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色町

宿に戻ると、テムもステラも帰ってきていないようだった。おそらくまだカジノにいるのだろう。夕食の時間には少し遅いくらいだし、そろそろなにか食べに行くか。

しかし久々だな、1人で飯を食うのは。テムと旅をすると決めたあの日から、常にテムと、そしてステラがついてきてからは3人で食卓を囲んでいた。

テムと会う前、基本的に1人で飯を食っていたのが、ひどく昔のことのように思える。

そういや俺は元々割と寂しい生活をしていたのだな、としみじみ思う。

たまにパーティを組んで探索をした帰りに一緒に飯を食うことはあったが、特定の相手とパーティを組むことは少なかったし、そもそもこんなおっさんをパーティに入れたがるやつはそうそういない。

そのためいつも1人で魔物を討伐し、1人で飯を食っていた。

当時はなんとも思っていなかったが、その状態に戻ってみると意外に寂しいものである。

まあなんだ、せっかくだしあの二人と一緒にいる時は行けないところに行くか。

幸いにも金は不便しないくらいにはある。

綺麗な姉ちゃんに酌でもしてもらえば、寂しさも和らぐだろうと俺の足が色町の方に向かうのにそう時間はかからなかった。

色町、である。

久々に吸う乱れた空気には、脳を鈍らせる作用でもあるのだろうか。

どこかそわそわした往来に、手招きする客引きの女達。

明かりに引き寄せられる虫のように、店に吸い込まれていく男達。

この、日常の中にありながらもどこか浮世離れした風景が、俺は好きだった。

酒を飲んだり春を買うのも良いが、それもこの空気あってのものだろう。

その空気の中、路地裏に入っていく怪しい男が目に入った。

往来の男達のように浮ついた雰囲気を醸し出していない、中肉中背の特徴のない男。

ここに来て浮ついていない男は2通りしかいない。

迷い込んで出口を探しているか、何か悪巧みをしているかだ。

迷い込んだ奴は落ち着きなく辺りを見回すものと相場が決まっているので、それをしていない彼はおそらく後者であろう。

俺はその男の後をつける。

正義感に駆られた訳ではない。

昨日の惨劇を思い出すからだ。もし奴が関係していたら?同じことが起きたら?

もし、それを事前に防げるとしたら?

たとえ全くの見当違いでも、与えられた機会に飛びつかない訳にはいかない。

そして幸か不幸か、俺の予想は当たっていた。

突き当たりの壁の前で男が取り出したのは、ヒビや傷のひとつもない、真っ黒な玉だった。

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