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プロポーズ

 快感冷めやらぬボーっとした頭で、和孝の様子を眺める。

 …こんな小箱に入っているものと言ったら…。

「優子さん、受け取ってください。お願いします!」

 優子は飛び起きた。目覚めはいい方だ、が、ここでは関係ない。快感の余韻で腰砕け、などといっている場合ではないじゃない!

「ちょ、ちょっと待ちなさい!あんた、意味わかってるの?!指輪を渡すのは、プロポーズの時よ!」

 少し、いやかなり取り乱した様子の優子に、緊張した面持ちで和孝が答える。

「はい、優子さんにプロポーズしているんです!」

「何バカなこと言ってるの。セックスして舞い上がったるだけでしょう!冷静になりなさい。」

「指輪を準備した時は、こういうことをすると思ってなかったですけど…」

 優子だって昨日の晩まで和孝とセックスをする気は全くなかったし、終わってから買いに行く暇はなかった。まだ早朝ですし……ま、早朝かどうかは問題じゃないですね。

「そ、そうかも知れないけど、昨日今日あったばかりの男の子と……」

「4ヶ月前から色々指導してもらってますけど?」

「うっ」

 確かに……。4ヶ月でプロポーズは、早いかも知れないが珍しいというほどでもない。

「僕じゃダメですか…?」

 不安そうな目をした。

「ダメじゃない!ダメじゃないのよ。全然ダメじゃないけど……そ、そうだ、百合子はどうするの?」

「プロポーズしたいほど城3曹のことを知っているわけではないですから…」

そりゃあ、そうでしょうねえ。そもそも百合子と付き合えるようになるために、優子が指導していたわけですし……

「でも、和孝だったら私みたいな地味な人間じゃなくて、もっとモテる()をいくらでも…百合子だって決して無理じゃないと思うし…」

「え、優子さんすごい人気ありますよ?」

優子は少し情けなさそうな顔で答える。

「癒しの三上だっていうんでしょ。人気があるって言ったってオジサン達だけじゃない…」

 和孝が横に首を振る。

「そんなことないですよ。若い男子の方が癒しを求めてるんです。僕だって優子さんのこと、部隊が違うのに会う前から知っていましたよ。でも優子さんに会ってわかったんです。聞いていたよりももっと優しくて、しかも優しいだけの人じゃないんだって」

 優子は思う、適齢期の男子にも人気があったとは知らなかった。そんなことならもっと若い頃から……いや、知らなくてよかった。

「それはありがたいことだけど…」

 しかし、少しだけ違和感がぬぐえない。和孝はこんな饒舌だったろうか?まるで、私の言うことがわかっているような…

「今日の和孝は、ずいぶん話すのね…」

 和孝は、少し気まずそうな顔をした。

「それはそのう…優子さんに面接の対策資料作ってもらいましたよね。あれを基に対策資料というか、準備を……」

「そう…」

 私が作った資料がベースか…道理で言いくるめられるはずだ、と何か諦念のような気持ちが浮かんでくる。少し喜びを伴った……

「でも……」

和孝はじっと優子の目を見た。

「あの資料に書いてありました。面接だからときれいごとを言っても駄目だ。本当に考えていることでなければ、言葉に力が出ないって。」

「そうね…」

「僕の言葉に力はないですか?」

 どう答えたらいいのだろう?どう答えても安っぽい答えになりそうな気がする…。優子にできることは一つしかなかった。

「はめてくれる?」

と、左手を差し出した。

「はいっ!」

 和孝は震える手で優子の手を押し頂くよう支え、薬指に指輪を通した。

 指輪がゆっくりと関節を通り過ぎるたびに自分のほほの紅潮が高まるのを感じる。こういうときって体温も上がっているのだろうか、と優子は思った。

 しかし、つい昨日まで指導していた男の子のなすがままというのもなんとなく悔しい。憎まれ口の一つもたたきたい。

「お金目当て?体目当て?」

何とか、からかうような口調で言うことができた

和孝は憤然とした口調で言いかける。

「そんなお金や体目当てで優子さんに……」

少し首をかしげて考える。

「あ、でも今日から体も目当てになったかも…。優子さんすごく素敵でした…」

 負けた…優子は、和孝に抱き着いた。

「後悔するかもしれないわよ。私だって、癒されたいし甘やかされたいんだから…」

「僕では力不足かもしれないけれど、優子さんに甘えてもらえるような人間に成長します。」

「じゃあ……」

和孝を上目遣いで見た。

「もう一回…。ちゃんと、自分の彼氏だって感じさせて…」


 絶頂を迎えた瞬間、優子は和孝の背中に爪を立てた。この子は自分のものだ、としるしを残すように…



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