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怪物

「テム、ほっとけば多分こいつは死ぬが、ほっとけるほどの余裕はない。まずいことになる前に倒すぞ」

「ええ。」

ミノタウロスは切られた腱の傷口からだくだくと血を流している。何も手を打たなくともしばらくすれば失血死するだろうが、そのしばらくを待つには守るべきものが多すぎる。

ましてや突如現れた魔物だ。

2匹目3匹目が突如現れないとも限らない。

手負いの魔物1匹に手こずるほど、今の俺たちに余裕はない。

「VRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!」

ミノタウロスは咆哮し、俺に向かって突進する。

その土石流のような勢いと鋭い角の先端に足が竦むが、関係ない。地面に手をつき、俺は叫んだ。

「"Mollius lana erunt!!"」

俺の正面の地面がぬかるみとなり、ミノタウロスの足を滑らせる。

つんのめった怪物は、その巨体を液状化した地面に沈ませた。

「テム!今だ!腱を狙え!」

「ええ!」

テムの一閃が残ったもう片方の腱を切り裂く。

ミノタウロスは立ち上がろうとするが、さすがに両足の腱を欠き、両手の支えを失ってはもはや無駄な足掻きだ。

「さて……安全になったところで魔物は魔物だ。二匹目、3匹目が出る前に──」

と、トドメとしてその太い首首を落とそうとした俺の背に、ぞくりと冷たいものが走った。

なにかがまずい。

正体は分からないが、命に関わる危険が迫っている。

十数年の間、この勘に救われたことが幾度あったか。

そしてその悪い予感が外れたことは1度もなく──今回の悪い予感は、過去類を見ないほどに最悪なことになる、そんな予感だった。

「"治愈、引导、坚强"」

俺の勘を裏づけるかのように、どこからか聞いた事のない言葉が聞こえた。

低い、男の声。

「なんだ?」

と、ミノタウロスの傷ついた腱に柔らかな光がまとわりつき、その傷を癒す。

まずい。こいつはまた街を破壊し始める──と思ったのも束の間、その全身が茶色く変色していき、やがて動かなくなった。

「死んだのか……?」

否。一瞬の後、ミノタウロスだったものの茶色く光沢を放つ背にピシリと亀裂が走った。

「VRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!」

雄叫びとともにその裂け目から現れたのは、4本の巨大な鋸状の角を頭に生やし、4本の足を持つ牛のような下半身と筋骨隆々の上半身を持つ異様な怪物だった。

「──これは、本当にまずいな……」

「VRRRR……」

かつてミノタウロスだった怪物は、唸りながら怒りに満ちた目で俺を睨んだ。


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