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010.燃えた村

「あれ~ぇ、あんた、大垣って、だいぶ北だよ。

 ここは近江との国境(くにざかい)に近いところだよ。」


「えっ、そうなの?」


ざっくり地面に地図を描いて、どこら辺か指してもらう。

なるほど。確かに近江(滋賀県)に入るかどうかのところだ。


「国境は、浅井との小競り合いがあるから気を付けなよ。」


「ありがとう。」


親切な農家さんに教えてもらった。

美濃の斎藤家、北近江の浅井家、南近江の六角家の間で戦が続き、

この辺りの領有が曖昧になっているので、治安が悪いらしい。


―クロ、頼むな。―


クロが尻尾を振りながら、一回りした。

頼もしい。


もう少しで近江に入るという時だ。

時間は夜になったばかりだ。

今夜は満月で、かなり明るいので、日中と変わらず、歩いて行ける。

遠くに村があるような気がする。

月夜とはいえ、遠くの家は黒い影でしかない。

2階建ての家なんてないし、

基本、一部屋か、二部屋しかない、小さな家しかない。

前は、大きな岩を見間違えていた。


今度は多分、家だと思う。

尾張と美濃の境もそうだったけど、

国境は紛争地帯なので、家なんか無いのが普通だ。

あっても、数えられるほどしかない。

遠目に見たら、村なのかどうかも分からない。

そんな状態で宿なんてないだろうし、泊めてくれるか分からない。

どっちみち、宿に泊まったこともないので、どうでもいい。

それに、野宿の方が気が楽だ。近くの木の上で過ごすか。


「ウゥ~。」


街道がクロスしているところに差し掛かろうとした時だ。

クロが左側の道を気にし始めた。

唸り声を上げ始めたので、かなり危険だと判断した。

街道を避けて、茂みに入った。

遠くに灯りが近づいてくるのが見えた。

しばらくすると、大きな掛け声も聞こえてくる。


「者ども、遅れるなよー!」


「おおー!」


もう少し後ろに下がろうかと思ったけど、

後ろはそれほど高い草が生えていない。

これ以上は下がれそうにない。

灯りは交差点で停止した。


「どっちの道だ?」


方角を確認しているようだ。

馬に乗っている人が4人。馬に乗っていない人が9人。

走っている人は、手に松明を持っていた。

この間の盗賊とあまり変わらない格好だったので、

こいつらも盗賊なのかと思ったけど、

馬上の人はお揃いの鎧を着ている。

1人だけは陣羽織っぽいものを着ている。

あれが指揮官かな?

多分、どっかの家来だろう。

戦に負けて逃げた人とかを追っかけているんだろうか?


「ん?」


見すぎた。

一瞬、陣羽織の人と目が合った気がした。

オレは慌てて、下を向いて、茂みの中で小さくなる。


「どうされましたか?」


「そこの茂みで何かが光ったように見えた。

 いや、何でもない。獣の類じゃろう。」


「見て来ましょうか?」


「いや、良い。殿がお待ちじゃ。急ぐぞ。」


こちらに歩いてくるような気配があったが、同じ声が呼び止めた。

一行は、オレが進もうと思っていた西への道を走り去っていく。


「危なかった。」


松明で目が光ったのかもしれない。

用心して、小一時間ほど、そのまま茂みの中で隠れていたが、

引き返して来る様子はなかったので、街道に戻り、歩いて行く。

あっという間に走り去っていったが、

戦もあのスピードで移動するんだろうか。

鎧も着てたのに、昔の人ってすごいな。


「えっ?」


村がある空が明るかった。

さらに歩いて行くと、空が夕焼けのように赤い。

さっきの人たちが帰ったから、

盛大に篝火でも燃やしているんだろうか?

もしかしたら、ワンチャン、泊めてくれるかも。

ちょっと怖いので、もう少し近づいて、様子を見てみよう。


「ウゥ~。」


しばらく歩いていくと、

クロが前方を見ながら、また唸った。

慌てて茂みに隠れる。


ガラガラガラ。


今度は、目が合わないようにちゃんと隠れたので、

後ろ姿しか見ていないが、さっきの人たちだ。

2台の荷車に、山のように荷物を積んでいる。

走っている人の何人かは、鎧も服も脱いでいた。

いわゆる、ふんどし一丁ってやつだ。

ふんどしもしてない、真っ裸の人もいる。

まあ、あれだけ走ってたら熱いんだろう。

武士の一行は来た時と同じように、すごいスピードで走り去った。


「あんな色だったかな?」


月明りなので、ハッキリとは分からないが、

鎧の色が明るかったような気がする。

もっと黒っぽかったと思ったけど、

隠れていて、よく見ていなかったから、見間違いか。


「怖そうな武士たちはいなくなったし、

 村の人が起きたんなら、泊めてくれるかな?」


この時代の感覚が分からないので、かなり用心をしている。

落ち武者狩りって、そこら辺の農家がやるんだ。

オレが泊まると、豹変することも考えられる。

山姥って、それじゃないのと思っている。

昔話って、本当に昔にあった話じゃないの?

そんなことをいろいろ考えて、村は通過するだけになっていた。

だが、ずっと野宿だと、緊張がピークに来ることも確かだ。

どこかでは緩めないと、糸が切れた時が危ない。


「おい、おい!燃えてないか!?」


篝火かと思ったら、家が炎に包まれているように見える。

空が赤いはずだ。

炎が天に届くほど、燃え上がっている。

急かされるように、オレは走った。


「熱っ!」


火の粉が降り注いでいる。

手前の4軒の家が、すごい勢いで燃え上がっていて、

その熱気で、村の入り口から中に進みにくい。


ガタン。


「うぅう~。」


炎に包まれた人が家から出てきた。

外に出るなり、仰向けに倒れこんで、そのまま、動かなくなった。

服が燃えたままだったが、少しずつ小さくなっていく。

恐る恐る近づいたが、カッと目を見開いたまま、死んでいるようだ。

腹から出血していた。

深く真横に斬られていた。

はみ出した腸が何とも言えず気持ち悪かった。

吐きそうになったが、何とか耐えた。


相変わらず、火の粉がすごい。

屋根が藁でできているので、ものすごい炎になっている。

頭に振ってきた火の粉を払いのけた。

土壁も炎の熱のせいか、ところどころ崩れている。

まるでオーブントースターの中に入れられたみたいだ。

ジリジリと肌が焼かれているように感じる。

崩れたところから中をのぞいた。


「土間か。」


かまどの周りに、白い米が散らばっている。

木箱とか、(かめ)の破片も散乱している。

奥に目をやると、奥にある部屋も一面の炎に包まれていて、

女の人の足のようなものが見えた。

ピクリとも動かない。

おそらく、すでに死んでいるだろう。


「うわっ。」


覗いた穴のすぐ下に、子供が2人、死んでいた。

おびただしい血が流れている。

目を背けた。


「うげぇ。」


燃えている家から離れて、胃の中のものを吐き出した。

ダメだ。子供はダメだ。

テレビのニュースでも、子供だけはやるせない気分になる。

たいていは、大人の勝手な事情に巻き込まれた子供だ。

朝から子供が死んだニュースを流すなと言いたい。


「嘘だろう!?みんな、死んでるじゃん!?」


口を拳で拭いながら(うめ)いた。

さっきの一行が、ここを襲ったのか!


(何でそんなことを。)


(あ、そうか、台所。)


台所が荒らされていた。

いくらオレでもピンと来た。

あいつら、この村へ食料を略奪に来たんだろう。

あの荷車はそういうことだ。

村人が抵抗したのかもしれない。

それで、皆殺しにされた。

もしかしたら、この火事は、証拠を隠すためなのか?


得体の知れない寒気が、肩や背中を上がってくる。

吐き気じゃない。

胸に何かが、こみ上げてくる何かが、

オレを逃げることから踏みとどめさせていた。

頭が熱い。

クロが心配そうに見つめていた。

笑顔を返せたか、分からない。


村の中心に行くと、目を覆うような惨状だった。

少し広くなった、その場所には、

肩から袈裟に斬られた男の人が、

膝を折って座った形で死んでいた。

足元に赤い水たまりができている。

他の人は、逃げようとしたのか、背中を斬られた人が多い。

8人くらい、男の人が死んでいた。

女の人も5人くらい死んでいたが、男の人と違って、全裸だった。

どの女の人も胸を一突きされている。

その隣には子供も死んでいた。


ガクガクガク


立っていられないほど、足が震えてきた。

膝を押さえるが、びっくりするぐらい言うことを聞かない。


「熱っ!!」


顔に感じた熱さにハッとする。

火の粉が盛んにオレの上に降り注いでいる。

舞っている火の粉で、オレがいる辺りの家に火がつき始めた。


「これはヤバイ!」


屋根が藁だから、すぐに火がつくし、よく燃える。

こうやって、どんどん燃え広がっているのか。

家が崩れでもしたら、逃げ場がなくなるかもしれない。


「クロ、奥に進むぞ!」


辺りを見回すと、村の手前半分が焼けているが、

奥にある何軒かの家は、まだ、炎が上がっていない。

火の粉が盛んに舞っているのが心配だが、

距離もあるし、多分、燃え移ることはないだろう。


―あるじー、声がするー。―


「何っ!?」


―泣き声がするよー。―


「どこ?」


―こっちだよー。―


すぐ手前の燃えていない右の家にクロが走っていく。

家の前、赤くなった地面の上に、2人、倒れていた。

クロは気にならないようで、飛び越えて、家の中に入っていく。

戸は、開けっ放しになっている。内側に倒れていた。


クロが入っていったので、危険はないと思うけど、

念のため、中の様子をうかがってみる。

何かが動いている気配はない。

振り返り、外の様子も確認して、家の中に入る。


―あるじー、ここ、ここー。―


どこだ?

家は2部屋あるようだ。

手前の1つには押入れがあるが、クロの姿はない。


―こっち、こっちー。―


奥の部屋からクロの声が聞こえる。

押入れもあるが、クロは敷かれてある布団を前足で指している。


「ここか?」


―うん。ここー。―


しかし、布団には人が隠れているようなふくらみがない。

掛け布団だけじゃなく、敷き布団もはいでみるが、畳があるだけだ。


―違うよー。この下だよー。―


クロがまた、前足で指し示す。

畳の下、床下か。


「指が入らない。」


板がピッタリはまっているので、持ち上げられない。

何かないかと部屋を見渡していたら、

床の間に竹べらがあるのが見えた。


「あれだ。」


必死に板の隙間に竹べらを差し込んで、力を入れて押し込んだ。

板が浮いた。

床板をどんどん外していく。


「いないぞ!」


―こっちー!―


クロが床下に降りた。


「あ、いた!」


頭を床下に入れると、4~5歳くらいの女の子がいた。


「ひっ!」


オレの顔を見ると、顔が引きつった。

その時、初めて気づいた。

なぜ、来てしまったのか。オレに何ができるというのか。

ただの野次馬根性だったのか、

何も考えず、ここに来てしまったことを後悔していた。


「かわいそうだが・・・」


仕方がない。

オレは生きていくだけで精一杯だ。

住む場所もないオレが人の面倒なんて見れるわけがない。

厳しいが、正直、この子の運命だ。オレには関係ない。

それに、ここは戦国時代。こんな子は数多くいるだろう。

そんな子を全部、拾っていけるわけじゃないし、

面倒になったら、捨てるなんてことができるわけじゃない。

全員を救えないなら、一人を救ったって同じことだ。

他の子を見捨てるなら、この子を見捨てるのも変わらない。

この子の一生に責任を持てるわけじゃないんだ。


そう思っているのに、女の子の手を引いて歩いていた。

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