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乙女ゲームの敵役の妹兼悪役令嬢に転生したので、今日もお兄様に媚を売ります。

作者: 下菊みこと

乙女ゲーム「七色の奇跡」。人気を誇るこの乙女ゲームは、病室から一歩も出られない少女にとっての救いでもあった。彼女は若くして亡くなる際、願う。


どうか、次の人生では健康な身体を。出来ることなら、〝あのキャラクター〟のような美しい男性の側に居られたらもっと嬉しい、と。


「ううん…」


目が醒めると少女は一人きりで広い綺麗な部屋に寝かされていた。必死に記憶を辿るがこんな煌びやかな部屋は知らない。まさか誘拐か、そもそもなぜ自分は生きているのかと戸惑っていると頭が割れるような痛み。


そして、〝メイニャ・フェリシテ・フレデリーク〟公爵令嬢として生きた三年間の記憶が頭の中を駆け巡る。


「思い出した…」


そう、彼女は転生していた。それも、大好きな乙女ゲーム、七色の奇跡の世界に。しかし彼女は絶望する。


「よりにもよってメイニャかぁ…」


メイニャ二歳は、早くも人生を諦めかけている。


「確かに健康な身体を願ったよ。確かにジュストのような美しい男性の側にと願ったよ。叶えてくれてありがとう神様。でもジュストの妹はまずいんだ…!」


ジュスト・ロイク・フレデリーク。メイニャの兄である彼は、七色の奇跡のラスボスであり…あのゲームの設定上、妹を手に掛けた危険人物である。


「でもでも、学園に入学しなければ問題ない?」


反王族派のジュストは聖女候補であるヒロインの力を狙うが、ヒロインはなかなか開花しない。聖女の力を開花させるには真実の愛の力が必要。しかし悪役令嬢メイニャがヒロインと攻略対象達の恋愛の邪魔をする。ジュストは最後の方のストーリーで、ルートにもよるが妹を殺害する場合がある。


「学園には入学しない、ヒロインの邪魔をしない、お兄様に媚を売る。うん、それならなんとかなるかな」


ゲームではジュストとメイニャはあまり仲良くなかった。ゲームでの設定をことごとく壊せばなんとかなるかもしれない。


「出来ればジュストに反王族派に入らないで欲しいけど、人の思想を縛る権利はないしね。私が生き残れる確率が上がればそれでいいや」


ということでメイニャ二歳は、兄ジュスト五歳の後をついて回ることになった。


「お兄様ー!ケーキ美味しいね!」


「美味しいねぇメイニャ。口元にクリームが付いてるよ」


拭ってくれる優しい兄に、メイニャはこの人が本当に自分を殺すのかと不思議に思う。


「お兄様にイチゴあげる!」


「ありがとう、メイニャ。お礼にお兄様のイチゴをあげるよ」


ただの交換こである。しかしメイニャは満足した。何故ならジュストが最高の笑顔を見せてくれたからである。媚を売るのも順調だ。


メイニャがそんなことを考えているなど大人達はつゆ知らず、微笑ましげに二人を見守る。ジュストも急に懐いてきた妹に最初は訝しんだが、子供ならままあることかと納得して可愛がっていた。見目も良い可愛い盛りの妹が懐いてくるのは普通に嬉しい。


メイニャは気付いていない。自分が他のフラグも少しずつ折っていることに。


「あなた…私、考えましたの。あのね、子供を作る責務を終えたなら、好きに愛人を作ってもらって構わないと思っていましたわ。でも仲睦まじく過ごすあの子達に、悪影響があったらと思うと…」


「それなんだが。愛人とは手切れ金を渡して別れた」


「…まあ」


「今まで君を…家族みんなを蔑ろにしてきてすまなかった。私は、家族としてやり直したい。もう遅いだろうか?」


「あなた、嬉しいですわ!」


抱きしめ合う二人をドアの隙間から見守っていたジュストは、静かにドアを閉めた。メイニャの行動が、それを見守っていた両親の心を動かした。そのことにジュストは心から感謝した。ジュストは、冷え切った家族関係にずっとストレスを抱えて過ごしていたから。


翌日から、メイニャ達は必ず家族四人で食事を摂るようになる。冷え切った家族関係のはずの設定を知っているメイニャは首を傾げたが、まあ悪くない方向に変わるならいいやと呑気に考えていた。自分が変えたとは思ってもいない。


ー…


メイニャは五歳になると、母に連れられて慈善活動に参加することになる。優しく甘く、心配性な過保護になった兄に見送られながらスラム街に炊き出しに行く。そこでメイニャは見つけた。ジュストを変える青年…に育つ少年を。


冷え切った家庭環境、伸び悩む自分の実力、良くならない交友関係にストレスを抱えていたジュストに反王族派の考えを植え付けた、将来は殺し屋になる少年。今はスラム街の荒くれ者の奴隷である。


メイニャは彼に何かする気は全くなかった。無かったのだが殴る蹴るの暴力を受ける彼に、なんとなく放っておけなくなってしまう。


「メイニャ、あんな乱暴な人達は見ちゃダメよ」


「お母様、今日メイニャのお小遣い持ってきたから使っていい?」


「いいけどなにをするの?」


メイニャは答えずに少年の元へいく。少年は名前がゲームで明かされていないため、メイニャはなんと呼べばいいか一瞬迷ったが言った。


「お兄さん達、お小遣いあげるからこの男の子ちょうだい」


その傲慢にも思える一言。だが、彼女は公爵令嬢で少年は奴隷だ。誰も文句は言わなかった。


荒くれ者達はメイニャのお小遣いの入った袋の中身を確認すると、少年の奴隷契約書をメイニャに譲った。公爵令嬢である彼女のお小遣いは、彼女が幼いとはいえかなりの額なのである。


メイニャの母はそんなメイニャを咎めない。優しいメイニャが少年を放っておけなかったのは仕方がないと思ったし、メイニャの好きに使えるお小遣いなのだから文句も言えない。


「貴方お名前は?」


「…名無し」


メイニャは目を見張ったが、まあ奴隷の扱いなどそんなものである。


「じゃあ、最初のプレゼントに名前をあげる。オラースって名前はどう?」


「…オラース。わかった」


「帰ったらお風呂に入ってご飯を食べて、明日からお兄様の侍従として働いてね」


「あらまあ」


勝手に決めるメイニャを、母は笑って許した。そんなこんなでオラースは次の日から、ジュストの侍従見習いとなった。もうオラースが殺し屋になることも、ジュストとオラースの二人が反王族派に入ることも無くなった。メイニャは良かった良かったと呑気に構えているが、十分すぎるほどのフラグクラッシャー振りである。


ー…


ジュストはこの日、両親に連れられてメイニャとオラースと共に第一王子ユーグの元へ来た。大人達はジュストとユーグをお友達にしたいらしい。


しかしユーグはそんな大人達の思惑通りになるのが気に食わず、ジュストに冷たく当たる。ジュストはそんなユーグの態度に思い悩んだ。


その時、メイニャが言った。


「ユーグ様、本当に第一王子なの?カッコ悪いです」


場が凍りついた。


「なんだと?もう一度言ってみろ!」


「カッコ悪いです!ちょっと大人達の押し付けがムカつくからって、立場が下のお兄様に当たり散らすなんて王子様のすることじゃないです!」


「なっ!?」


歳下のメイニャに心を読まれた挙句説教をされてユーグは顔を真っ赤にする。メイニャは心を読んだのではなく設定上知っていただけで、説教をするつもりもなく本音を言っただけだが。


ジュストはメイニャを守るためにユーグとメイニャの間に入り盾となり、オラースは更にジュストの盾になるよう動きつつメイニャにグッジョブのサインを送っていた。


「…悪かった」


「え」


「悪かったと言っている!」


傍若無人なユーグの恐らく人生初の謝罪。ジュストは快く許し、オラースは満足し、メイニャは自分も言いすぎたと謝罪した。そして王族一人に貴族二人と従者一人は一気に打ち解けて仲良くなった。


メイニャは帰ってからお説教コースでしばらく寝かせてもらえなかった。


しかし大人達はメイニャに感謝することになる。何故なら傍若無人なユーグが少しずつ変わっていくきっかけになったから。


ー…


そしてメイニャは学園に入学する歳になる。入学するかギリギリまで迷ったが、なんだかフラグは色々折れているし大丈夫だろうと踏んで入学した。


結果、大丈夫だった。


反王族派がヒロインを狙ったが、攻略対象の一人である王国騎士団長の息子がきっちり守った。心美しいヒロインは聖女の力にも目覚め国に貢献している。本人達も幸せそうである。


メイニャも悪役令嬢なんかにならず、兄達も幸せに暮らし、そして…メイニャは何故かユーグから迫られている。


「いい加減王太子妃候補ではなく王太子妃になれ、メイニャ。もう王太子妃教育も施されている時点でお前の負けだ」


「そうやって外堀埋めるようなことしないでよ!ユーグのバーカ!」


「何を言っても俺はお前を離さないぞ」


なんだかんだで満更でもないメイニャの幸せも近そうである。

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