少女と、魔剣
「要件ってのは他でもない。君にあげたプレゼントの、使い方も教えてあげてなかったな、ってね」
マーシュエはベッドにゴロゴロと転がりながら言う。
「ああ、これか」
懐からナイフを取り出す。
禍々しさは渡された時のままだ。
当然といえば当然だが。
「いざとなった時に抜けばどうにかなるんだろ?」
「まぁ、そんなところだけど──どうなるかくらいは教えてあげないと不親切でしょ。ついてきて」
促されるままにマーシュエについて行き、たどり着いたのは付近の森の外れだった。
「ここならそう人も来ないでしょ。さ、ナイフ持って。大丈夫、すぐに戻せばそんなに危なくないから」
と、俺にナイフを握らせ、留め金を外すと彼女はその鞘に手をかけた。
「何をする気だ?」
「それを今から見せるんだよ。なるべくうごかないでね。一瞬だけだからね」
と、その細い手が鞘を引っ張り、ナイフの黒い刀身が──いや、黒いのは刀身ではない。
一切の光を拒絶するかのような漆黒の闇が、蛇のように俺の腕に巻きついた。そのまま螺旋を描くように肩に、頭に、全身に──意識が飛びそうになるのを必死に堪える。
──気を失えば、俺は俺で無くなるかもしれない。
その恐怖が、俺の精神を細い糸で肉体に縛り付けていた。
そして闇の侵食が止まり──意識が薄れる感覚はそのままに、俺は漆黒の鎧を身にまとっていた。
「おお、良いねぇ。似合う似合う。立派な角も2本ある」
角も生えているらしい。意識の薄れる感覚にもだんだんと慣れてきた。
「気分はどう?」
「……最悪だな……」
やっとのことで言葉を絞り出す。
気を抜けば意識が闇に溶けていきそうだ。
俺が俺でなくなるかのような不快感が、脳内を満たしていた。
「だろうね。戻したげる」
と、彼女は俺の手に持ったナイフをそのまま鞘に納め、留め金をかけた。
シュルシュルと闇はナイフの方に戻っていき、俺は地面にくずおれた。
「ハァ……ハァ……クソ、なんだこのナイフ……」
「魔剣だよ。それもとびっきりのね。」
「魔剣……?」
聞いたことはある。魔領で打たれた、魔力を帯びた金属の刀身を持つ剣。
それを持つものは一国の軍隊に相当する力を得るとも言うが、国内に現存するものはほぼ無く、おとぎ話のようなものだと言って過言ではない。
「そんな貴重なものを、なんで俺に」
何か目的があるのだろう。
「女の子はミステリアスな方が可愛いだろ?その力、使いこなせるように頑張ってみてよ。そしたらさ、ちゅーとかしてあげる」
「要らん」
「つれないなぁ。ま、いっか。また次に会った時には、もう少し仲良くお話できるといいね」
と、マーシュエはつむじ風と共に消えた。
「魔剣、か」
彼女になんの目的があるにしても、この剣は俺に与えられた力だ。
意識を無理やり保ちながら感じた、圧倒的な魔力。
これを制御出来れば、たとえどんな敵が現れてもきりぬけられるはずだ。
たとえあの化け物のミノタウロスであろうと、さらに強大な敵であろうと。
俺はナイフを懐に収める。
ドクドク、とナイフが脈動したような気がしたがおそらく気のせいであろう。




