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新しい町、つきました

新たな旅立ち、新たな町。

俺たちが夜逃げしてたどり着いたのは、コルピオという小さな町だった。

ここは10年ほど前に近くにダンジョン化した洞窟ができたが、迷宮主がいないタイプで目新しい魔物や貴重な素材になる魔物がいなかったため、わざわざそれを目当てに来る冒険者もおらず、結局寂れていった町だ。

そんなこんなで、人の少ないこの町にわざわざ来るようなやつはだいたいトラブルを抱えたものか、借金を返せず高飛びするか、もしくはならず者だ。

ここに来る馬車の乗客も基本的にガラが良くなかったが、ステラもテムもちょっかいをかけられずに済んでいた。

「レイノスさんのお顔が怖いからだと思いますわ」

とステラは言っていたが、そうでは無いと信じたい。

「なあ、テム。俺の顔って怖いのか……?」

「えっと、その……少し」

怖いらしい。ショックだ。

その後少し足元を見られた値段の宿を取り、俺たちは町の唯一の酒場で夕食をとることにした。

メニュー表に書かれた料理や飲み物は、どれもぼったくりとはいえないギリギリの価格だ。

ならず者ばかり相手にする商売だ。

こういった強気な価格設定でも、客はここで買うよりほかに選択肢がない。

追われている訳でもない俺たちがわざわざここに来る必要があったのだろうか、とぬるい酒で喉を潤しながら考えるが、相手が相手だ。

最悪国をあげて追いかけられる可能性もあるので用心に越したことはないだろう。

ここにそう長居するつもりはないが、さすがに馬車での旅を続けると疲弊するし、体も訛る。

町の人間の記憶に残る前に去るのも悪くないが、もともと出入りの激しい土地だ、数日の滞在なら問題あるまい。

「明日はこの町の近くにあるらしいダンジョンでも行ってみるか」

「そうですね。ここ数日実戦がなくて腕が鈍っている気がするので……」

「この酒屋といい、宿といい、冒険者は足元を見られてますわね。素材は買い叩かれそうですわ。依頼はダンジョン関連で何かあれば受けるとして──ここでは邪魔にならない限り、素材や魔石を売るのは避けましょう」

「ああ、それがいい。」

「にしてもここの食事は酷いものですわね。塩をケチって味は薄いし、香辛料だってまともに使っていませんわ。塩のひとつでも買っておくべきでしたわね」

ステラは羊の内臓の煮込みを食べながらぼやく。

確かに味は酷い。

内臓は癖が強いためハーブを多く使うべきなのにまともに使っておらず、野菜も香味の少ないカブだけだ。

噛む度に羊と接吻でもしているかのような臭いが口内に広がるし、塩味も雀の涙を大鍋に落としたくらいにしか感じない。

俺はこれより酷い飯を食べたことは数え切れないほどあるが、貴族生まれのステラには厳しそうだ。

「酒で流し込めば気にならないぞ」

「早死にしますわよ」

「冒険者の平均から見ると大往生だよ」

「美味しいですよ?これ。ステラさん、もし食べないなら残り貰っていいですか?」

「……いいですけれど……良くこれをそんなにキラキラした目で食べられますわね」

と、ステラはテムの方に皿を押しやる。

「ありがとうございます!」

既に自分の分を平らげていたテムは、嬉しそうに降ってわいたおかわりをたべはじめた。

テムはスラム育ちの時期もあったと言っていたし、その後も清貧を旨とする教会で暮らしていた。

これくらいの飯なら普通に食えるのだろう。

しかし、なあ。

俺はスプーンで煮込みをつつきながら思う。

これを美味いと食べられることが、果たして良い事なのだろうか、と。

「テム、もっといっぱい稼げるようになってもっと美味いもん食おうな」

「どうしたんですか、急に?」

テムは怪訝な顔をする。

いつかまたここに来よう。

この煮込みを、テムと一緒にクソまずいと笑えるくらい美味いものを一緒に食べたら、また。




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