表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/46

強敵、出ました。

テムと出会ってから2ヶ月。諸々の用事や手続き、準備を済ませた俺達は街を出立した。

この街が名残惜しくないといえば嘘になるが、全部終わったら当然帰ってくるし、そうでなければどこかでテムが野垂れ死ぬかもしれない。

2ヶ月も同居すると流石に情もわく。

約束もしてしまったし、放っておけば死にそうな若者を放っておけるほど、冷たい人間にはなりたくなかった。

それに、どこかで冒険に憧れている自分がいたのも事実だ。

結局のところ、そう、あれだ。運命と言うやつだ。乗り合い馬車の車輪の音を聞きながら、俺はそう自分に言い聞かせていた。

馬車には護衛の人員も乗っているが、街道の治安はけしていいものではない。

魔物は出るし、盗賊もたまに襲ってくる。

次の町までは馬車で4日、どこかで戦闘が発生する確率は非常に高いと言える。

テムもそれは理解しているようで、どこか緊張した面持ちをしていた。

果たして三日目の夕方だった。空をつんざくような鳴き声と、猛烈な突風が馬車を襲った。

横転しそうな客車を飛び出すと、茜に染まる空に巨大なシルエットが浮かんでいた。

「おお……ワイバーンか。珍しいな」

ワイバーンはドラゴンの亜種か近縁種、まあなんというかドラゴンと似たものとして認識されている。

ドラゴンほどの強さはないが山賊とゴブリン、あとでかい狼とかくらいしか出てこないこの土地では無類の強さだろう。

そして厄介なことに、こいつらは縄張りこそあるが特定の狩場を持たない。

ドラゴンよりは生息数が多いとはいえ、やたら知能が高く狩場で争うことはほぼない。それどころか協力して狩りをする事もあると聞く、非常に厄介な魔物だ。

そして今回の獲物は馬と人間二つの味が楽しめる俺たちの馬車、ということらしかった。

「わ、ワイバーン!?聞いてないぞ!」

護衛の男は狼狽える。聞けるはずもないだろう。頻繁に狩場を移すこいつらはどこに出るか予想がつきにくい。

ついでに油断してるとぱっくりいかれるので、目撃者が全滅してて報告が上がらないことなんて多々ある。

そういったイレギュラーに対応できない奴が冒険者になると、往々にして30になる前に死ぬ。

自分に見合った場所で魔物を討伐して慣れてきたと思っても、やっているのは命のやりとりだ。

窮鼠が猫を噛むこともあれば、予期せぬ強敵と出会う場合もある。

それをやり過ごす方法を思いつくか、やり過ごせる実力がない限りその日はいつか訪れ、死ぬ。

35まで生きてきた俺には、その死線をくぐる機会が一度や二度ではなくあった。故に今回もくぐり抜ける。

「下がってな、こいつのことは任せてくれ。」

焦って剣の構えすら疎かになった護衛を下がらせ、俺は剣を抜く。

「テム、見てな。これが格上との戦い方だ。」

地面に降り立ったワイバーンが咆哮し、空気がビリビリと震える。

龍としては小型とはいえ、馬車より頭二つ分は大きい。

俺は一歩ずつ足を進め、間合いに入った。この剣も向こうの牙も、互いに射程圏内。先に動いたのは向こうだった。

鞭のようにしなる尾が俺の胴に激突し、内臓を潰す──直前に屈んで回避。

ワイバーンは獲物を弱らせてから食べようとする個体もいる。

今回のこいつも、そういう個体らしかった。尾の攻撃は非常に強力だが、その反動は大きく一瞬の隙を生む。

そして戦いにおいては、一瞬の隙は致命傷を生む。

「さて、次はどうする?」

ワイバーンの翼膜と一体化した左腕が、ずどん、と地面に落ちた。

その傷と、俺の剣から滴る血が地面を赤く染めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ