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マイページを見てくれた人に読んでほしいコメディ集

システム開発の量子力学 〜解説追加しました〜

作者: 伊藤 拓

 今日も午後から顧客との会議。今は旅行の新予約システムの開発で受入テスト中だ。


 顧客から受け取ったエクセルファイルには緊急で影響度大の指摘項目があった。回答期限は今日。


 残念なことに、この指摘は社内の開発環境では全く再現できなかったバグだった。所謂、ハイゼンベルクの不確実性原理での観測者効果をもじった『ハイゼンバグ』である。つまり、調査結果は『ようわからん』である。


 シュレーディンガー猫作戦で行くことにした。


「こちらとしては、バグが再現できない以上、バグと認めることは出来ません。我々の責任ではないです。お客様には、システムはブラックボックスです。箱を開けない限り、バグの存在有無は決定しません。しかし、我々にはホワイトボックスです。箱を開け、調査した結果、バグは存在しませんでした。つまり、バグは存在しません」


「いや、システム止まったんだけど」


「でも、『確実に』ではないですよね。後で同じ操作で動きましたよね」


「確かに再現出来ませんでしたけど」


「バグは観測してから、バグだと確定できるのです。観測しなければ、バグの存在は確率です。余程簡単なシステム以外、バグの存在確率はゼロに出来ず不確実性は残ります。貴方のスマホもよくバグ修正されますよね。あと、品質分析も良好です」


 その品質分析は、退職休職の波が続き、スケジュールが押され、作業量が軽いテストを増やした見かけ上の結果であった。方針はテストでカバー出来なかった箇所の潜在バグは次工程で見つけたていにする苦肉の策であったが、次工程も時間がなく十分にテスト出来なかった。


「でも、止まりました」


「御社の固有環境の問題じゃないですか? 御社で常駐し、開発させて下さい。我々の責任ではないので、別途開発費用は貰い受けますが」


「今までの開発遅延と受入テストのバグの多さから貴方達を信用できない! そちらのバグだろ! こちらは払わない!」


 議論はもつれた。


 最終的には、顧客の役員が追加費用を許し、内外の関係者にその器の大きさを示した。彼は人格者と思われ出世するであろう。


 その追加開発で、明らかに動かないであろうソースコードが見つかった。シュレーディンバグである。奇跡的に開発環境の設定ミスでそのバグは回避されていたのであった。


 プログラマー達は、その秘密を墓場まで持っていかないといけない。


 小説内の量子力学のネタは以下になります。解釈が無理やり感あるものもありますが……

 自らの力不足もあり、千字の小説内で説明することは難しいです……


・ハイゼンバグ:ハイゼンベルクの不確実性原理での観察者効果をもじったバグになります。


・ブラックボックス/ホワイトボックス:シュレーディンガーの猫の開く前の箱と開いた後の箱を表し、例えシステムが止まっても、箱(プログラム)を調査しなければバグの有無は確定せず、調査して初めて確定すると責任逃れをしています。


・バクの観測:コペンハーゲン解釈によると量子は観測すると1点に集中するものとし、観測する前は確率として解釈します。それと同様、バグも観測しなければ確率として捉えます。そして、どんなシステムでもバグの確率はあるのでそれは問題ないとこじつけを言っています。


・存在確率はゼロに出来ず不確実性が残る:不確定性原理では『同系の物理量は同時にゼロにならない』とありますが、経験則的に、変更しないプログラムの数とバグの数は同時にゼロにできません。


・退職休職の波が続き、スケジュールが押され:量子力学そのものではないですが、量子力学の波の性質を表します。退職休職の波が干渉し強め合うところが発生し、一部のタスクのスケジュールが遅延し、結果スケジュール全体が遅延します。


・潜在バグは次工程で見つけたていにする:トンネル効果とは、波動関数がポテンシャル(潜在)障壁を超える現象ですが、ここでは前工程で見つかるべきバグが工程間の壁を通り抜け、次工程で見つかるというシステム開発のバグのトンネル効果を表します。


・固有環境:物理量を固有ベクトルにより表現したものを固有状態といいます。これは単なる名称拝借です。


・議論はもつれた:量子もつれの例として、量子のペアの一方が観測されると、もう一方は、どんなに距離が離れていても瞬時に反対の性質となるというのがありますが、こちらも距離が離れ、顧客と開発者の主張が反対であることを表しました。


・シュレーディンバグ:シュレーディンガーの猫由来の「明らかに動かないであろうソースコードがみつかり、その後、バグの挙動が確定する」バグです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 妙な生々しさがあって「実体験かなぁ」などと憶測しながらクスクス笑いながら読ませていただきました。 理系ものは理論の記述や現象の描写をしっかり書いていかないといけないから、どうしても文字数が増…
[良い点] あまりにもリアルで、複数の現場と多くの学生コンパで言っていそうなネーミングで、笑ってしまいました。 営業が有り得ない値引きで引き受けるとこういうことになりまよねえ。とはいえ、発注側もそれを…
[一言] こういう呼び名のバグがあることを初めて知りました。 事象自体は、量子力学じゃないじゃん、って思いましたけど、 たぶん、作者様は意図されて採用されてますよね。 勉強になりました。 ありがとう…
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