エピローグ
第三章の〆のエピローグになります。
一紗達の活躍もあり、【宍国】の内戦は全面戦争に発展する前に収束した。《天睛臥龍》頭領達が領主・赦鶯を支えると宣言したことで皇族排斥派は急速に勢いを失ったのである。
また、正式に【愁国】との相互友好軍事同盟が締結されることになった。
勿論、一紗の嫁入りは白紙である。そんな条件をつけなくとも、皇鬼相手に共闘した将たちは互いの国の矜持や戦闘能力を認め信頼したのである。
固く握手する両国の領主を皆が歓迎していた。
「結局、俺達が留守番する意味……あったのですか?」
「何言ってるんですか、硬角君! 私達が州都にいることが牽制になるのですよ!」
「俐竪が今良いこと言った! 団員の教本に書き記したいくらいだぜ」
「俺は密入国者を逮捕したぞ。水路から入ってきやがった。空路はどうだったんだ、羽飛?」
「こっちは問題なしだよ。寧ろ今のお祭り騒ぎで問題が起きそうだと思う」
同盟条約締結において《軍龍武臣》の団長たちも出席していた。
彼らは今日も州都の平和を守り続けている。
そして同盟締結式典の数日後には元皇族排斥派の有力者達は要職に着任していた。
宣告通り、混・ 貫信はご意見番に抜擢される。他の頭領達もそれぞれの町の市政長に任命された。反目していた時代から実質市政長だったので役職が追認される形になったのだ。
愁国組はというと、《天睛臥龍》との仲裁と皇鬼再封印の功績が称えられて、報酬を賜ることになった。金一封の他に妖還製の武具、そして手なずけられた移動用妖魔である。
勿論これらは美鳳の巧みな話術で勝ち取ったものだった。
「たくっ、しっかりしてやがるぜ。ウチの姫様は……」
「貰えるものは貰いますよ。お金は旧寥国領の開発費に当てましょう。妖還製の武器は愁軍強化に当てます。優先販売権も勝ち取ったので供給もバッチリです」
「もうすっかり回復してるわね。【龍閣】に帰った日は熱出して寝込んでたのに」
「そうですよ、姫様。あまりご無理をなさらず」
「それより、美鳳! 臣下への労いが足りねェぞ! 国の発展に使うのもいいが功労者の士気を上げるのが先なんじゃねェか!?」
「うーん、兄上の意見にも一理ありますね。仕方ありません、欲しいものを言ってください」
それぞれが物欲全開のトークを繰り広げている。一紗も乗っかろうと思案するが急に欲しいものは思いつかない。部屋にあるものから何か欲しいものに繋がるヒントが得られないかと考えて、何気なく扉の方に目を向けた。
そこで半開きの扉からこっそり手招きする赦鶯と目が合った。込み入った話らしかったので仲間には適当な言い訳を並べて席を外すことにした。
案内されたのは城の縁側である。
明かりが灯った町が綺麗な夜景を演出していた。
「――それで話ってなんだ?」
「一紗、僕は本気でキミに惚れてしまったよ」
「はぁっ!? いや、急に……そんなこと、言われても……」
イケメン女子からの弩直球告白を前に一紗は耳まで真っ赤になる。
心臓の鼓動が速度をあげていくことを自覚してしまう。
「一紗は僕が本当の性別を偽っていたのが嫌……なのかな。生粋の男の方が良いとか?」
容姿端麗な青年の憂いを帯びた表情の破壊力を再認識した瞬間だったが、一紗は思い直して頭を振った。
「そもそも俺は男なんか恋愛対象じゃないし……。だからお前が女と知って安心したというか」
「よかった! なら問題ないよね!?」
「ちがうちがう! 大問題! そもそも、縁談の話は既に白紙だぞ!? あれは皇族排斥派の和解条件だったわけで!」
「条件とかはもう関係ない! 僕はキミが欲しいんだ! 側室の謀反により心が折れかけたとき、キミは僕を叱咤激励してくれた! あの時のキミはとても綺麗でカッコよかった! だから僕の妻になってほしい!!」
手を掴んで情熱的なプロポーズだ。夜景による演出と真面目な眼差し、邪魔をする者は誰もいない状況。彼女は狙って口説いてきたのである。恋愛経験の浅い生粋の少女ならこの状況に呑まれて「YES」と言ってしまいそうである。
だが一紗はよく考えた上で丁重にお断りした。
「……き、気持ちは嬉しいが、俺は美鳳の傍盾人だ。これから天下統一するという大義がある。家庭には収まることはできん」
「天下統一なら僕も協力するよ! 夢が達成されれば早く嫁に来てくれるんだろう?」
「いやちがくてっ! そーじゃないのっ! 俺は美鳳の傍にいなきゃダメなのっ! 分かって! お前は確かに良い奴だけど……結婚とかそこまで考えてないから!!」
赤面しながら必死に訴えると赦鶯は一応納得してくれた。
「そうか。美鳳には義理があるし今は退くとするよ。……でも僕は諦めるつもりは全くないからね。……いつかキミの乱れる顔が見てみたいし」
「おい、やめろ」
話し合ってい内に蕾華が二人に向かって突撃してきた。
どうやら不穏な空気を察したらしい。恐ろしい嗅覚である。
「なによ、この桃色空間は! どうせまた一紗さまを口説いていたんでしょう!」
「よく分かったね、蕾華ちゃん」
「一紗さまの一番は私だから!」
「僕は何番目でもいいよ?」
「え? ああそうなの? ……うーん……だったら」
「妥協すんなよ……」
蕾華が噛みついている姿を見て猛烈な既視感に襲われる。この【宍国】で彼女が敵意を向けて口喧嘩していた相手が赦鶯以外にもう一人いたのだ。
「あ、そういえば! なぁ赦鶯、〝あいつら〟はどうなったんだ?」
「ん? あぁ、〝彼女達〟のことかい? 元気にやってるよ。会いに行こうか」
――案内された先は町外れにある小さな里だった。
飛竜種に乗れば【龍閣】から遠くない場所にある。
そこには妖魔を使役して農作業に勤しむ二人の少女の姿があった。
「温優、元お姫様って割には作業が板についてるじゃないの」
「皇子に気に入られるために田舎娘を演じる必要があったってだけよ」
温優と乃梅が仲良く道具の片づけをしている。泥に塗れる少女達が最近まで皇子の側室だったとは夢にも思わないだろう。
「あのあと落ち着いた温優には【嚀国】崩壊の真実を教えたんだ。自分が師と仰いだ人物によって仕組まれた計画を知って意気消沈してしまった。こちらが罰を与えるまでもなかったよ」
它・締瓏による【嚀国】破滅計画と捨て駒として諜報員にされていた事実を根拠をもって知らされたのだ。残酷な真実に彼女は生きる希望を失くし、自ら極刑を望んだ。
仇から洗脳教育と術による精神改悪を受けていたことから、情状酌量が加味され、側室特権剥奪と州都からの追放という刑で済んだのだがそのままでは命を絶ちかねなかった。
そこで乃梅は彼女を励ますために自ら側室の身分を捨てて下野したのだ。初めこそ心を閉ざしていた温優も知らない土地で心細かったためか乃梅にだけは徐々に心を開くようになったのだという。
「そうか、まぁ元気にやってるなら――」
踵を返そうとした一紗の背後に「あー!」というやかましい叫び声が響いた。
「ちょっと、一紗に蕾華! 挨拶もなく帰るつもりなの!?」
気づいた乃梅達が駆け寄ってくる。温優は赦鶯を見つけると気まずそうに一礼した。
「殿下、その節は……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いいよ。僕の方こそすまなかった。本当は元の国に返してあげたかったけれど、政治的にややこしい問題があるし元通りというわけにはいかない」
「いえ、首を飛ばされることも牢に繋がれることもなく乃梅と暮らせているだけで幸せです」
「それで、乃梅の方は俺に文句でもいいに来たのか?」
「違うわ。お礼をと思ってね」
「礼だぁ? 俺は温優を追求しただけだぞ。寧ろ恨まれてるのかと思ったが」
「いいえ、アンタが真実を明かしてくれなければ、私は友達の抱えていた問題に気づかないままだった。そして温優も殿下を恨んだまま。そして何も知らないまま大逆人として殺されていたかもしれない。――だからアンタには感謝してるわ」
「ふーん。あのツンツンだった側室さまが随分丸くなったじゃない」
「うっさいわね、蕾華! 感謝の気持ちくらい素直に受け取りなさいよ!」
蕾華と乃梅が睨み合っている間に温優が一籠の果実を持ってきてくれた。
おすそ分けのつもりらしい。
「ご近所さんから貰った果実よ。本当は私達が育てたのを渡したかったんだけど、始めたばかりで実はならないからね。だから先輩命令! また実る時期に顔見せに来なさい!」
「来るのは構わんが……俺の嫁入りもなくなったし、先輩命令だってもう時効だろ?」
「ふふん、先輩後輩の関係は一生続くのよ」
乃梅は腕を組んで得意げに笑った。
農家になってもこのキャラは続けていくつもりらしい。
二人に見送られながら一紗達は再び空路で【龍閣】へと帰っていく。
一紗たちは貰った果実を早速頬張っていた。
「乃梅って世話焼きなんだな。普通自分の地位を捨ててまで友達と暮らそうとは思わんだろ」
「そういう所が気に入ったから側室に迎えたのさ。手放してしまったのが残念なくらいだよ」
「あの二人なら何があっても大丈夫そうね」
息災そうな少女達の様子に安堵する。農家の本場の人が育てただけ果実は絶品である。農業初心者の少女達がこれに匹敵する作物を作れるか楽しみであった。愚痴を垂れる乃梅を温優が諫めながら作っていく様子が今から眼に浮かんでくる。
そんな温かい気持ちで【龍閣】へ帰還すると、鎧兜が手を振って出迎えてくれた。
兜で表情は分からないが、どこか緊張しているように見える。
「どうした鎧兜。なんかあったのか?」
「俺達の国に関することでちーとばかしメンドクセーことがあってなァ」
チラッと赦鶯と目を合わせると、彼女も部外者という立場を理解して席を外してくれた。
「慌ただしくて悪ィが、詳しい話は美鳳から聞いてくれ」
ただならぬ雰囲気を察した一紗と蕾華は目配せし合った。
急いで向かった先は龍閣城で愁国組が貸与されている客間だ。
「一紗、蕾華、戻りましたか。重要なお話があります」
「何があったの?」
「先程外国に派遣していた《顔無》から連絡がありました。……北の大国が南下してきたのです。侵攻が続けば我が国にまで達します」
美鳳は地図にある【冰国】という国を示した。その周りには×印がつけてある。【冰国】によって落とされたことは想像に難くない。
周囲を呑みこみ拡大しているため強い国ではあることは推測できる。だが、【愁国】より遥か北方にあるのだ。確かにこのまま南下が続けば【愁国】にぶつかることにはなる。
だが遠方の国になぜそこまで動揺するのか一紗は理解できなかった。
「何でそんなに青い顔してんだよ? 今までだって強い奴と戦ってきただろ?」
「侵攻速度が段違いな上に、この国の領主は格が違うのだ」
「龍宝まで顔色悪いな。格って……そんなに強いのか?」
「ええ。かの国の領主は五大民族……《滉族》の血を引いているのです」
《滉族》は五大民族の中で水属氣巧術に秀でた民族である。
ついに最強の血筋が動きだしたという事実に一紗と蕾華は血相を変えたのだった。
これにて『宍国同盟編』終了です。
いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけたなら幸いです。
相変わらず誤字多いですね。また、今尚一章で見つかる誤字に戦慄しました。
指摘してくださった方、ありがとうございます。m(_ _)m
本章執筆の動機は『華風皆殺し娘の交渉術』におけるTSモノの旨味が足りてないと思ったことが切っ掛けです。
TSモノは異性になった苦労や楽しさを実感する話が多いですが一章の構成上、描くのが難しかったのです。
一紗はまず大人から幼女になったので女としての苦労より子供としての苦労が先行しました。
そして治安の悪さ故に生き残ることに必死になり、気が付いたら女性の身体に慣れていた感じです。
なのでTSモノの旨味を殺してしまってたんですね……。
一応『男尊女卑』『男女の体力差』『貞操の危機』など
女性としてネガティブな経験は一章二章でもあったのですが
もっとポジティブなものを描きたいなぁと思い三章の形になりました。
女性として口説かれてドキドキしてしまうとかですね。
加えて紅華帝国の歴史や《巫族》のキャラ付けとか加えている内に密度が濃くなりました。
本当は『寥国攻略編』くらいの分量に収めたかったのですが。
まぁ結果オーライですね。
物語全体としての主人公は一紗ですが、三章単体で見ると赦鶯が主人公、ヒロインが一紗にも見える構成にしました。
なので赦鶯皇子には「性別を偽っている」「天才的な調伏能力」「百年ぶりの幻龍使い」と主人公属性があります。
さて、本章最後に五大民族の血を引く者が登場しました。
一章で蕾華出てから丸々二章スルーだったので
おせーよ、タコって感じですが、すみません。
国の地盤を整える一章、戦勝して国を強くする二章、強力な同盟相手と結ぶ三章は
五大民族と渡り合う上で必須だったので今日まで持ちこしでした。
次章からいよいよ五大民族が深く関わってきます。
第四章の投稿は来年以降になります。
ですが、12月(中旬か末予定)の投稿は行いたいと思います。
内容はいつかお話していた『幕間のお話』ですね。
一章から三章で「テンポの都合上描けなかったモノ」「描写が足りなかったモノ」の補完エピソードです。
「蕾華との武言デート」や「惡姫の侍女」のお話とかですね。
三章だと「温優と乃梅の和解」のお話をここで描く予定です。
所謂短編集みたいなものですが、それぞれの「まえがき」で本編のどの時系列に入るかは告知します。
これを機に年末年始『華風皆殺し娘の交渉術』を振り返っていただけたらと思います。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
m(_ _)m




