プロローグ
肌寒くなってきました。
いかがお過ごしでしょうか読者の皆さま。
某ウィルスが世間を騒がせていますが、インフルエンザ等の既存ウィルスにもお気を付けください。
色々と時間がかかりましたが、
【宍国】同盟編はじまります。
……作者は燃え尽きそうです。
今回は登場人物多めです。今までの二倍以上名前のあるキャラが登場します。
各話の後書きでまとめますのでご容赦ください。
――突如【宍国】から届いた同盟打診の手紙。
文面で提示された「一紗を嫁に欲しい」という同盟条件は【愁国】の将達を荒波に呑みこんでいた。とりわけ怒りが大きかったのは一紗を慕う鎧兜と蕾華の二人である。
「弟の分際で兄の女を欲しがる奴があるかァ!?」
「お前の女になった覚えはないが……?」
「皇子だか領主だか知らないけど、私の一紗さまの貞操を狙うなんて万死に値するわ!」
「「戦争だ(よ)!!」」
二人は今すぐにでも殴りこみに行きかねない勢いだった。
そんな彼らの肩を掴んで座らせるのは貴従兵将軍の雷・龍宝である。
「落ちつけ、二人共。惡姫一人で強国と友好関係が結べるなら安いものではないか」
「はぁ!? 龍宝ったら一紗さまを人心供養にしようってわけ!? そうね、一紗さまがいなければ堂々と美鳳口説けるからね!」
「め、美鳳様は関係ないだろう! そもそも俺の姫様への想いはそんな下心では決してなく! と、とにかく皇子が惡姫のどこを気に入ったかは知らんが、めでたいことではないか」
「スカしてんじゃねーぞ童貞野郎! 姉御の良さが分からんとはキ●タマ捨てちまえ!」
このままでは収拾がつかなくなると懸念した美鳳が引き留め側に回ることにした。彼女自身も傍盾人を嫁に寄越せと言われて反抗心を燃やしてはいたが、自分が反対派を表明すれば大義名分を得た鎧兜と蕾華が益々戦争へと舵を取りかねなかったためである。
「まぁまぁ。相手はこちらに敵意を抱いていない訳ですし、同盟の話は吟味してみましょう。一紗を輿入れするかは置くとして、条件のすり合わせは後からでもできますし」
美鳳のとりなしに一同は少々落ち着きを取り戻した。
冷静になったことでおかしな点を指摘する余裕が生まれたのだ。とりわけ一紗が疑問に思ったことは【宍国】が嫁候補に自分を指定したことであった。
「つーか、なんで俺なんだ? 嫁候補なら蕾華が適任だろ」
「へっ!? まさか一紗さま! 寝とられ趣味持ちなの!?」
「違うよ!? でも考えてもみろよ。こん中じゃ蕾華を欲しがるだろ。美鳳は領主で実妹だから娶るのは無理だし、俺なんて出自も分からん小汚ねぇ娘なんだぞ? 少なくとも俺が相手の立場なら蕾華を指名する。美人だし《杜族》の血を迎えれば諸侯にアドバンテージとれるし」
「一紗さまぁ、美人の私を娶りたいなんて……。私はいつでも準備万端よ~」
蕾華は都合のいい部分だけ切り取って上の空になっていた。先程までの怒りはどこかに飛んで行ったらしい。
「一紗の言いたいことは分かります。ただ……手紙の文面から察するに兄上は【寥国】を訪れた際に貴女を見染めたそうです。馬車が野党に襲われた際に助けられた、と」
言われて一紗は思いだした。確かに雅な車を盗賊から守ったことがあった。
「身分の高いヤツが乗ってるとは思ってたが、まさか領主本人が乗っていたとは……」
あの時は感謝の意を伝えられただけで容姿を褒められたり好意を向けられたりされたことはなかったはずだ。単に奥手だったのか、別の狙いがあるのか判断できなかった。
「分かったぜ! 姉御を奪うことで【愁国】の戦力を削ぐ狙いだ! そうに違ェねェ!」
「【宍国】は軍事国家だ。我々の戦力を削ぐという目的は考えにくい。傍盾人を美鳳様から離して暗殺を狙うという方がまだ現実的だと思うが」
「案外、一目惚れしただけかもしれないわ。一紗さまは綺麗だし……。【宍国】の領主はいけ好かないけど、目は良いみたい」
皆が皆、相手の思惑を議論し始める。彼らの言葉の中に正解があるのかもしれない。
だが相手のことをよく知らなければ議論ができないと考えた一紗は一番情報を持っていると思われる美鳳に尋ねてみることにした。
「そもそも【宍国】の領主ってどんな奴なんだ?」
「名前は紅・赦鶯。《巫族》の血を引く第二十六皇子ですね」
《巫族》とは、封印術に長けた氣巧術を扱う民族らしい。彼らの多くは妖魔を使役する術を習得しており、戦闘では相方となる妖魔と抜群の連携を見せるというのだ。
「同じ《巫族》の中でも使役する妖魔の系統は異なるらしいですね。狼型や爬虫類型、飛竜種等、一族によってバラつきがあります。中には種族に拘らずに強い妖魔を捕獲して使役する者もいるみたいですが……」
「妖魔を使役するってーと、【慶酒】を乗っ取ろうとした宋みたいなもんか?」
「比較対象が違いますね。宋・芳幸は妖魔を催眠状態にして一方的に操っていましたが、《巫族》は妖魔と信頼関係を築いて使役します。故にその連携は凄まじく厄介です」
一紗は以前の世界における鷹狩や犬を使役した狩猟を思い出していた。要は猛獣使いのスケールを大きくしたものだと解釈したのである。
「氣巧術に長けた術者と躾けられた妖魔。どっちも厄介だぜ。俺も《巫族》と闘ったことはあるが無事じゃすまなかったしなァ」
「そこいらの妖魔使いとは比較にならん。だから《巫族》の集まった【宍国】は軍事国家として知られ、【寥国】も侵攻しなかったのだ」
「民族の特徴はおおよそ把握できたが、紅・赦鶯の人柄はどうなんだ?」
「兄上は好戦的な性格ではないですね。どちらかというと温和です。ただ……」
「……ただ?」
「無類の女好きと有名でして、既に側室が十人いるという噂があります」
「「殺す」」
相手が下心丸出しと考えた鎧兜と蕾華は再び殺気を剥き出しにしてしまった。二人の猛者の発する氣は重圧のようにのしかかってくる。鎧兜は顔の古傷が開くほど出血しているようで兜から大量の血が流れ出ていた。蕾華は手に持つ樹杖が殺人的な形状に変貌させてしまっている。
「落ち着いてください。この間【寥国】との戦争が終わったばかりです。相手は軍事国家、軽率な行動は慎むべきです」
「じゃあ美鳳は一紗さまを嫁がせてもいいって思ってるの!?」
「そうは言ってません。適当に時間を稼いで相手の目的を探り、同盟の代替条件を模索します。一紗もその方がいいでしょう?」
「いや、俺はこの話を受けた方が良いと思う」
「ええ、そうです……へ!?」
絶句したのは美鳳だけではなかった。一番文句を言いそうな本人の口から嫁入りを承認するような言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「一紗さま、自分を安売りしちゃダメ! 相手の財産や社会的身分に目がくらんで結婚を失敗した女性は何人もいるのよ!? 貴女は私がお嫁さんにもらうから!」
「そうだぜ、姉御! 男が良いってんなら俺だって――」
「惡姫も花嫁に夢を見る女子だったというわけか……」
「好き勝手言ってるな……お前ら。俺は本気で嫁入りするつもりはねーよ。ただ、相手の懐に飛びこまねーと分からんこともある。俺が直々に行けば向こうの狙いも分かるだろ」
要は嫁入りを隠れ蓑にした諜報員になろうという提案だった。確かに間近で接触することで相手の思惑を推察できるかもしれない。【宍国】の領土に入ることで相手側の戦力の分析もできる上、戦争になったときのために攻めやすい場所の目星をつけることも可能だ。
「即却下できない有益な案ですね。すぐの婚姻ではなく、まずは嫁入り先足りうるか吟味するために仮入国したいと伝えれば向こうも手荒なことはしないでしょう」
「いくら姉御でも危険すぎる。【宍国】との関係が悪化すれば一人で軟禁されることになりかねん。何かあった時に対処できねェぞ」
「だったら、私が行く! 姫には侍女が付きものでしょ? 何かあった時は私が一紗さまを守るから! 【寥国】攻略の時は最後しか一緒にいられなかったし……」
「蕾華なら安心ですね。惡姫の護衛として申し分ないですし、《杜族》相手に無礼は働かないでしょう」
一紗の外遊は【宍国】調査の裏目的を隠して実行されることになった。
「婚姻は同盟の手段だけでなく互いの意思を尊重したい。輿入れするかは白紙とし、まずは一紗をそちらに外遊させたい」といった旨の内容の文を送ると、すぐに快諾の返事が届いた。
一先ず外遊(観光)という名目で【宍国】へ向かう一紗。
今回のパートナーは蕾華がメインですね。




