過去
もう20年も前になるか。
若き俺は勇者と呼ばれていた男と旅をしていた。
魔王に復活の兆しがある、ということで紋章が手の甲に浮かんだ幼馴染、名はセイレムといった──が討伐を命じられ、俺も半ば無理やり彼に連れていかれた。
故郷の村から出たこともあまり無かった俺にはあちこちの街やダンジョンを巡り魔物と戦う日々は楽なものではなかったが、若さとは恐ろしいもので数ヶ月で完全に慣れ、魔物の肉を焼いて塩もかけずに食うようにさえなっていた。
やがて仲間も増え、六人パーティになって楽々と旅を続ける頃には誰もが易々と魔王の討伐が済む信じて疑わなかった。
魔族の住む土地、魔領に到達するまでは。
人間が徒党を組んで自分より力の優る魔物に勝てるのは、その知能と協力、そして鋭く研がれた武器、よく手入れされた防具あってのものだ。
では、その魔物が知能を持ち、武器を持ち、協力しあって人間を狩るとしたら?
答えは明白だ。人間は知能を持つ魔物──つまり魔族になすすべもなく殺される。
そして魔領は魔族の本拠地だ。
魔族を一体倒せば二体、二体倒せば十の魔族が徒党を組んで俺たちの首を奪いに来る。
六人いたパーティは五人に、四人に減り、魔領から撤退する頃には三人になっていた。俺と、勇者と呼ばれた幼馴染、そして最初の街から着いてきていた武闘家の少女。名は確か……ベスといったか。
よく笑う子で、挫けそうな時何度も彼女の前向きさに助けられた。
3人だけとはいえ魔領を脱出することが出来たのも、彼女の挫けぬ精神に支えられていたからこそである。
魔領から脱出し、街にたどり着いたあと、俺は命あっての物種と旅を中断することを決めてパーティを離脱した。
一方セイレムとベスは新しい仲間を集めてでも魔王を討伐すると言って傷が瘉えるまで仲間を探しつつ魔領にほど近いその街に留まっていた。
俺があの2人の顔を見たのはその街の酒場で残り僅かとなった路銀を分割し、離別した時だ。
数ヶ月経ち俺が流れの冒険者としてあまり豊かとは言えないまでも何とか暮らしていけるようになった頃、魔王が討伐されたとの報があった。
安堵と共に、罪悪感、そして無力感に苛まれた。俺が恐れて逃げたあの魔領を、あの二人は進んだのだ。
俺ではない、新しい仲間と共に。
凱旋パレードが王都で行われると言われていたが、俺は行かなかった。
行く資格がなかったし、そもそも行きたいとすら思えなかった。
凱旋パレードが王都で行われているその日、誰もが王都行きの馬車に乗り込み閑散とした街で、俺は温い安酒を浴びる程飲み、全部裏路地に吐いた。
そこからは大きな出来事は何も無く、今の今まで生きてしまっている。
あいつらは元気にやっているだろうか。
魔王を倒した2人のことだ、きっと元気に違いない。




