迷宮消滅
「ケケケケケケケケケケケケケケケ!!!」
クイックシルバーは残った右手の五指をテムに向ける。
5発の発射で、何としても彼を仕留めんとしているのだろう。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケ!!!ケケ……?」
クイックシルバーは勝ち誇るように笑い──怪訝な顔をする。その目線の先にある、その銀の左手首は既に存在していなかった。
「同じ手は食わない。それで終わり?」
着地したテムは、地面に落ちた、クイックシルバーの手首を踏みつけ、霧消させた。
「すげえ……」
思わず、声が漏れる。
テムを援護すべきなのだが、全く付け入る隙がない。
そもそも洞窟の床を、壁を蹴り跳躍するテムとクイックシルバーの戦場は空中であり、俺にそこで戦う能力はない。せめて何か補助魔法でもあればいいのだが──地面を柔らかくしたところで足でまといにしかなるまい。
俺にできることは──何か。
俺は周囲を見渡し──ステラの亡骸が視界に入る。
銀の弾丸が直撃したはずなのに、血の1つも出ていない。
綺麗なもんだ。
と、その細い指先がぴくりと動く。
まさか。
俺は身を屈めながら、ステラに駆け寄った。
彼女の手首を取ると、弱々しいが脈がある。
呼吸も、細くだがしている。
気絶しているだけのようだ。
銀の弾丸を食らって生きているなど奇跡に等しい。
ふと彼女の首元にかかる、認識票が目に入った。
ルースと言ったか、彼女のかつての仲間だった彼の血に塗れた認識票は、文字が削れきり、螺旋を描くようにひしゃげていた。
なるほど、これがあの弾丸から彼女を守ったのか。
奇跡と言うにもあまりにできすぎたその偶然。
認識票に魂が宿るというのもあながち嘘では無いのかもしれない。
ステラの無事を確認して安堵する俺をよそに、テムとクイックシルバーの戦闘は終わりを迎えようとしていた。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケーーー!!!」
不利を悟ったクイックシルバーは、テムの着地を狙い決死の体当たりをかける。
残像すら見えるその速度に激突されれば、無事では済まないだろう──だがテムはそれを読んでいたかのように、縦一文字に剣を振り下ろした。
「ギャーーーーーーッ!!!!??」
真っ二つになったクイックシルバーは、断末魔をあげて消滅する。
テムはそれを冷ややかな表情で眺め、剣を納めた。
「終わった……のか?」
テムは何も言わず──彼を包み込む黄金の粒子が、消える。
同時に、彼は糸の切れた操り人形のように地面に倒れ込んだ。
「お、おい、テム!」
俺はテムに駆け寄り、脈を確認する。
しっかりと脈はある。
先程のテムは、明らかに己の限界を超えた力を出していた。
おそらくその反動によるものだろう。
無事で何よりだが、2人を抱えて洞窟から出るのは骨が折れそうだ。
と、突如地面が揺れる。
「迷宮消滅か……!」
迷宮消滅。
ダンジョンと化した洞窟や建物は、その主を倒せば元の洞窟や建物に戻る。
その地形変化に伴い、中にいる魔物以外の生物は洞窟の入口に吐き出されるが──たまに熊とかいるので、そのせいでパーティーが全滅することもあり油断はできない。
「熊はやめてくれよな……せめてこう……猫とか……」
そんなことを口走る俺と、気絶しているステラとテムを迷宮消滅の光が包み込んだ。




