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いたずらに使っちゃいけないよ  作者: 幻中 六花
5/10

魔法は寿命を変えられない

 最初で最後の私の結婚は、あれはそう、25歳くらいのころだったかな。相手は1歳年上で、私のことを魔女と知っても態度を変えなかった数少ない人間の男性だった。

 きっと私は人間からすると想像できないくらい長く生きる。それゆえ、自分が先に死ぬことも、子供が先に死ぬことも、理解してくれての結婚だった。結婚後まもなく、人間の子どもを授かった。元気な男の子に育ち、友だちにも、私たち両親にも優しい子に育った。


 子どもが小さいころは、人間と魔女の違いを理解することができず説明も大変だったが、大きくなるにつれ、正しく理解してくれる、物分かりのいい子だった。母親が魔女だということでからかわれたり、興味本位で家に押しかけてくる子もいたが、上手にかわすことも、私を守ることも自然と覚え、なに不自由ない暮らしが何十年続いただろうか。


 夫は人間のスピードで年を取り、仕事を定年退職。出会ったころは1歳年上だった夫も、そのころになると随分歳の離れた夫婦という見た目だっただろう。私は見た目が随分若い64歳だ。息子は大学を出て司法試験に合格し、夢だった弁護士の職に就いている。


 人間が『終活』とやらを始めるこのころ、夫は悲しい顔をすることが多くなった。私より先に年老いて、私より先に死ぬ。そのことは理解した上での結婚だったが、いざそれが近くなってくると、やはり悲しみを隠しきれないと語っていた。

 いい大人なので、仕方のないことは仕方のないことで飲み込むしかないのだが、身体が自由に動くうちにたくさんやりたいことをやり、私と一緒に過ごしたいと言う。


 『随分歳の離れた夫婦』から、『親子』のような見た目になり、下手すると『孫』のように思われるほどに、見た目の年齢差は離れていく。中身はなにも変わらない同年代のおばあちゃんなのに、夫が年老いていくことよりも、周りから夫婦と見られなくなることが私は個人的に悲しかった。


 やがて、夫は病死した。胃がんだった。魔法で治せばいくらでも長生きできそうなものだが、魔女の魔法は運命を変えることができない。その時に病気を治したとしても、何らかの理由で死ぬ時は生まれた時に決められた寿命に重なるのだ。

 がんが再発するのかもしれないし、他の病気かもしれないし、事故かもしれない。原因は分からないが、死を迎える瞬間は変えることができないのだ。それを知っていたので、夫はがんを魔法で治してほしいとは一度も言わなかった。1年間の闘病の末、先に天国へ旅立った。


「この痛み、魔法で取れるか……?」


 弱音を吐かなかった夫が言った、最期の願いだった。寿命を延ばすことはできないが、痛みを取ることはできるので、最期に笑った顔が見られてよかった。この時、息子は40歳。見た目は私も同じくらいだ。


 運命とは残酷なもので、がんが息子に遺伝した。私のように突然変異でがんの遺伝子がない身体に産んであげられなくて、ごめんね。

 がんは息子の喉を蝕み、声帯を全摘出する治療を行った。運命に逆らうつもりはないけれど、まだ人の役に立ちたいからと、本人たっての希望で延命に力を入れることにしたのだ。

 息子は声と引き換えに、再び弁護士として人を助けることができる。筆談や、タブレットに文字を入力しての意思疎通は時間がかかるし大変だと言っていたが、それでも人の弁護は可能なのですぐに仕事に復帰した。


 3年後、がんは息子にまた牙をむき、胃に転移してしまった。夫と同じ胃がんで苦しむ息子を看病する日々。魔法を使って治してあげたいけれど、寿命を変えられるわけではない。私たちは人間として、普通の治療でがんと向き合うことにしたが、息子は47歳でこの世を去ってしまった。

 私を思ってか、生涯独身で仕事を愛した息子を誇りに思うと同時に、これで息子は幸せだったのかと考えると答えはもう見つからない。

 少し早すぎたな、と感じる一方、人間の家族だったら子どもが47歳の時に親が元気に看病してあげられる身体はすでに持ち合わせていないのではないかと思い、この時初めて、魔女に生まれてよかったと心から思った。


 夫も、息子もいなくなってしまった。

 長い魔女の人生においては、何百年分の何十年だったけれど、とても幸せなひと時だった。ここからは独りで自由に、長すぎる人生を全うするとしよう。

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