旅の条件、出しました
俺は15年住んだこの街、オビウムの街を離れる事になった。
と、言ってもしばらく先の話にはなるが。
あの日テムは何度断っても俺と一緒に冒険に出ると言って聞かず、色街に行こうと思っていた時間になっても説得が終わらなかったためしぶしぶ、条件をつけて了承することになった。
このまま二人で旅に出たところで、死体が二つ増えるだけなのは目に見えている。
生き残るのには慣れているが、彼をかばいながら冒険を続けられるほどの強さは俺にはない。
なのでせめて森に出るオーク三匹を相手取って、1人で倒せるくらい強くなってからだ、と伝えると不服そうにしていたがそれくらいはこなせるようになってもらわないと困るし、多分数ヶ月で出来るようになると続けると、途端に目を輝かせはじめていた。
一文無しでパーティーを追い出されたらしく、宿に泊まる金もないらしいので仕方なく俺の家に居候させてはいるが、家事の類をやってくれるようになったので正直助かっている。
具体的に言うと5年ぶりに床から物がなくなった。
酒の空瓶で作ったピラミッドが完成間近で消滅したのは少し悲しかったが、瓶の保証金は帰ってきた。
小遣いにでもしておけ、とテムに伝えると申し訳なさそうにポケットにしまっていた。
家事をてきぱきとこなしながら「僕にはこれくらいしか出来ませんから」と言う彼だが、戦いにおいても筋はそれほど悪くなかった。
何の訓練も積まずに、というか積む暇も無しに剣を振るっていたのと、重い幅広剣が彼の華奢な体に合っていないのが大きな原因であったため、俺のアドバイスに従って軽い片手剣に変えてからはすこぶる調子が良く、2週間経った頃にはオーク一体程度ならなんとか倒せるようになっていた。
「いいペースじゃないか。この調子なら一人で冒険してもなんとかなるんじゃないか?」
「いえ。冒険するなら師匠と一緒に。」
「……わかったから。師匠はやめろ。そんなキャラじゃない。」
一か月が経つ頃、テムはオークを二体相手取って倒した。
稼ぎが二人分になって、剣も新調でき、重いプレートメイルをやめて軽い胸部鎧に変えた事で、棍棒を縦横無尽に振り回すオーク相手にも危なげなく対処できるようになっていた。
そして一ヶ月と1週間。テオは約束通りオークを三匹相手取り、三匹とも寸分違わぬ鋭さで首をはねた。
剣を振って血を払うと、テムは嬉しそうに言った。
「行きましょう、あなたと一緒なら、僕はきっとどこまででも進めます。」と。