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第3話 ミレイス・アーミュラ・イルヴェトリー

 少女が森の中を彷徨っていた丁度その頃ー。

「はぁ!」

 1人の女性が、騎士達を引き連れて魔物の討伐を行っていた。

 彼女の名はミレイス・アーミュラ・イルヴェトリー。少女がいた国の隣に位置する国、サジェノ王国の第二王女である。

 うなじの辺りまであるプラチナブロンドのショートヘアと蒼き炎ような情熱を帯びたアイスブルーの瞳。そして、男と言われたら間違えてしまうような中性的だが整った顔立ちで、特に女性からの人気が高い。

 類稀なる剣術の才能を持ち、8歳の時に当時の騎士団長以外の騎士達を全員負かした事もある。

 その上、勉学の方にも優れており、次期女王は彼女が相応しいという声も上がるが、本人は女王になるつもりはなく、いずれは王位を継ぐ第一王女の補佐として影から支えていければいいと考えている。

 何故、王女である彼女がこんな国境沿いの森で騎士達と共に魔物退治をしているのかというと……。

「お見事です。ミレイス殿下」

「騎士団長殿。こちらの討伐は済みました」

「しかし、殿下が怪我でもされたらと思うと我々としましては心が落ち着きません。どうせ、今回も女王陛下には何もおっしゃっておりませんでしょうし」

 今回の魔物討伐は、彼ら王国騎士団が女王から直々に命令されて行っている大規模な討伐作戦である。

 実はミレイスは王国騎士団には所属しておらず、お忍びで勝手について来ているのだ。

 しかも今回が初めてではなく、騎士達に混ざって討伐や遠征に参加しては母親である女王によく叱責されている。

 だが、彼女は何度女王に叱られても聞く耳を持たずに騎士達と共に戦い続ける。

 彼女がこの様な一国の王女らしからぬ事をしているの理由。それは……。

「国民を守るのは王族として当然の義務です。それにこの国の王になる姉上を守るには、今の私は力不足です」

「殿下ほどの強さでそのような事を言われるとは。この国では敵なしではありませんか」

「この世界には私より強い者などたくさんおりますよ。それに結局、あの方には一度も勝てませんでしたから」

 騎士団長に褒められるも、ミレイスは眉を下げながら自分は弱いと自嘲気味に微笑んだ。

 ミレイスのいうあの方とは、先代の騎士団長の事である。

 彼女が幼少期の頃から騎士団長だった彼は無類の強さを誇っていた。

 ミレイスは剣の師でもあった彼を超えるべく、何度も決闘を挑んだが結果は全戦全敗。

 そして一度も勝つ事なく、彼は高齢の為に騎士団長の座を次の者に譲り、王都を去ってしまった。

「殿下……」

「気分を落とさせてしまってすみません。私はまだ魔物がいないかちょっと見て来ます」

「くれぐれも遠くへ行ってはなりませんよ」

 つい己の未熟さを語り、自分と彼の間に気まずい空気を作ってしまったとミレイスはハッと気づく。

 そして騎士団長の忠告を聞き流し、その場から逃げるように立ち去った。


「全く、何を言ってるんだ私は」

 周りには誰も居ない森の中でミレイスは1人溜め息をつく。

 その時、近くの茂みから何かの気配を感じた。

 彼女は魔物だった場合、いつでも戦闘体勢に入れるよう鞘から剣を抜いて慎重に気配のある方へ近づく。

 気配の正体を知った時、ミレイスは目を見開き、言葉を失った。

 そこには1つの袋を抱えたボロボロの少女が野晒しに倒れていたのだ。

「おい君!大丈夫か!?」

 ミレイスはすぐさま少女に駆け寄り、身体を揺すりながら彼女に話しかけるが返事は返ってこない。

 幸いにも少女の身体はまだ暖かったので死んではいないのだが、それでも命がいつ失われてもおかしくない状態である事に変わりはない。

 今、目の前で消えかけている命を前にミレイスがとった行動はただ1つ。その選択をした瞳には、迷いなど一切無かった。


「騎士団長殿」

「殿下、お戻りなられ……てどうしたのですかその者は!?」

 暫くして戻ってきたミレイスに、騎士団長は驚愕の声を上げた。

 数刻ぶりに戻ってきた彼女は1つの大きな袋を引き下げ、見知らぬ少女が腕の中で眠っていたからだ。

「すぐ近くで倒れていました。身勝手極まりないのは承知の上ですが、私はこの子と共に今から王城へ戻ります」

「ですが殿下、そのような見知らぬ者を連れて王城に向かうのは流石に同意しかねます。よらかぬ事を企んでいる輩かもしれませんし、それにーー」

「騎士団長殿の言う事は尤もです。ですが、今ここで彼女を見捨てたら、きっと私はこの事を一生後悔するでしょう。それに彼女はまだ生きています。救えるかもしれない命を救わずして何が騎士ですか。甘い考えかもしれませんが、己の手の届く範囲で守れるものは全て守りたい。それが私の信念です」

 ここまではっきりと言って来たミレイスに圧巻された騎士団長は、何も言い返せない。

「それでは、失礼します」

 ミレイスは騎士団長に一礼した後、少女を連れて足早にその場を去っていた。

「己の手の届く範囲で守りたいものは全て守りたい……か。殿下に騎士として大切なものを気付かされるとは、まだまだだな、俺も」

 ミレイスに言われた事を思い返した騎士団長もまた、己の未熟さを反省するのだった。


 少女を抱えたミレイスはいち早く森を抜けると、馬を停めている駐屯地へ赴いた。

「どうされましたか。ミレイス殿下」

「森の中で少女が倒れていた。まだ生きてはいるが、危険な状態だ。すぐに私の馬を出してくれ」

 彼女の腕の中で抱かれている少女を見た兵士もまた、騎士団長同様渋い顔をする。

 その反応みたミレイスは次に何を言われるかすぐに察した。

「まさか殿下。その者も一緒に連れて行くのですか?」

「そうだが」

「ですが、そのような何処のものだか分からない者を連れて行くのは……」

「時間がないんだ!すぐに出してもらえないか!」

「は、はい!」

 馬を出す事を躊躇う兵士にミレイスは思わず怒鳴り声を上げ、兵士は慌てて馬を出す準備をする。

 少女の命の灯火が消えてしまう事に焦って感情的に怒鳴ってしまった事にミレイスは自己嫌悪に陥った。

「お待たせしました殿下」

 愛馬を連れてくるよう指示を出したさっきの兵士は、また怒鳴られるかもしれないと明らかに怯えている。

 自分に怯える兵士を見たミレイスは刻一刻を争う事態だったとはいえ、己の不甲斐なさを呪うばかりだった。

「さっきは怒鳴ってしまってすまなかった。今は急いでいるからこれにて失礼する」

「あの殿下。お戻りになるのでしたら、何人か護衛をお付けしましょうか」

「いや、大丈夫だ。君は陛下から与えられた任務を全うするといい」

 護衛を提案してきた先程の兵士に、ミレイスは打って変わって涼しげに微笑んで断る。

「わ、分かりました。お気をつけて」

 彼女の爽やかや笑みに、つい固まっていた兵士は慌てて返事をしてミレイスを見送った。


 兵士に別れを告げたミレイスは、愛馬に跨ると騎士団達がいる森の方を一切振り返らずに王城に向けて走り出した。

 (君を死なせはしない。必ず……!)

 少女を救う為に、ミレイスは愛馬を走らせる。それだけを胸の中に秘めて。

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