生存者、いました
翌朝。指定された廃坑は、地図によれば森の中である。
時折出ては襲いかかってくるコボルト達を処理しながら、歩くこと1時間ほど。
苔むした洞窟が視界に入ってきた。
「ここか……気をつけろよ、テム。調べてたのより強い魔物が出てくるかもしれない」
「はい。レイノスさん、これ……」
テムは地面を指差す。
「血痕……か。あまり時間は経ってなさそうだな」
点々と血の跡が、洞窟の入り口から、俺達が来たのとは反対側へ続いていた。
「生き残りかもしれない。行こう」
テムは頷き、血痕を追う俺の後に続いた。
5分も歩いただろうか。血痕は大きな岩の裏に続き、その向こうから荒い息が聞こえた。
「おい、そこに誰かいるのか?無事か?」
岩の裏にいるのは人間とは限らない。
向こうも近づく足音が人間だとわかってくれる余裕があるとも思えない。
不用意に近づいてグサリ、といかれるのは避けたかった。
「……幻覚……?でなければ……助かりましたわ。死にそうだけど……今すぐ死ぬほどではない、と思いますわ……」
か細く、絞り出すような声が聞こえた。魔物ではないようだ。
「生存者が居て良かった。そっちに行くぞ。罠の類いはないよな?」
「ええ……そんな余裕もなくってよ……」
「ならよかった。罠張って解除する余裕がないよりだいぶ楽だ」
岩の裏に座り込んでいたのは長い黄金の髪を肩で切りそろえた、碧眼の少女だった。
高級そうな装飾をたたえたローブをまとっているが、あちこちが破れたり、焦げたりと見る影もない。
手や頬、首などあちらこちらに切り傷を作り、髪にもべったりと血がついてしまっている。
武器であろう、宝石のついた長杖は半ばほどでへし折れていた。
「まぁ……未踏のダンジョンから逃げてきたにしては無事そうだな。頭は打ってないか?吐き気は?あ、テム。袋から治癒薬と魔力薬を。」
吐き気がある場合、脳に損傷がある場合がある。その場合治癒薬だけだと普通に死ぬことがあるため、街に戻る必要がある。
「ご心配、痛み入りますわ……幸いにも、吐き気はありませんわ。額の切り傷も、それほど深くはないでしょうし……」
「ならよかった。」
テムから治癒薬を受け取り、栓を開ける。
「治癒薬だ。」
「お恥ずかしながら……瓶を持つ力も、残ってませんの……」
「ああ。飲ませてやるから」
少女の口に瓶の口を当てがい、少しずつ中身を注ぎ込む。
やがて瓶の中身はなくなり、少女の呼吸が少しずつ落ち着いていった。
もう大丈夫そうだ。




