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馬車と猫と心配事

翌日の夕方。定刻通り馬車に乗った俺の向かいの席には、ステラと女装したテムがいる。

数日はかかると思っていたがさすが王都、グリフォンに引かれる空飛ぶ馬車で、丸一日で到着するらしい。

そして俺の横の席には、鴉のようなつやつやとした羽の生えた黒い猫が寝ている。細くブレスレットのように手首を一周する白い毛並みが、彼がイェンタイであると分かる唯一の名残だ。

目の前で羽の生えた猫に変身された時は驚いたが、どうやら俺の使い魔として同伴する、というのが彼の秘策らしい。

行くあても帰るあてもなく、さらに追われる身なので俺たちのところに身を寄せて故郷の復興の手を探すつもりだとは言っていたが、街を無茶苦茶にした張本人とそれを解決して呼び出された俺達がこうして同じ馬車に揺られているというのは奇妙なものである。

街の一件には絡んでいるが、問い詰めてもそれ以外の事象のことは何一つ知らなかったのでどうやらクイックシルバーやらなんやらは他の魔族が絡んでいるらしい。

そういやダンジョンにクイックシルバーが出た時は入念に計画が練られているような感じもしていたが、街でのミノタウロスは行き当たりばったりで計画性があまり感じられなかった。

隠し通すこともさすがに無理なので、ステラとテムには一応かいつまんで事情を説明してある。街を無茶苦茶にした犯人だというのも。

「可愛いですわね、その子……ねえ、こっち来ない、猫ちゃん?」

2人ともなんとなくこいつを許しているように感じる。猫だからだろう。

世界というものは不公平なものだ。

「こんななりでも中身おっさんだぞ。しかもテロリスト」

「今は猫ちゃんですもの。ねぇ?」

ステラがなんだか嬉しそうだが、俺は一抹の不安を感じていた。

ついてきたイェンタイが余計なことをする可能性がある、というのもそうだがそれ以外にもなにか嫌な予感がする。

そう、まるで誰かの手のひらで踊らされているような……

「レイノスさん、大丈夫ですか?何か思い詰めたような顔してますけど……」

テムが心配そうに俺に尋ねる。

「いや、大丈夫だ」

「そうですか……それならいいんですけど……」

「心配事があるなら言ってくださいまし。共に死線を超えた仲間なんですから」

追求を諦めたテムに変わり、ステラが俺に問いかける。

「……いや、言うほどのことでもない。少し……嫌な予感がするだけだ」

「心配ご無用ですわ。いざとなった時の手も用意してましてよ」

「ああ、うん。助かる」

ステラはこう言ってくれているが、いざとなれば……

俺は懐に隠した黒いナイフの感触を確かめる。

これを使い暴れればステラとテムを逃がす時間稼ぎにはなるだろう。

日が暮れ、ステラとテムがすやすやと寝息を立て始めても、俺は寝付けなかった。

「眠れないのか?」

と言いながら、猫の姿のままのイェンタイが俺の膝に乗ろうとしてきた。

「やめろ、おっさんを膝に乗せて喜ぶ趣味はない」

「つれないねえ。こんなに可愛い猫ちゃんだぜ?」

「せめて、お前の性格に可愛げがあればな。何か用か?」

「いーや、用なんてないけどよ。なんか辛そうだったからよ」

「いや、なんでもないんだ。ただ……何もかもが、トントン拍子に進みすぎている気がしてな。誰かの手のひらで踊らされてるんじゃないかと少し不安になった」

「嫌な予感、ってやつかい。あんたのそれはよく当たりそうだ」

「当たって欲しくない時に限ってな」

「大丈夫、心配してもしなくても、なるようにしかならんよ。何かあれば俺も、そこの2人もやれることはやる。あんただけが全部背負い込む必要はねえ」

「……それで、何とかなればいいんだがな」

「たとえ神様だって、俺があんたと同行することなんて読めねえさ。俺はあんたに全力で手を貸す」

「そこまでされる義理はないし、俺はお前を戦力として数えてない」

「それでいいさ。あんたの思う最悪くらいなら、振り払ってやる。だからとっとと寝な。きっと最悪にはならない」

いつの間にかイェンタイは俺の膝の上に居た。どかそうと思ったが、膝の温もりで眠気が込み上げてきた。

そのまま目を閉じ、馬車の着陸で目が覚めた時には、窓から見える空は明るくなっていた。




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