コント台本「ラブホ横墓地」
幽霊A「いや~、死んでしもたな~。死んだもんは仕方ないけど、なんか成仏できひんなぁ。」
幽霊B「おう、そこの新入り。」
幽霊A「え?僕ですか?」
幽霊B「お前以外誰がいてんねん、そんなとこおらんと、こっち来い」
幽霊A「はぁ・・・」おずおずと近寄る
幽霊B「おう、お前、何やったんや」
幽霊A「えっと・・・何って何がです?」
幽霊B「いやいや、せやから。ほら」
幽霊A「いや、ほらって言われても・・・」
幽霊B(舌打ちして)「死因や」
幽霊A「死因?」
幽霊B「決まっとるやないか、察し悪い奴やな」
幽霊A「はぁ、すんません」
幽霊B「ほんで、何やってん」
幽霊A「えっと、交通事故です」
幽霊B「事故?」
幽霊A「はい。歩いとったら、ながら運転の車に撥ねられて、そのまま」
幽霊B「そうか。そらご愁傷様やな」
幽霊A「はぁ、どうも」
幽霊B「まぁでも、そんな気ぃ落とさんと、嫌な事は忘れよ」
(お供え物の缶ビールを手に取り渡そうとする)
幽霊A「いや、そんな悪いですよ」遠慮がちに受け取る
幽霊B「遠慮せんかてええ、どうせここの人成仏してはるから誰も飲まへんねん」幽霊A「ほなまぁ、いただきます」
幽霊B「まぁせやけど、折角言うのも変やけど、ここで一緒になったのも何かの縁や。仲良くやっていこ」
幽霊A「はぁ」
幽霊B「よっしゃ、歓迎の印にええこと教えたるわ。ちょっと隣の建物見てみ」
幽霊A「あの、何か大きいビルありますけど、あれですか」
幽霊B「あれ実はな、ラブホやねん」
幽霊A「え、ラブホですか」
幽霊B「せや、ちょいちょいあるやろ、墓場の横に建ってるラブホ」
幽霊A「いやぁ、あんま見たことないですけど」
幽霊B「そうか?」
幽霊A「せやけど、こんなとこに建てて客なんか来るんですかね」
幽霊B「そこが不思議な所でな、墓場の近くやろ?人通りが少ないからな、人に見られたくないっちゅう客が案外来るもんや」
幽霊A「そういうもんですか」
幽霊B「せや、大体はあれやな、親とか教師にバレたらマズい学生カップルとか、不倫カップルとかが多いわな」
幽霊A「へぇ、分からん心理ですわぁ」
幽霊B「ほんでな、俺らこの通り幽霊やろ?人目を気にせんと部屋ん中覗き放題や。どや、おもろいやろ」
幽霊A「はぁ、まぁ」
幽霊B「なんや、反応うっすいなぁ。そういうん興味無いんか」
幽霊A「まぁ生きてる時やったら、そら興味ありましたけど、死んでますからねぇ、興奮もしませんね・・」
幽霊B「あ、お前阿保やな、分かってないわ」
幽霊A「何がですねん」
幽霊B「ちょっと考えてみ、ラブホですること言うたら何や?」
幽霊A「何て・・・そら、えっと、アレやないですか」
幽霊B「せや、アレやんか。つまり子作りや。すなわち、生命が宿る行為ということや」
幽霊A「生命が宿る」
幽霊B「そうや。なぁ、ちょっと考えてみ。俺ら幽霊っちゅうのは成仏できひんかったさかい、こないして現世に留まってるわけやろ」
幽霊A「まぁ、そうですね」
幽霊B「ちゅうことはやで、成仏した連中はどうなると思う?」
幽霊A「そら、成仏したってことは、魂が消滅した、とかちゃいますかね」
幽霊B「ちゃうちゃう。魂っちゅうのは消滅なんかせえへん。生まれ変わるんや」
幽霊A「生まれ変わる?」
幽霊B「お前、輪廻転生ちゅう言葉聞いたことないか」
幽霊A「いや、知らないです」
幽霊B「知らんのかいな、最近の学校は何教えてるねん。」
幽霊A「学校で教わるもんなんですか」
幽霊B「あのな、輪廻転生いうのはな、簡単に言うたら死んだ後に別の者に生まれ変わるっていうことや。」
幽霊A「そうなんですか?」
幽霊B「お前も幽霊やったらこれぐらい知っとかんかいな、常識やで」
幽霊A「す、すんません。最近なったばっかりなもんで」
幽霊B「考えが甘いわ、幽霊なるんやったら予め幽霊のこと勉強してから幽霊ならんと、社会人と一緒やで」
幽霊A「はぁ、すんません」
幽霊B「話戻すけどな、つまりこう、隣でカップルが事を致して、命が宿るってなったらやで、既に成仏してた魂がそこに新しい生命として宿るってことや」
幽霊A「はぁ」
幽霊B「その新しい魂に、俺らもなれるっちゅうことや」
幽霊A「ん?どういうことです?さっきの話やと、その輪廻転生するっちゅうのは、成仏した魂が生まれ変わる言うことですよね?」
幽霊B「そうや」
幽霊A「ほな僕らみたいに成仏できてへん幽霊は、まず成仏せんと生まれ変わられへんのちゃいますか」
幽霊B「そこや、俺らにもチャンスがある」
幽霊A「チャンス?」
幽霊B「せや。ほれ、ラブホではつまりこう、男女がコトを致すわけやろ」
幽霊A「そうですね」
幽霊B「ほんで男が果てたら終いやろ」
幽霊A「まぁそうですね」
幽霊B「そこや」
幽霊A「どこです?」(辺りを見回す)
幽霊B「果てたらつまりそれは生命が宿る条件が揃うっちゅうことや。その瞬間にワシらが女の腹にスゥーっと入ってな、憑りついたったら転生するっちゅうわけや」
幽霊A「えーと、つまりなんですか、じゅ、受精卵にくっついて一緒に生まれるみたいな話ですか」
幽霊B「まぁまぁそう思とったら間違いないわ」
幽霊A「ほんまですかソレ。ほななんぼでも生まれ変わり放題ですね」
幽霊B「それがそうもイカンのや」
幽霊A「なんでですか」
幽霊B「これが難しいとこやねんけどな、実はな、男だけやったらアカンねん。男と女が同時にイッた瞬間に憑りつかんと生まれ変わられへんねん」
幽霊A「え、なんですかそれ」
幽霊B「ワシもよう分からんけど、そういう事になってるんや」
幽霊A「そんな男と女が同時にやなんて、そんなん無理ですやん。そんなん漫画みたいなこと」
幽霊B「お前えらい詳しいな」
幽霊A「あ、いやぁ別に・・・」(目を逸らす)
幽霊B「まぁとにかくや、男女が同時に絶頂に達した瞬間に憑りついたらな、新しい人生を迎えることが出来るっちゅうわけや。せやからこないしてラブホの横にいられるのは幸運ちゅうわけや。」
幽霊A「はあ、そうですか。ちなみに今まで成功しはった人はどれぐらいいてはるんです?」
幽霊B「ちゃんと数えた事無いけど、100回に1回とか200回に1回とか、そんなもんちゃうか」
幽霊A「えらい低い確率ですね」
幽霊B「そらそうや、大体男が先にイッたらそんで終いっちゅうのが多いわ。」
幽霊A「はあ、やっぱりですか」
幽霊B「せやで、男は簡単にイってしもて、そっから復活したとしても今度はイキにくくなるからな、むしろ女の方はなかなかイカれへんちゅうことが多いわ」
幽霊A「うーん、やっぱりAVみたいにはいかへんもんですか」
幽霊B「あんなもん只のエンタメや、本気にしたらアカン。それを分からんとAVの真似したがる男が多すぎるから余計に女がイカれへんねん」
幽霊A「えらい怒ったはりますね」
幽霊B「そらそうや、ホンマやったらもっと簡単に転生できとったはずやのに、できもせんのに小手先のテクニックを覚えた気になってるイキガリが多いからワシはなかなか転生できひんねん、ホンマに迷惑な話しやで」
幽霊A「まぁまぁ落ち着きましょ、さっきカップルが入っていきましたよ、あの人らに賭けてみましょ」
幽霊B「カップル?どれどれ(覗く動作)。
なんや、高校生やないか、アカンわあんなん」
幽霊A「あきまへんか」
幽霊B「高校生カップルはまず女の半分ぐらいはバージンやからな、痛ぁてイクどころの騒ぎやあらへん場合がほとんどや」
幽霊A「そういうもんですか、最近の若い子は進んでる思てましたけど」
幽霊B「そんなん一部の子だけやわ。よう考えてみ、そんなに進んでる子が多いんやったらワシらかてもっとぎょうさん女の子とイイこと出来てたはずやろ」
幽霊A「そう・・・ですかね?」
幽霊B「そうやんか、女が進んでるんやったら男かて同じぐらいの人数が進んでないとおかしいやろ。ワシらが童貞っちゅうことは女の方もそんなに進んでないっちゅうことや」
幽霊A「あー、すんません僕は童貞ちゃんですけど・・・」
幽霊B「・・・・・・」(顔が固まる)
幽霊A「あれ、っていうか先輩って」
幽霊B「とにかく!!!」(大声)
幽霊A「!!!」(ビクッとする)
幽霊B「あのカップルはまだ高校生やろ、そんなんに宿れるかいな、子供が子供産んでどないすんねん」
幽霊A「あ、そうか」
幽霊B「そうやでホンマに。もっと他におらんのかいな」
幽霊A「せやけどこんな場所にあるホテルに来ますかね・・・あ、先輩、アレ見てください」
幽霊B「うん?お、中年カップルか・・・。うーん、不倫やな」
幽霊A「え、不倫なんですか」
幽霊B「そらな、中年なってラブホ来るような奴は不倫に決まってんねん」
幽霊A「ちょっと偏見ちゃいますかソレ」
幽霊B「いや、間違いないな。流石にそんな人らに宿ったところで産んでもらわれへんやろ、アカンアカン」
幽霊A「うーん、なかなか難しいですね」
幽霊B「まぁ気長に待つしかないわ。ワシかて10年ぐらいここにおんねんから」
幽霊A「え、10年ですか?」
幽霊B「せや、なかなか上手くいかへんねんけどな、希望は捨てたらあかん、死んだから言うて自棄にならんことや、こっからがスタートなんやと思うことが大事やねん」
幽霊A「先輩は前向きですね。幽霊やのに」
幽霊B「世の中な、やり直しが利かへんことなんかほとんどあらへんねん。」
幽霊A「死んでてもですか」
幽霊B「死んでてもや」
幽霊A「そういうもんですか」
幽霊B「まぁお前もボチボチ頑張り」
幽霊A「はぁ・・・」
幽霊B「お、見てみ新入り、ええ塩梅のカップルや」
幽霊A「ええ塩梅?あぁ確かに、20代半ばぐらいって感じですね」
幽霊B「あれぐらいになると経済的にも安定してるはずやからな、バッチリ子作りできるっちゅうもんや」
幽霊A「せやけど、最近は子供持たへん人も多いし、そもそも20代やからって経済的に安定してるかも怪しいですよ」
幽霊B「なんやて、そんなはずあらへん」
幽霊A「いやぁ、それがあるんですよ。最近は世知辛い世の中になってしもて」
幽霊B「それにしたかて子供作らへんっちゅうのはどうや、ワシら生き物は子孫残すのが本来の在り方やんか」
幽霊A「いやいや、それ言うたらもうハラスメントですよ、今の世の中は」
幽霊B「なんや、ちょっと死んでる間にけったいな世の中になったのう」
幽霊A「まぁ、色んな生き方を認めていこうっていう世の中ですわ。」
幽霊B「せやけどそんなんされたらワシらみたいなんが生まれ変わられへんやんか、困るでそれは」
幽霊A「まぁしゃあないですね、そういう世の中の流れですし。あ、先輩見てください、さっきのカップル、ゴムしてまへんで」
幽霊B「お、これはチャンスや。もしかしたら行けるかもしれんで」
(AVか何かの喘ぎ声を流す)
幽霊B「おお、しかも彼女の方も感じやすい体質やん、これはええ風向きやで」
幽霊A「先輩、10年待った甲斐がありましたね」
幽霊B「ああ、これはだいぶ希望が持てるわ。よし、ワシちょっと近くで待機しとくわ」
幽霊A「行ってらっしゃい、御武運を」
(幽霊Bはラブホに入るため舞台袖から捌ける)
(なおも響く喘ぎ声)
幽霊A「おお、もうぼちぼちイキそうやな、先輩も準備万端や、よし、よし、こや、今や、行け~!
おお、先輩が女の子の方の腹の中にスゥーっと入っていった。これが憑りつくっちゅうことか。これで先輩も生まれ変わるんか。大変な世の中やけど、先輩やったら大丈夫かな。お達者で~」
幽霊B「ただいま」
幽霊A「うわビックリした!え、先輩?なんでいてはるんです?生まれ変わったんやないんですか」
幽霊B「うん、それがなぁ。堕ろされてしもたんや」