魔族と黒玉
聴取を終えて帰ると、既に深夜だった。
テムとステラは既に帰ってきているだろうか。
腹が減ったな、何か食べるものでも無いだろうか。
荷物を漁ると洞窟トカゲの干し肉があった。
口に含むと木を思わせる硬さだが、ゆっくりと噛んでいると味が染み出て空腹を和らげてくれる。
「さて……これをどうするか、だな」
黒玉と言っていたか、見たままの名前だ。
ダンジョンを作るためのものらしいそれは、俺の目からみればただの綺麗な泥団子にしか見えない。
細かく掘られた紋様にはなんの意味があるのだろうか、とりあえず事情を説明してステラにでも調べてもらおうか。
しかし危険なものだった場合……いや、だとしたら持ってる俺も危ないだろう。
イェンタィの口振りでは危険なものでは無さそうだったが……そもそも彼もこれを完全に理解しているわけではあるまい。
「調べてあげようか?あたしなら秘密でそれがなんなのか調べられるよ」
いつの間にか背後にはマーシュエがいた。
「ああ、またお前か……いつの間にいたんだ?」
「いつだって居るよ。ずっと見てるから」
と、マーシュエははにかむ。形のいい糸切り歯がランプの光を柔らかく反射していた。
「ぞっとするな。……お前にこれを渡して、街が無事である保証は?」
俺はマーシュエを眺める。修道服にも見える服。イェンタィの言っていた特徴と一致する。
「これの元々の持ち主は修道服を着た女に渡されたと言っていたぞ。お前じゃないのか?もしくはそいつと繋がりがあるか」
「別人だろうね。あたしのこれは単にコスプレ。どこの街にいても一見違和感ないでしょ。その人もそうかもしれないけど……もしあたしがその人だったら、こんな回りくどい事はしないよ。信じて欲しいのはホントだし。保証……あ、そうだ。喉でも潰そうか?そうしたら呪文も唱えられないし……」
と、彼女は喉をかき切るジェスチャーをする。
「そこまでされると引く。呪文唱えられる奴に渡す可能性もあるしな」
「信用ないなぁ……私はただ、君の力になれたらって思ってるんだよ?」
「見ず知らずの俺のためにか?」
「そう。見ず知らずの君のためにね。あたしは君のこと、知ってるけどね」
「どういう事だ」
「君の嫌な思い出に触れたくないから、言わない」
「嫌な思い出、か。そうやって言うなら、心当たりがない、と言っても嘘だって分かるんだろ。」
「もちろん。信じてくれた?」
「……完全に、では無いが……」
俺はマーシュエに黒玉を差し出す。
「頼んだぞ」
「もちろん。君の満足いく結果を約束しよう」
マーシュエの姿は掻き消えた。
やはりな、と俺は1人づく。
十中八九、マーシュエは魔族だ。イェンタィは人間か魔族かも分からない女と言っていたので、多分彼女とは別人だろう。
服装的に修道服の女とやらと同門の可能性もあるが、それならば俺を助けたこと、やたらと気にかけることの説明がつかない。
それに元々おれのものでもなく、無くしたところでたいして困ることはない代物だ。
となると……彼女の目的は何だ?
おれの嫌な思い出……思い当たることは星の数ほどあるが、魔族が関わってくるとなるとひとつしかない。
俺がかつて、勇者と呼ばれた男と旅をしていた頃の、あの思い出だ。




