第6話 覚悟と秘密
「ところで従者というのは何をすればいいのでしょうか?」
晴れてミレイスの従者になったものの、どういった仕事なのか分からないルナは彼女に尋ねた。
「従者は基本、主の身の回りの世話や護衛が仕事だ。といっても、君はまず知識をつけるところから始める必要があるけどね」
ルナから尋ねられた事に、ミレイスは従者の仕事がどういうものなのか答えた。
「ご、ごめんなさい」
「いいよ謝らなくて。君を従者にしたのは私だし」
従者として未熟な自分が情けなく感じて謝るルナとその事を笑って流すミレイス。
「ミレイス殿下があんなに笑ってるの初めて見た……」
2人のやり取りを見ていたメイドは初めて見るミレイスの一面に驚いていた。
ミレイスは元々人前ではあまり笑うような人物ではなく、笑うといっても精々軽い笑みを浮かべる程度。
それがルナの前では優しく微笑んだり、年相応の少女のように朗らかに笑いながら会話している。
今までの高潔なイメージを覆す彼女に衝撃と戸惑いが交差した。
「そうだ。君、紙とペンを持ってきてくれる?」
ここで何かを思い出したように、ミレイスはメイドに紙とペンを持ってくるよう命令する。
「か、かしこまりました」
ミレイスの突然の要求に、メイドは慌てて頭を下げて返事すると足早に部屋を出て行った。
「どうしたのですか?急に紙とペンを持ってくるよう言いましたけど」
「ああ。君を従者にする事を父上と母上に報告しなければいけないからね」
ミレイスの言葉にルナは一瞬身震いし、心拍数が急激に加速した。
彼女の両親という事はこの国の王とその伴侶であり、最高権力者とそれに準ずる者になる。
そのような人達が自分のような者を従者として認めるわけがない事は学がないルナでも想像できる。
「そう、ですか……」
どう考えても従者にはなれないと思ったルナは頭を垂れながらあからさまに元気なく返事をする。
「もしかして、父上と母上が自分を従者として認めてくれないかもしれないと思ってる?」
自分が考えている事をミレイスに見透かされ、ルナは身体を一瞬ブルっと震わせる。
「安心してくれ。私が誰を従者にするのかは自由に決めていい事になっているし、私が解任しない限りは例え父上と母上であっても君をどうする事はできない」
「そうなのですか」
「ああ」
ミレイスの言葉にルナは頭を振り上げ、抱いていた不安は杞憂だったと安堵した。
だがそれと同時に、自分が従者でいられるのはミレイス次第である事も理解する。
せっかく手に入れた居場所を彼女の機嫌を損ねて失うわけにはいかない。
恩義に報いる為にも、ルナは立派な従者になる事を心に誓うのであった。
「あの……聞きたい事があるのですが、いいでしょうか?」
「なんだい?」
「先程言っていた国の存亡に関わる書類とは何でしょうか?」
ルナはミレイスの瞳を真っ直ぐに見つめながら、ここまでの会話の道中に出てきた書類の事を尋ねた。
あの時は何も考えずに袋の中に詰め込んだ為、どういった事が書かれていたのかは全く知らない。
知らない方がいいかもしれない。だが、自分が持ち込んだ書類のせいでこの国は窮地に立とうとしている事に罪と責任を感じざるをえない。
今の自分は全くの無力だが、せめてその書類には何が書かれていたのかは知りたかった。
一方でミレイスは、ルナの口からそのような言葉が出てくるとは思わず、眼孔を僅かに縮小した。
しかし、その事は決して他人に漏らしてはならないと女王である母から言われており、彼女に言うことはできない。
「すまないが、それを教える事はできない」
「そうですよね。諜報員かもしれない私には言えませんよね」
眉を下げながら寂しげに笑って自虐じみた事を言うルナに、ミレイスは申し訳なさで胸が押し潰されそうになる。
「じゃあ、私はこれで失礼する。何かあったらメイドを呼んでくれ」
最後にそう言うとミレイスは、こちらをずっと見ているルナから抜け出すように部屋を後にした。
部屋を出たミレイスは、顔を伏せて会議の内容を思い出す。
「言えるわけ、無いだろ……」
自室の白い扉にもたれ掛かりながら、ミレイスは額の真ん中を親指と人差し指で押さえ込んだ。




