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苺が好きなのだ!

 どうしよう。神よ、我を救いたまえ。

 てっきりお化け屋敷で今日のミッションコンプリートかと思いきや、後輩女子はランチをご所望である。


「あの、もしかして迷惑でしたか?」

「ん!? いや、そんなことない」


 またしても声が裏返ってしまった。俺の返答で不安が消え去ったのか、琴葉は将来女子アナor女優になれるんじゃないかと思うほど気持ちいい微笑を浮かべる。


「えへへ。嬉しいですっ。じゃあ、宜しくお願いします!」

「お、おす」


 この際だからカミングアウトするが、俺は今まで女子とデートなど一度もしたことがないばかりか、こうやって並んで歩きながらレストランコーナーを回ったこともない。


「美味しそう……先輩は甘いものとかお好きですか?」


 琴葉の丸い瞳は、ショーウインドウの中に展示されている苺パフェに釘付けになっている。


「何でも食えるぞ。じゃあここにしようか」

「はいっ」


 声が弾んでる。このまま軽く空を飛べそうなほど軽快な足取りで後輩は隣にくっついてくる。そろそろまずい。緊張と感動と恐怖と不安と謎がぐるぐると脳内を駆け回り、身体中がふわふわしてきた。


 店内に入ると結構な人がいたものの、我々はバルコニーへと誘導される。三階から見える遊園地の景色は珍しくて壮観だ。


 すぐに店員さんがやってきたので、とりあえず俺はガッツリ食いたかったので大盛りのパスタを頼んだが、甘党後輩はサンドイッチと苺のパフェを注文していた。


 しかし、サンドイッチもパフェも写真でもわかるほど小さい。コスパ重視の俺には理解不能だったが、女子にしてみれば丁度いいのだろうか。


「先輩。今日は私の練習に付き合ってくれて、本当にありがとうございます。何だか、頑張れそうな気がしてきました」

「いやいや。こんなことお安い御用だよ。青花さんには部活で助けてもらってるし。そうそう、また怖ーい配信するのか?」


 少しだけ考える素振りをしてから、琴葉は小さい顔をブンブン横に振った。


「えへへ。でも、しばらくはいいかなって。ホラー以外の配信もしなくちゃいけないですし」

「ふーん。やっぱゲーム実況って大変だよなぁ」


 さくらちゃんとか、あんなに沢山の人に視聴されながら生配信するのは相当キツいだろうに。


 そんな風に最愛の妹のことを考えていると、店員さんがパスタとサンドイッチを運んできたので、ちょっぴり緊張が残りつつ食事が始まった。


「いただきます。全然大変ではないですよ。みんな優しいから、とっても楽しいんです」


 向かいに座る美少女は、サンドイッチを食べている時ですら美少女だ。そして普段は暗くて言葉少なめだったのに、今日はけっこう喋ってくれる。その後も配信のこととか、俺の趣味とかさくらちゃんのことをひたすら語った。


 気がつけばパスタは完食したし、琴葉のサンドイッチも綺麗になくなったタイミングで苺のパフェが到着した。俺は幸せそうにニコニコしながら苺とクリームを頬張る姿をじっと眺めている。そこで、なんか唐突に目があった。


「どうしたんですか先輩。じっと見て」

「え!? ああいや、別に」

「……あ! そっか。ごめんなさい。私気がついてなかったです」


 ん? 一体何が気づいてなかったというんだ? 心の中で?マークが浮かび上がった矢先、白く細い指先が掴むスプーンがこちらに伸びてくる。苺とクリームと眩しい笑顔を乗せて。


「は、は……はい。あーん」

「え!? え!? ちょ、」


 こ、これは……まさか。


「先輩、ホントは苺のパフェ食べたくなっちゃったんですよね? こういう時は分けてあげないと。あ、あーん」


 待ってほしい。俺の心は既にレッドゾーンを軽く振り切っている。いつ事故を起こしても不思議じゃない状態だ。まさか、こんな行いを現実で受けようとは。


 どうして良いのか分からず体が鋼鉄化するが、いつまでも口元に迫る甘美な優しさを無碍にするわけにはいかん。俺は覚悟を決めて、震える口をどうにか広げた。


「ふむぅ!」

「わあ。一気に食べましたね。美味しいですか?」


 父さん、母さん。もしかしたら俺は今日、車に轢かれて死んでしまうかもしれません。今日という日に幸運という人生において重要なものを使いきりました。先立つ不幸をお許し頂きたくなるほどの衝撃。興奮。そして幸せ。


「美味い……最高すぎる」

「先輩も甘党だったんですね。仲間ができて嬉しいっ」


 この小さな後輩に、俺という人間は完全に圧倒されきってしまった。もはや帰り道の記憶もおぼろげで、琴葉が語りかけてきた話題はかろうじて反応できた程度でしかない。


 数々のショックで幸せな廃人と化した俺は、その夜パソコンを開いたことでようやく元の様一郎に戻ることができた。


 冷静に考えてみれば、今日はただ後輩の付き添いをしただけなのだ。あの子は一人だとどうしても行動できないところがあるようだし、パフェだって誰かに付き合ってもらいたかったんだろう。


 考えていても仕方ない。俺には何といってもさくらちゃんがいるじゃないか。奇遇というか何というか、今日突然配信を始めたさくらちゃんも、とっても上機嫌だったのだ。

 お読みいただきありがとうございました!

 明日も何とか投稿したいと思います^ ^

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