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休息と不安

「謁見は明日の朝となります。宿をとっておきましたので、旅の疲れをお癒しください」

と、案内された宿は今まで泊まったどの宿よりも豪華で、しかも食事つきだった。

いつもより白く柔らかいパンといつもより塩気が多く良い肉の入ったスープなどの昼飯を済ませると、馬車で中途半端に寝たのもあり、睡魔に襲われる。テムとステラは街を観光してくるらしいが、俺はとりあえず少し寝ることにした。

「お前はいいのか、どこも行かなくて」

イェンタイは猫の姿のまま椅子の上で丸くなって寝ようとしている。

「俺ァあんたの使い魔だからな。あんたのいるところにいるさ」

「俺はまだお前を信用してないからな」

「まだ信じられないかい?これもちゃんとつけてるのにさ」

もふもふとした毛並みに埋もれるように彼の首に巻き付くのは契約の首輪と呼ばれる魔道具だ。かつて奴隷制度が残っていた頃に、その反逆を防ぐために付けられていた悪趣味な首輪。これをつけている限り、イェンタイは俺に危害を加えることが出来なくなるらしい。

物好きの貴族が妾や愛人、奴隷などに付けることはあるらしいが、実物を見るのは初めてだった。

「よくそんなもの持ってたな」

「金に困って貴族の屋敷に忍び込んだ時に見つけてね。かさばらなくてそこそこ金になるし、決まった手順踏まなけりゃただの首輪だから身につけて運べるしな。いざとなった時に備えて持ってたんだ」

案の定というか、元々盗品らしい。

「ちゃーんと、悪徳貴族から盗んだぜ?あいつはひでぇ。なんたって魔族と繋がってたからな。」

その魔族がどの口で言うのか。

「魔族にも派閥があんの。俺は穏健派。その貴族は過激派と付き合いがあってな。近隣の仲の悪い領土に攻め入れさせるために武器とか渡してたぜ。なんやかんやでそいつらに滅ぼされたけどな。今は過激派のたまり場になってる。案内して欲しいなら連れてくが、行くと死ぬぜ」

「ああ、流石にその辺まで首を突っ込む気はない、しかし──」

首輪はステラが鑑定して本物だとは言っていたし、効果に疑いは──無いとは言えないが、そう軽んじるものでもあるまい。古すぎて技術が廃れ、規制もされていない。だが、どこかこいつを心の底で信用出来ない俺がいた。

「しかし、危害を加えて来ないからといって、裏切ってないとは限らないからな」

「安心しな、取って食いたいならとっくの昔にやってるさ。ちゃんと寝ないと、頭も鈍るぜ。おやすみ」

と言うと、イェンタイは欠伸をひとつしてすやすやと寝息を立て始めた。

「……気楽なもんだ」

俺もベッドに横たわり、目を閉じた。

こいつに殺される間抜けな死に方なら、それもそれで悪くない。

魔族との戦いで死に損なった男にはお似合いの結末だろう。

テムとステラが帰ってきて土産だと屋台の飯を買って来た時に一度起き、もう一度寝る。

危害が加わった形跡はなく、生きている。

奴の敵意の無さはには、彼の言うとおりなんの裏もないのかもしれない。

目を覚ますとすっかり日が暮れており、買ってきて貰った屋台の飯はあらかたイェンタイに食われていた。

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