強敵、倒しました
ワイバーンは戸惑うように咆哮した。
無理もない、仕留めたと思った餌が、自らの懐に入り込み致命傷を与えてきたのだから。
「ちゃんと見てたか?テム。鱗のある敵には斬撃が通りづらいことが多い。力で叩き切ることもできるが、そんな事をするのは一部の化け物冒険者だけだ。俺達みたいなまともな人間は──」
ワイバーンの精彩を欠いた尾の攻撃をかわしながら、俺はテムに説明する。片腕を失ったことによる支点の減少、重心バランスの変化、そして失血。
もう一度攻撃をしてきたことに驚いてもいいくらいだ。
その背後に周り込み、右腕に向かって剣の切っ先を構える。
「刺突して、皮ごと貫け。内側からなら鱗もそんなに関係ない。内側ならなら刃も通る」
ワイバーンの肩口、 骨を避けた上部に俺の剣が突き刺さり、切り上げた剣はその肩にぱっくりと裂けた大きな傷を作った。
「こうすれば、鱗も何もなく骨を断てるわけだ」
肩口の傷に剣を振り下ろす。
刃は骨の付け根を、そして翼膜を切り裂き、右腕が地面に落ちる。
両腕を失い、支えを失ったワイバーンは弱々しく咆哮し、地面に倒れ伏した。
すかさずその首を切り落とすと、しばらくもがいたあと動かなくなった。
「と、いう感じだ。ワイバーンは魔物が弱い場所でもたまに現れるから、いつでも倒せるか、逃げおおせられるように心構えをしておけ。でなければ死ぬ」
血振りをして、剣を鞘に収める。少し息が上がっている。やはり寄る年波には抗えないらしい。
「は、はい……がんばります。主に逃げる方向で」
「どっちでもいいけれどな。大事なのは死なない事、致命傷をなるべく負わないことだ。そうすればいつか、その剣は倒せなかった奴の首に届く、はずだ。」
そう、大事なのは死なないことだ。
人間は学び、鍛えればある程度には強くなれる。
恐れをなしていた護衛の男も、次の襲来の時には、もしくはその次には、なんとかワイバーンを倒せるようになるかもしれない。
あくまで鍛錬を怠らなければの話だが。
テムは……どうだろう。膂力だけで言ってしまえば護衛よりも弱い。が、飲み込みは早いし、なんやかんやで剣術の腕は悪くない。
もしかしたら次回には、そう思わせるくらいの成長性が彼にはあった。