投票の結果
『美麗競催』の続きです。
「それでは観客の皆さん! 素晴らしいと思った一人に投票をお願いします!」
全員が高らかに黒い札を掲げる。一紗はどの妖魔が良いか迷った。全ての演技が素晴らしかったので選びようがなかったためである。仕方がないので全てを己の心に託して札を上げた。
一紗の色は青に染まる。蕾華も同じく青、赦鶯が選んだのは黄色だった。
青色が示すのは『甲』の演者、禽・扇麗選手とその相方妖魔『鮮鶴』である。
黄色は『丙』の演者、溜・泳海と『泡浴蛙』を示していた。
会場の色はどれもそれぞれ同数に見える。
待つこと数分、集計の結果はすぐに出た。
「非常に接戦でしたが、僅差で優勝は『丙』の演者、溜・泳海選手と『泡浴蛙』でした! 若き挑戦者に拍手をお願い致します!」
「アリガトネ。私、これからも頑張るヨ!」
観客とライバルたちから盛大な拍手が贈られる少女は満面の笑みを浮かべて相棒の妖魔と喜び合っていた。
赦鶯の選んだ選手が優勝する結果となった。彼は優し気でありながらも勝ち誇った顔を見せる。流石は国の領主だけあって見る眼は確かだった。
しかし蕾華は敗北を認めなかった。自分の札と一紗の札を重ねて赦鶯に見せつける。
「私と一紗さまは同じ青を選んだ。つまり感性が同じということ。一緒に過ごす上で相性は大事なのよ。貴方より私の方が一紗さまに相応しいの」
「なるほど。そういう考えもあるか。入り口で少し待っていてほしい」
返答をする前に足早に去っていってしまう。
人混みに消える背中に声をかけることもできなかった。
「赦鶯の奴、どうしたんだ?」
「さぁ、諦めて身を引いたんじゃないの?」
「なんか蕾華、赦鶯にあたりが強くないか?」
「アイツが男だから警戒してるだけよ。一紗さまに気があるし」
「同じ男でも鎧兜にはそんなにキツくないだろ? アイツも俺を慕ってるぞ?」
「鎧兜は弁えてるからいいの。でも赦鶯は露骨に口説いてくるし! 一紗さまも気を許しちゃダメだからね?」
「はいはい……。つーか、俺が男に惚れるとかねーよ……」
人混みを掻き分けて入り口まで脱出する。観客の中には他の部門を続けて視聴する者もいるようですぐに別の扉へ入っていく。
人の波が消えていくと同時に赦鶯が手を振って近づいてくるのが見えた。
「やぁ! 急いで売店に向かって良かったよ。危うく売り切れる所だった」
「売店? 買い物してたのか?」
「そうさ。君の感性に合わせた贈り物を渡そうと思ってね」
彼から手渡されたのは鳥の羽を模した髪飾りだった。
禽・扇麗選手とその相方妖魔『鮮鶴』をイメージした装飾品である。
「有力選手の印象を商品化した物品がここでは変えるんだ。君は彼女達の演技に心惹かれたんだろう? 今日の思い出に、と思ってね」
「あり……がとう」
「く~! 転んでもタダで起きないとは! 油断ならない男!」
「ふふ、一紗が誰を好きになるかは自由だけど、僕が一紗を好きな気持ちは永遠に変わらないからね」
「一紗さま! 堕ちちゃダメだからね!」
蕾華に念押しされなくとも一紗は男に惚れるつもりはなかった。しかし、女の子が雰囲気を重視し、情熱的なアプローチに弱くなるという心情は今日一日で理解したことだった。
元男で今は大義のために行動している。そんな前提がなく、生まれつき女の子だったなら心を奪われていたかもしれない。そんな魅力が赦鶯にはあった。
(いかん……身体は女になっても心まで染まってはいけない。……平常心平常心)
精神統一している間に、赦鶯は髪飾りを一紗の手から取り、髪につけてしまう。
「やっぱり似合うね。美しい……」
「そうね、一紗さまの美しさには疑問の余地はないわ。だから髪飾りも奪わないであげる!」
「寛大な処置に感謝するよ、蕾華ちゃん。おっともうこんな時間か。宮廷に戻るとまた外出許可とるのが面倒だから町で食事をすませてしまおう。一紗は何が食べたい?」
「旨い物なら何でも」
「じゃあ町で評判の大衆食堂に行こう! すごく美味しいんだ!」
案内されたのは日本でもよく見かけた中華料理屋である。大きな店ではないが、三十人は入れそうな間取りだ。
「殿下、また城から抜け出してきたんですか?」
「今日はちゃんと許可とってるよ。好藍ちゃん、いつもの奴頼めるかい?」
「はいはい。まーた女の子引っ掛けてきたんですね」
店員との態度から察するにお忍び逢瀬に利用している常連のようだ。一国の皇子が大衆食堂の常連というのもおかしな話だが、赦鶯らしい人間関係だった。
「旨いチャーハンだな。水餃子も良い!」
「油淋鶏の味付けにもこだわりを感じるわね。本当に下町の大衆食堂なの?」
「お気に召したようで何よりだね。僕もこの店は気に入ってるんだ。どうだい一紗、僕の嫁になれば毎日でも連れてきてあげるよ?」
「こらぁ! 一紗さまを口説かないで! もう! 油断も隙も無いんだから!」
冗談を交えつつも三人は料理を平らげていく。箸が進む料理のおかげで深刻な喧嘩には発展しなかった。
「で、午後からどうするんだ? 城に戻らずに食事にしたってことはどっか行く予定があるんだろう?」
「午後からは『妖魔対戦』を観戦しようかと思ってるよ」
「『妖魔対戦』って妖魔同士を戦わせる見世物よね?」
「流石に外国でも有名だったか。『美麗競催』より歴史が古いからね」
美麗さを競う『美麗競催』とは違い「純粋な強さ」を比べる競技が『妖魔対戦』だという。歴史が非常に古く、少なくとも千年前には存在していた記録があるらしい。
「昔はどちらかの妖魔が絶命するまで続けるという野蛮な側面があったが、今は主審が戦闘不能と判断した時点で勝敗が決する。だから観戦しても残虐な場面を見ることはないよ」
「……まぁ『美麗競催』は良かったし、赦鶯が勧めるなら見てみようか」
「良かった。一紗の信頼を少しは勝ち取れたみたいだね」
元々前の話と一つなので今回短めになりました。
赦鶯は気に入った女性の名前はすぐに覚える、女性の顔見知りが多いという演出なだけなので看板娘の好藍ちゃんは特に出番ないです。
次回『妖魔対戦』の観戦の話になります。




