競争
最終面接試験でのオレの望みが叶って、無くても良い課とまで噂される営業7課に配属された。課長は濡れ落ち葉のように、やる気も覇気もない40代の男性。10人位いる課員も皆元気がなく、オレより2年か3年しか違わない先輩もいるのにだ。ここを立て直し、営業成績トップにする事など至難の業。
でも何とかやるしかない。新入社員のオレが何か言っても聞いてはもらえない。逆に生意気だと嫌われるのが落ちだ。言葉より行動。まず、人の嫌がる事からしようと、毎朝、一時間早く出社して部屋の掃除、ゴミ捨てから始めて今日のスケジュールの見直し8時半からのミーティングの準備などをする。段々皆のオレを見る目が変わって来る。
ある日のミーティングの時にやる気を出して貰うように得意の熱弁を振るった。
「他の課の人々が私たちの営業7課を何と呼ばれているかご存知でしょう。無くても良い課と言われて悔しくないですか?僕は悔しくてなりません。皆さん狭き門を突破してここに居られるのに、このまま、こんな風に言われるなんて勿体ないですよ。折角各々力がおありなのに。課長
と心を一つにして、頑張りましょうよ。お願いします」そう言って頭を下げた。課長は「頭を上げて下さい。君の気持ちは良く分かった。私だって悔しい思いはしている。皆だって同じだと思う。でも、どうしたら良いのか分からない。どんどん営業成績は落ちて行く。そうなれば余計仕事は来なくなる。最初は悔しくても、段々それに慣れて、しまいにはどうでも良くなってね。すべて私の不徳の至りです。申し訳ない」課長は人間的には優しく良い人だと思う。けれど仕事人としては押しが弱い。「至らないのは僕たちの方です。もっと頑張って、課長を盛り立てないといけないのに、申し訳ありません」課長のすぐ下の課長代理が続けた。皆、同じ思いであることが分かり、オレは安心した。早速、オレは商品の売り上げをアップさせる戦略を発表した。オレたちの7課は服地を扱う部署。デザイナーに図案を描いて貰い、染めて柄にした生地を売る。
しかし、何事にも流行りというものがあり、特にファッション業界は敏感で、常に先取りする必要がある。どこかで見たでは遅れている証拠。
斬新なデザインの服地をまず開発すること、万人に受け入れて貰えれば、こっちのもの。あとは今あるルートに乗せて売れば良い。課長以下オレの戦略に賛成して、細かく詰めて計画することに話がまとまる。
新しいテキスタイルデザイナーには心当たりがある。デザイン関係の本を見て、その感覚に惹かれ、いつか仕事を頼みたいと思っていた。早速その人にアポを取り、協力をお願いする。彼も何か新しいことをしてみたかったとのことで、あっさりOKをもらった。狙い通り、そのデザイナーの作品は新鮮な中にも
どこか懐かしさもあり、試作品は社内の審査でも高評価を得た。早速、得意先を集めての展示会でも評判は上々。
販売ルートに乗せると瞬く間に売上高は予定を悠かに越えた。女性ファッション誌に服地のデザインが取り上げられるよう、雑誌社に勤める友人に頼み込んだことも効を奏したのだ。そういう努力も認められ、オレは出世コースの入り口に立っていた。