結婚
ゴルフ場ではじめて理央と会ってから、社長と奥様を交えて4人での食事に度々招かれた。社長は忙しく長居はされないが、奥様はいつもにこやかに接して下さり、お二人のオレへの気遣いは嬉しかった。唯、肝心の理央の心は掴めない。気を利かせて二人にして貰っても、大して話さないし、オレの話も聞いているのか良く分からない。
それでも、結婚に向かって準備は進んで行く。式を10日後に控えた時、オレは理央に本音を聞いた。
「いいのよ。あなたと結婚はするから」
「結婚はするってどういうこと?」
「言葉通り受け取って下さって結構」
「愛してはいないということ?」
「そうね。でも、自分で決めたことだから、責任は果たします」
「僕でなくても良かったんですか?」
「そうでもないわ。あなたなら、一緒に並んでも、歩いても、人に紹介しても恥ずかしくない」
「唯、それだけの理由で僕を選んだの?」
「そうよ。それだって立派な理由だわ。あなただって私が社長の娘だから、このまま行けば、次期社長に成れるかも知れないと思ったんでしょう?」
「否定はしません」笑いながら、
「正直なのね。そういうところ嫌いじゃないわ。それともう一つ理由がある。あなたには、お金も地位のある家族も親戚もいない。つまり何のバックもないのよ。だから私から離れられないってこと。賢いあなたなら意味わかるわよね」
オレは全て呑み込めた。理央は結婚しても今まで通り、好き勝手にしたいが為にオレを選んだのだ。
そして、ブランドの装飾品を身に纏うように自分の側に置いても、見栄えのする恥をかかない男が欲しかったということ。
良い話ではないけれどオレだって似たり寄ったり。大して愛してもいないけれど、社長令嬢で誰よりも美しく、魅力的な女を妻に出来るのだから言うことはない。理央の言う通り、何のバックもない、天涯孤独な男にとって、願ってもないラッキーチャンスだ。
間もなくオレたちは盛大な結婚式を挙げた。
理央は3回のおいろ直しを、まるで着せ替え人形のようにして、オレは刺身のつまみたいに、妻の横にくっついていた。身寄りのほとんどいないオレの親代わりは、入社以来の上司である面倒見の良い、7課の部長夫妻が務めて下さり、部長のご家族もオレの親族として、式に参列してくれた。
オレ、29才、理央、31才の春のことだった。