プロローグ
むかしむかしのとある王国の物語。
とある公爵家に、姉のものをなんでも欲しがる妹がおりました。
妹を甘やかす両親は彼女が欲しいと言うと、姉の承諾もなしに彼女のものを何でも与えました。
ある時、妹は姉の婚約者が欲しいと言い出しました。
姉の婚約者は王位継承権を持った王子様です。
両親は妹の期待に応えようとしますが流石に婚約者は姉の承諾が必要だと考え、姉に事情を説明し、婚約者を妹に譲って欲しいと頼みます。
自分から全てを奪う妹と彼女を甘やかす両親にうんざりしていた姉は、その事を快諾するとその日の晩に屋敷から姿を消しました。
姉が姿を消した事に気づいてない両親は翌日、彼女の日課だった王子様の茶会に妹を行かせました。
いつもなら姉が来るはずなのに、彼女の妹が来た事に疑問を抱いた王子様は彼女に尋ねました。
その質問が来た妹は待ってましたと言わんばかりに、姉が婚約者を自分に譲ってくれた事に自慢気に話します。
ですが姉を心から愛していた王子様は激怒し、今すぐ姉をここに連れてこいと怒鳴りました。
妹は屋敷へ泣き帰り、両親に王子様は姉以外の人間を愛するつもりはなく、今すぐ姉を呼んで来いと言われた事を話します。
両親は急いで姉の部屋に行き、彼女を呼びますが返事が無かったので恐る恐る彼女に部屋に入ると、そこに姉の姿はありませんでした。
ここでようやく姉が居なくなった事に気づいた両親はみるみるうちに顔が真っ青になり、屋敷の使用人を総動員して姉の捜索にあたりますが、彼女の姿は何処にもありません。
取り敢えず王子様には姉は体調不良で療養中であると説明し、その場を誤魔化します。
すると翌日、王子様が姉の見舞いにと屋敷を訪れました。
姉がいなくなった事がバレたくない両親は、姉は現在屋敷の者以外とは会いたくないという嘘でその場を凌ぎます。
王子様は姉の両親を不審に思いながらも仕方なく帰って行きました。
その間にも捜索を続けてはいますが、姉はずっと前から綿密に計画していたかの如く、痕跡の一つすら見つかりません。
そこで、彼らは国1番の腕を持つという探偵に捜索を願いますが、彼でさえも何も手掛かりは掴めませんでした。
それもそのはず、探偵は姉と一度接触しており、彼女から家が私を探しに頼みに来たら決して探さないで欲しいと頼んでいたのです。
探偵は姉の依頼を守り、彼女の捜索を決して行いませんでした。
いつまで経っても見つからない姉に、両親と妹は自分達を棚に上げて彼女に呪詛を吐きました。
そんなある日、とうとう痺れを切らした王子様が軍隊を引き連れて屋敷を訪れました。
王子様の突然の来訪に両親と妹はパニックに陥り、思わず王子様を屋敷へ通してしまいました。
公爵はしまったと思いましたが後の祭り。王子様はもぬけの殻となった姉の部屋を目の当たりにし、膝から崩れ落ちると屋敷中に響き渡る声で泣き叫びました。
最愛の人を失った王子様は感情のままに公爵をぶん殴ると、彼を問い詰めます。
すると、突然屋敷から居なくなったと聞いた王子様は彼女はどこかで生きているかもしれないという希望を見出し、その日の夜、王位は弟に譲り、自分は彼女を探す旅に出るという手紙を残し、王城から姿を消しました。
出奔というかたちで次期国王になるはずだった息子を失った国王と王妃は怒り狂い、姉の生家である公爵家から爵位と財産を剥奪、両親と妹は王城の地下牢に閉じ込められました。
まず手始めにこうなった全ての原因である妹をありとあらゆる拷問にかけ、その様子を両親に見せつけました。
当然、妹は泣き叫び、娘が痛めつけられてる様を見せられた両親は代わりに自分達が受けるから娘を解放して欲しいと懇願しますが、全く聞き入れられません。
それもそのはず、国王と王妃は姉をとても気に入っており、自分達の娘のように彼女を可愛がっておりました。
その上、姉はとても優秀な人物だった為、息子と共に国を治めていけばますます国は安泰になるだろうと考えていました。
そして何より、2人の婚約は両家による約束で結ばれたもの。
その約束を勝手に破った挙げ句、愛し合っていた2人を引き裂いた彼らに酌量の余地はありませんでした。
度重なる拷問により、妹は何度も瀕死の状態になりますが当然そのまま死なせる訳もなく、王城で働く一流の魔導士による治癒魔法で回復させては再び拷問にかけました。
この頃から両親にも拷問をかけるようになり、朝と昼は妹に、夜は両親に拷問がかけられ、地下牢には一日中彼らの苦悶の叫びが薄暗い廊下に響き渡りました。
そして拷問をし続ける事1ヶ月、両親と妹は約束を勝手に違え、王家に大損害を与えた逆賊として公開処刑される事になりました。
処刑執行日当日、度重なる拷問により、彼らはもはや人としての形を保てているのかすら疑いたくなる程、歪な形状をしており、処刑前の王都連れ回しの際、彼らの姿を見た者は魔物と見間違えた程です。
そして執行の際、彼らはそれぞれ別の方法で処刑されました。
まず、夫人は身体を張り付けにされた後に火をつけ、火炙りで処刑されました。
続いて公爵は樽の中に押し込められ、外からわざと急所を外すように槍で身体を突き刺し、それを三日三晩続け、絶命しました。
そして、全ての元凶である妹は暴れられないように四肢を鎖で繋ぎ、腹部を八つ裂きにされて処刑された後、王都の広場に首が晒されました。
3人が処刑される際、フードを深く被った女がいい気味ねと呟いてその場を去ったという証言があり、巷では彼女は消えた王子様の婚約者である公爵家の長女なのではないのかと囁かれましたが、定かではありません。
妹のわがままから始まったこの悲劇から、王国内では家や国に損害や破滅をもたらす象徴として妹はありとあらゆる形で徹底的に排除されました。
それ以来、この国では妹は忌み嫌われる存在となりました。