が少しバラまかれている他は、

食料になりそうなものはなかった。

軒先に何か干してないかと思ったけど、それもない。

縄が引きちぎられたような跡がある。

柿を干していたようだ。


(あいつらが根こそぎ持って行ったんだな。)


少し怒りを覚えたが、怒ったところでどうにかできるわけじゃない。

それよりも、今は、さっさとここを離れるのが先決だ。


「あ、そうだ!」


良いことを思いついた。

畑に行けば、まだ、何かあるんじゃないか?


やっぱりだ。


何本か引き抜いた跡があるが、収穫前の大根が大量にあった。

他にも、カブ、里芋に、じゃがいもなんてものもあるじゃないか。

こっちの畑はゴボウに、ねぎ、にんにくか。

片っ端から引き抜いて、そのまま、影にしまい込んだ。

そろそろ、引き揚げないと。


あやのいる場所に戻ってくると、

あやがクロをわしゃわしゃしていた。

クロがうれしそうに、しっぽホウキを振り回している。


(楽しそうなのはいいが、

 おまえ、ちゃんと、索敵してたのか?)


オレの顔色を察したのか、

クロが立ち上がり、キリッとした顔をする。


(こいつ・・・)


「クロ、さっきの場所に戻るぞ。」


―はーい。あるじー。―


あやの手を引いてやる。

クロがあやの足にジャレながら歩いている。

だから、何でオレが先頭なんだよ(怒)

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