洞窟と、トカゲ
翌日、洞窟の魔物の討伐依頼を受け、俺たちは件のダンジョン化した洞窟に来ていた。
「なんでこう、ダンジョンは薄暗いところばかりなのでしょうね。気が滅入りますわ」
と、杖を光らせたステラがため息混じりに言う。
閃光を放つ魔法は前から使っていたが、洞窟を照らす魔法を新しく習得したらしい。
あのクイックシルバーのいた洞窟での出来事に彼女も思うところがあったのだろう。
今回のダンジョンに潜む魔物はそれほど強くなく、テムだけでも十分に対処できそうだが万一を考え消耗を防ぐためになるべく3人で倒している。
「洞窟のような閉じたところだと魔力が滞留しやすくてダンジョン化しやすいとは聞いたことがあるな」
あくまで学者の1人が言っていた説なので真偽は不明だが。
「魔領も巨大な天蓋に覆われていると聞きますし、なんとなく納得はいきますわね。」
「暗いのは苦手か?」
「苦手……と言えば苦手なのかもしれませんわね。足が竦むとかそういったものではないですが、わざわざ暗いところに行きたいとは思いませんわ」
「僕は暗いと落ち着きますね……あ、レイノスさん。前に敵が」
「よし、気づかれる前に一撃食らわせて倒そう」
目の前にいたのは洞窟トカゲ。トカゲと言うよりはサンショウウオに近いが、牙は鋭いし体長も1メートル近い。動きもけして鈍くは無いので油断していると手足を失うこともある危険な魔物だ。
「ほいっと」
危険な魔物ではあるが、慣れた冒険者なら一撃で首を落とせる。
首を失った胴体がビチビチと魚のように跳ねるのは不気味だが、ここに来てから何体も倒しているので慣れてきた。
この状態ならもう特に危険はない。
肉は食えるが持っていくほどの荷物の余裕は無いので、魔石だけ取り出して道具袋に放り込んでおく。帰る頃には別の魔物か同族に食われているだろう。
そうして奥へ奥へと進み、洞窟トカゲを倒しつつ歩いていると、突き当たりが近づいてきた。
「地図によれば、もうすぐ最奥ですわ。」
「そうか……頼まれた討伐数には少し不足だな」
討伐依頼の依頼数は30匹。対して現在の討伐数は、26。帰り道で十分に確保出来る量だろう。
最奥の横穴の前につくと、何やら湿った臭いとなにかの気配がする。
「なんか嫌な予感がするな。」
「ですわね。光を強めますわ。"multo luceat"」
その声に反応するように、横穴の向こうからはぺたぺたと音が聞こえる。
「ちょっと覗いてくる。杖で照らすだけ照らしてくれないか?」
「ええ。」
ステラは入口に杖をかざす。
照らされた壁に、何か動くものが見えた気がした。
「さて、と。敵の姿は……」
俺は横穴に入り、周囲を見渡す。
明るく照らされた壁、床、天井の全てに、びっしりと洞窟トカゲが張り付いていた。
しかもサイズがやたら大きい。
「うわっ。一時撤退」
俺は洞窟トカゲたちが普段見ない強い光で視界を焼かれ、こちらにまだ気づいていないらしいことを幸いに、横穴の外まで戻った。
内部の惨状を伝えると、ステラは嬉しそうに言った。
「腕の見せ所ですわね」と。
「どうするんだ?」
「そりゃもちろん、一網打尽ですわよ。"Quae sunt congelata"」
ステラが唱えると、強烈な冷気が横穴の中に吹き込み、漏れた冷気が洞窟内の気温を著しく下げた。寒い。
「さ、行きましょう。」
ステラの杖に照らされた横穴は、凍りついた洞窟トカゲに埋めつくされていた。
「宝物の類はありませんわね。魔石は炎の魔法で解凍して取れるのでご心配なく。」
「あ、ああ……こんなあっさり片付くとは……」
凍りついた洞窟トカゲに既に命はなく、哀れみすらも感じさせる。
数は100はいようか。報酬の少ない依頼ではあったが、これなら追加報酬も望めるだろう。
「レイノスさんとテムさんが、魔力を温存させてくれたからですわ。さ、そろそろ一旦出てこの子達を解凍しましょう」
その後ステラの炎の魔法で洞窟トカゲ達はこんがりと焼かれ、そのうちの一匹は俺たちの少し遅めの昼食になった。




