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第1話 とある少女の1日

 一切の光が刺さらない暗闇、ポタポタと聞こえる水滴の音、じめじめとした床に寝っ転がっていた少女は目を覚まし、ゆっくりと身体を起こした。

 何故少女がこんな人が住むのに明らかに適してない部屋に居るのかというと、決して罰としてここに閉じ込められてる訳ではない。

 この部屋が少女の自室なのである。

 少女は生まれてからこの暗く湿った劣悪な部屋で過ごしているのだ。

 少女がなぜこんな目に遭っているのかは彼女にも分からない。

 だがそれが当たり前だった為、少女は疑問にも思わないのだ。

 この部屋には物はほとんどなく、少女ができる事はただ湿った床の上で無気力に横になる事だけ。

 これが少女の日常だった。


 すると、この部屋の唯一の出入り口である扉が開く音が鳴り、その音を聞いた少女は僅かに声を漏らし、その場にうずくまる。

 鍵を開けて入って来たのは、屋敷で働くメイドだった。

「お嬢様。お食事と書類をお持ちしました」

 メイドは無機質な声で淡々と告げ、1つのバスケットと大量の書類を部屋に持ち込むとそそくさと部屋から立ち去る。

 少女は部屋に来たのが()()でない事に安堵し、四つん這いで置かれたバスケットに近づいた。

 バスケットの中に入っていたのは小さなパンの端きれが1つと果物の皮と野菜くず。

 明らかに人が食べる物では無いのだが、他には何も無い為、少女はそれを暗くて誰も居ない部屋で細々と食べる。

 これはまだ良い方で、食事が何日も来ない事も良くあるのだ。


 全く腹が満たされない食事を終えると、少女はメイドが持って来た山積みの書類作業に取り掛かる。

 部屋に置かれた質素な机でひたすら書類にサインを走らせた。

 そうしないと()()から何をされるか分からない。

 その恐怖に怯えながら少女は大量の書類にペンを走らせた。


 全ての書類にサインを終えてから暫く時間が経つと、扉の開く音が暗く湿った部屋に鳴り響く。

 扉から入って来た人物に少女は部屋の隅で縮こまった。

「お父様ったら、なんでわたくしにこんな事させるのかしら。こんな所に居たら湿気で髪が台無しになってしまうわ」

 父親への文句をぶつぶつと言いながら部屋に入って来たのは少女の姉を名乗る人物。

 といっても血縁だけの関係で、姉妹である事などお互いに思ってなどいない。

 少女は姉に見つからないよう息を殺し、彼女が書類を持ってこのまま部屋を出ていくのを願いながらひたすら待ち続ける。

 だが、少女の願いはいとも簡単に崩れ去った。

「あームカつくからアイツを一回シバいてから持って行こうかしら」

 姉のその一言で少女の心臓は一気に加速する。

 だが、下手に動いて音でも鳴らせば終わりだからこの悪夢の時間が過ぎる事を待つ事しかできなかった。

「ねぇ〜どこにいるのかしら〜何にもしないから出てきなさぁ〜い」

 コツコツと靴音を鳴らしながらねっとりした甲高い声で姉は少女を探す。

 姉が出てくるよう促しても少女はその場から一切動かず、ただひたすらに息を潜める。

 何もしないなど、どう考えても嘘でしか無いからだ。

「……出てきなさいって言ってんでしょうがあ!」

 痺れを切らした姉は不機嫌になり、手当たり次第に火の玉を投げ始めた。

 この部屋は湿っており、火の玉を投げても火事になるなんて事は無いので姉は少女に当たるまで火の玉を投げ続ける。

 姉が投げた火の玉の1つが少女の真横を通り過ぎる。

「やっと見つけたわ」

 火の玉の明るさで居場所がバレてしまった少女は身体を小刻みに震えさせながら縮こませた身体をさらに縮こませる。

 怯える少女を前に、姉は彼女の髪をおもむろに掴み上げると、悪意に満ち溢れた下卑た笑みを浮かべた。

「お姉様……」

「随分と手こずらせてくれたわね。よっぽどわたくしに痛ぶられたいようねアンタ。いいわ、これからたっぷり可愛がってあげるわ」

 それから、少女は姉にこれでもかというほど虐められた。

 殴る蹴るはもちろんのこと、土下座させた上に頭を踏む、長く伸びた髪を切り落とす、その辺で捕まえた虫やネズミを口の中に押し込むなどその様子は見るに耐えない。

 無機質な顔で自分にされるがままの少女の顔を見て、姉は高笑いを上げながら悦に浸る。

 その様子はまさに悪魔そのもののようだった。

「あースッキリした。お父様に怒られないうちにさっさと上がりましょう」

 思う存分少女を虐げた姉は満足し、書類を抱えると来た時とは軽い足取りで部屋を出ていった。

 姉が部屋から出て行った後、少女は壊れたおもちゃのように無表情でその場に倒れ込む。

 感情なんて出そうものなら反抗的だの何だの難癖をつけられ、更に虐めが激しくなる。

 少女に許された事は、無表情でただ耐える事だけだった。


 姉が部屋を出てからまた暫く時間が経つと、今度はずんぐりとした体型に立派な髭を生やした男が入って来た。

 入って来た男に少女は息を呑み、身体を震えさせる。

 男は少女の父親であり、彼女が最も恐れている人物だ。

 何故、少女が父親を恐れているのかというと……。

「うぐっ」

 腹部を思いっきり殴られた少女は鈍い声を漏らすとその場に仰向けで倒れる。

 父親は少女が倒れると、馬乗りになって少女を殴り始めた。

 父親が少女の所へ行くのはただ一つ、少女を殴るため。

 日々の仕事の鬱憤を少女を殴る事で気を晴らしているのだ。

 無言で殴り続ける父親に少女ができる事は姉の時と同じく、無表情で耐える事だけ。

 暗く湿った部屋で幽閉されている少女の家での扱いはこの通り奴隷以下である。


 気が済むまで少女を殴り続けた父親は、満足すると部屋を出て鍵をかける。

 少女は生まれてから15年。ずっとこの生活を続けているのだ。

 父親に殴られ続けた少女は全身に激痛を走らせながら気を失うように眠りにつく。

 ゴミ同然の食事と膨大な激務、そして父と姉の暴力に怯えながら。

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