圧倒的な力
「逃げろ、テム。ここは──ここは俺が何とかする。お前は逃げろ。ステラを連れて逃げろ」
思考がまとまらない。
視界が歪む。
圧倒的なプレッシャーを放つ怪物に、絞り出せた言葉は要領を得ず。
それでもわかる。
俺が何もしなければテムが、そしてステラも死ぬ。
だからみすみす死なせる訳にはいかないと。
俺が命を削れば、ひょっとして2人を生かせるかもしれない。
それが無理でもせめて、せめて抗う権利くらいは。
「ここで死ぬなら、僕もそれまでだったってことです。だから、生き延びましょう。2人で」
「ダメだ。お前は生きろ。まだやるべきことがあるだろう──」
「VRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!」
言いかけた言葉は、咆哮にかき消される。
いや、言わずとも同じことだったかもしれない。
なんにせよこの思考では、逆転の一手など望むべくもない。
「頼む。逃げてくれ、テム」
俺の言葉に、テムは静かに頷き、背を向けた。その背中に向けて怪物は巨木のような両腕を振り上げ──
「させませんわ!!。"Quae sunt congelata!!"」
振り上げた両腕が氷が覆いつくし、その動きを止める。
「VRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!」
凍りつく痛みに怪物は悲痛に叫ぶと、もんどりうって地面に倒れた。
「全く、何を手こずってますの!こんな三下のデカブツに仲間を殺されるなんて、屈辱以外の何物でもありませんわよ!もっとしゃんとしてくださいまし!」
「ステラ、テムと一緒に逃げてくれ。あれは俺らにどうこう出来るもんじゃない」
「仲間を見捨てて逃げるのは貴族の恥ですわ。二度とそのようなこと、口にしないでくださいまし。心配なさらずとも、あなたと共に散るならば悔いはありませんわよ」
ステラは杖を構え、何かの詠唱を開始する。
──違うんだ、ステラ。誇りとか、そんなのじゃない。仲間を数え切れないほど失った俺だから、もう失うのは嫌なんだ。
「"dirigentes stella"──!」
ステラの呪文の詠唱が終わり、天から流星が降り注ぐ。
「 "消……失"」
咆哮しているだけで言葉を話す様子も無かった怪物が、不意に口を開き──流星はその巨大な体躯に触れる前に掻き消えた。同時に、その両腕を覆う氷も。
「無効化呪文!?そんな……」
ステラの驚愕に目もくれず、怪物はゆっくりと立ち上がり、斧を拾い上げる。
そしてそのまま大上段に振りかぶり──ステラに向かって振り下ろした。




