妖魔を使役した娯楽
町に出かけた一紗たちは娯楽文化に触れます。
紅・赦鶯という人物は町民から慕われているらしく、城下町では行きかう人々に挨拶される。
甘いマスクなので女性人気が高いのは頷けるが、男性や子供、老人からも支持されているようだ。
「随分人気があるんだな」
「妖魔を使役した介助制度の施行、絶滅が危惧される少数妖魔の保護、税率の引き下げ、教育制度の充実……と色々努力はしてきたからね」
「女癖の悪さを帳消しにするくらいだもの、実務では有能と認めざるを得ないわね」
「ふふ、領民達は領主の個性として受け入れてくれてるよ」
英雄色を好むと言うのは有名な話だ。皇族として側室がいるのも一般的である。気に入った町娘を誘拐する主君も多い昨今では、寧ろ赦鶯の態度は誠実だとすら見ているのだろう。
(コイツの人柄は掴めてきたな……)
「ん? 僕の顔に何かついているかい? それとも見惚れていただけかな?」
「たまたま目が合っただけだ」
「残念。だったら一紗にもっと気に入ってもらえるように良いところに案内するよ」
「えっちな場所だったら杖で殴るからねっ!」
「蕾華ちゃんは乱暴だなぁ。僕だって出会ったばかりの女性といきなり一夜過ごすなんてことは――あっ。……まぁ、とにかく次に行く所は健全な場所だから安心してよ」
「待て。何で今話題を変えた?」
一夜限りの思い出に心当たりがあったらしい。
これだけ整った顔立ちの皇子なら一晩でも需要はあるのだろう。
深く追及しようとする言葉を町人の「「おぉ!」」という歓声が遮った。
「何だ? 何だ?」
「見て! 一紗さま!」
蕾華が指さした先は大通りの方だった。
様々な妖魔を連れた氣巧術士達が派手な格好で闊歩している。彼らは丸い城のような大きい建物に入っていく。盛り上がっていた見物客達も建物へと追いかけていった。
「ここは『美麗競催』という催しものが行われているんだ」
「びれいきょうさい? ああ。だから華やかな装いをしていたのね」
「育てた妖魔の美醜を競うんだ。外見的な優美さ、技の優美さなどだね。最初は美麗さだけだったが、今は逞しさや賢さなどに特化した部門もできてる」
一紗達も赦鶯に手を引かれて建物に入る。
内装も美に拘ったデザインとなっていた。各部門はゲート分けされているようだ。
受付は赦鶯を見るや否や畏まり、特等席を手配してくれる。
「一紗は見たい部門の希望とかあるかな?」
「俺は……別に……」
「じゃあ初心者として分かりやすい『美』の部門へ行こうか」
花の描かれた扉に入ると、中はドームのようになっていた。円状のライブ会場と同じつくりである。中央には四人の氣巧術士と四体の妖魔が並んでいた。
妖魔にはそれぞれ『青』『赤』『黄』『緑』色の布賭けが巻かれている。
「アイツらが競うのか?」
「そう、彼らが順番に演技し、最後は全員が一斉に演技する。観客の心を掴んだものが勝者という訳さ」
「でも、どうやってお客さんの心を集計するの?」
「一紗、それから蕾華ちゃん。入場時に白い札と黒い札を貰っただろう? 評価はその札がしてくれるんだよ」
特別な製法で作られた札には心の動きを感じ取る氣巧術が込められているのだという。白い札には心が動かされると明滅する仕組みになっており、光った数で集計するそうだ。
黒い札は色を変える性質があり、視聴者がより優れていると思った妖魔がつけている布と同じ色に変わるらしい。
「最初の白い札による明滅を一枚につき一点とし、演技後の黒い札による直接評価を一枚につき十点とするんだ。運営は直接札の変化を感じ取れるからすぐに集計されるよ」
「へー便利なもんだなぁ」
話している内に会場は暗くなり、スポットライトは演者の妖魔と使役者、そして司会の男にのみ集中する。
「では、ご紹介していきましょう! 演者の『甲』! 《巫族》の名門、禽一族から『禽・扇麗』選手とその相方妖魔『鮮鶴』です!」
美しい女性選手に拍手が送られる。
女性選手と共にお辞儀するのは鶴と孔雀を融合したような美しい鳥の妖魔だった。
非常に落ち着いた姿勢はそれだけで美しいが、アピールタイムに移ると『鮮鶴』はその鮮やかな飾り羽を開いて神々しく見せつけてきた。まるで女王のような佇まいである。
「綺麗だ……」
一紗の呟きに呼応するように白い札が光ってしまった。完全に心を奪われたのだ。
羽ばたき時に見せる翼の動きも優雅で、舞い散る羽が光に反射してキラキラと輝いていた。実際拍手の数も多かった。
「初手の重圧に負けない素晴らしい演技でした! 続いて『乙』の演者は放浪の旅人、覊・最猛選手が相棒に選んだのは『炎悟申』! なんと【火国】で仲間にしたそうです!」
異国の妖魔の登場に会場は大盛り上がりだ。炎を纏った妖魔は炎を如意棒のように振り回す炎技を繰り出し、派手な演技で観客の目を奪った。中二心を擽る演目に一紗の白い札が反応する。
「珍しい妖魔による派手な演技! 実に見事でした! 続いて『丙』の演者は最年少の初参戦溜・泳海ちゃんとお友達の『泡浴蛙』です!」
小中学生くらいの女の子の周りを大きな蛙型妖魔が飛び跳ねる。
ジャンプによる技の披露かと思いきや微細な水芸を得意とし、水流を巧みに操る姿が観客に強い印象を植え付けた。
最後に客席に虹をかける演出に心惹かれた一紗の白札はまたもや輝いた。演目の凄さに言葉を失っても札が一紗の心境を代弁してくれるのである。
「見事な演技でした! では最後に『丁』の演者! 外国から参戦された刈・門碕選手と相棒の『羊毛蛾』! 異国の妖魔使いはどんな技を見せてくれるのか!?」
刈・門碕は確かに《巫族》とは異なる系統の衣装を纏っていた。相棒の妖魔も見たことが無い大蛾の妖魔だった。触ってみたいモコモコの毛でおおわれている。
「外国人でも参加できるのか?」
「当然。我が国は門を広く開いている。妖魔を使役しているという条件を満たしていたら参加は自由さ。今回の競技は予選勝ち抜き組だから、予選で力量は認められてるはずだよ」
確かに実力は十分だった。鱗粉を使った演目は非常に美しい。妖魔が舞うような飛行を始めると観客全員が目で追うのが分かった。
勿論これも一紗の白札を光らせるに十分だった。
「一紗、全ての演技に感動しているね。ふふ、純粋なんだ?」
「別に……ただ、綺麗だと思っただけで……」
「物事をありのまま受け止められる人は貴重だよ。君はとても綺麗な心を持ってる」
「むきー! 私の一紗さまを口説いてきて! 確かに演技は凄かったけどっ!」
ハンカチを噛む蕾華は赦鶯の行動が気になって演目に集中できていないようだった。
そんな彼女と違って観客は演者たちに釘付けである。
「大取に相応しい演技でした。ありがとうございます! それでは最後に参加者の皆さんは自身の妖魔こそ王者にふさわしいと観客席に訴えてください!」
全ての演者たちが盛大に技を披露する。全員がライバルに埋もれないように必死である。
今までと同じ技をより洗練して披露する者や時間が足りずに披露できなかった新技を見せる者もいた。そんな彼らのアピールに観客席は大興奮であった。
『美麗競催』は現実におけるペットコンテストみたいなものです。
特に長く引っ張るつもりはないので次回で結果が出ます。
この話に繋げて演目の終わりまで上げようかと思いましたが長くなってしまうので分割しました。逆に後半短くなりましたが。
先進国故に娯楽が充実しているという感じです。
デートスポットとしても人気です。




